見出し画像

悩みの解決は自分の「歪み」を知ることからはじまる-心を使いこなす技術④

前回の記事では、ストレスに強いと思われている人も実は悩んでいること、大切なのはストレス状況に「いかに対処できるか」だという話をしました。それと関連して、ストレス状況に対して「認知と行動だけが変えられる」「状況、気分・感情、身体反応は変えられない」という重要なポイントに触れました。

ここはよく理解しておくべきところなので、第2回の記事で挙げた私の例を使いながらさらに詳しく説明したいと思います。

海外出張を月曜日に控えた土曜日の夜8時。私はプレゼン資料を完成させられず苦悩しています。

けれど、月曜日に迫った海外出張、という状況を「消すこと」はできません。さらに、出張を目前にしながら必要な仕事を完成させられていない、という「起きてしまった」ことは、それをいくら後悔しても変えることはできない。

そして、この追い詰められた状況で、不安が湧き上がり(感情)、心臓がドキドキする(身体反応)ことを「自分の意志」で止めることもできません。前回で例に挙げたように、屈強なラグビー選手であっても、試合前の恐怖を消すことができなかったことからも、この点はよく理解できると思います。

一方で、認知や行動は自分の意志で変えることができます。この例で私は「なんでこんなことになったんだ。早くやっておけばよかったのに」と絶望してしまっていますが、もしここで「ちょっと待てよ、まだ日曜日もあるし、最悪飛行機の中で仕上げればいいか」と考えられるとしたら状況は全然違ってきます。

後者のように「認知」することができれば、状況は一転して「対処可能なもの」になります。その結果として、「やばいやばいと部屋の中をぐるぐる回る」という無意味な行動を取るのでなく、「まあ明日やれば良さそうだな。今日はもう疲れたしさっさと寝てしまおう」といったように問題解決に繋がる行動を取ることも可能になります。

そして、ここが「ストレスに強い人」と「弱い人」を分ける最大のポイントです。本人が意識していなくても、ストレスに強い人は「認知と行動」にアプローチして、ストレス状況を適切に捉え、解決に繋がる行動を取っていくことができているわけです。

自動的に湧き上がってくる考えに目を向けてみる

ただ、ひとくちに「認知と行動を変えれば良い」とは言っても、うまくできない人からすると本当に難しいことです。私が15年間悩み苦しんでいたのも、ストレス状況に置かれた時に、ネガティブな感情の渦に巻き込まれて何もできなくなってしまう、という負のループが原因でした。

では、具体的にどうやって改善していけばよいでしょうか? そこで重要となるのが「自動思考」と「認知の歪み」という臨床心理学の概念です。自分の心のもつ傾向をこの二つの概念から紐解くことが、解決への一歩となります。

まずは自動思考から説明しましょう。自動思考とは「Automatic Thought」の日本語訳で、ある状況に対して「自動的に」湧き上がってくる考えやイメージのことです。

私の例で言うと、資料の準備がうまく進んでいないことに対して、それだけですぐ「絶望」し、なんでこんなことになったんだと「後悔」する、という認知がまさに自動思考でした。この「絶望と後悔」はこの例に限らず、毎日の仕事や私生活のさまざまな場面で「すぐ」湧き上がってくる考え方でした。

例えば上司や同僚から間違いを指摘されると、「こんなこともできないなんて本当に情けない。なんでもっときちんと準備しておかなかったんだ」と「反射的に」思ってしまい、そのまま落ち込んでなにも手につかなくなることがよくありました。

また、友人が華々しく活躍している話を聞いた時も「彼に比べて何も達成できていない自分はなんて惨めなんだ。これも大学の時からずっときちんとがんばれなかったからだ」とやはり「絶望と後悔」に苛まれることがよくありました。

自動思考というのは、ネガティブなものだけを指すのでなく、ポジティブなものも含むのですが、私のような悩みやすいタイプの人は、これらの例のように自動思考がネガティブなものになりがちです。ちょっとしたことで絶望したり、過去の行動を延々と後悔し続けてしまったり。そこにはネガティブ思考のクセや傾向があります。これを認知行動療法では「認知の歪み」と呼びます。

自分の「歪み」を知るところからはじめよう

認知行動療法の創始者であるアーロン・ベックの弟子であるデビッド・D・バーンズは、その著書でこうした「認知の歪み」のパターンを10個に整理しています。

① 0か100か思考
物事をすべて白か黒かで捉えてしまい「中間」を考えられない
例:上司にあんなに怒られるなんて「もう終わり」だ
② 過剰な一般化
根拠や経験が不十分にも関わらず過剰に一般化をしてしまう
例:私の出した企画なんて「絶対」うまくいかない
③ 心のフィルター
物事の悪い面ばかり気になり、良い面に目を向けられない
例:提案でお客様からネガティブな指摘があった。もう失敗だ。
④ ネガティブ思考(ポジティブの否定)
うまくいっていることもネガティブな視点から捉えてしまう
例:提案通ったけどしょせん小さな金額だし「価値なんてない」よな
⑤ 結論にすぐ飛びつく
人の断片的な行動や発言から相手の気持ちを決めつけてしまう
例:さっきの会議で同僚は不満そうだったな。「絶対」嫌われてしまった。
⑥ 拡大解釈と過小評価
失敗などネガティブなことは過剰に、成功などポジティブなことは過小に捉えてしまう
例:先月は営業成績1位だったけど「まぐれ」でしかない
⑦ 感情的決めつけ
自分の感情だけを根拠にして物事を決めつけてしまう
例:不安がずっと消えない「から」明日のプレゼンも絶対失敗する
⑧ すべき思考
状況に関係なく自分で考えた基準を絶対視してしまう
例:20代のうちに大きな仕事を「すべき」だったのに、なにもできなかった
⑨ レッテル貼り
過去の行動やイメージからネガティブなレッテルを貼ってしまう
例:またプレゼンで緊張してしまった。自分は本当に「使えないやつ」だ。
⑩ 個人化
必要以上に自分に責任があると考えてしまう
例:今回の契約解消は「全部自分のせい」だ。みんなに申し訳ない。

昔の私はまさにこの10個のパターン全てが当てはまっており、その認知は歪みまくっていました。いま振り返ると、よくそんな状況で毎日を過ごしていたなと思うくらいです。

なので、この10個をはじめて見た時は、変な話ですが、正直ちょっとほっとしました。「自分はどうしてこんなに悩んでしまうのだろう、みんなはそんなことないのに」と苦しんでいた頃の自分にとっては、こうして悩みが一般化され、リスト化されたものを見ると「もしかしたら他の人も悩んでいるのかも」と思えたからです。

ここはとても重要なポイントで、「認知の歪み」があることをネガティブに捉えないことが大切です。

というのも、認知の歪みを「可視化」して、自分のクセや傾向を知る。その上でストレスへの「対処法」を身につけていくことが課題解決の根幹になるからです。

これはビジネスにおいても同じですよね。売上が伸びない、離職者が多い、といった経営課題の背後には必ず組織特有の「歪み」が存在しています。

でも、その歪みが存在することに悩むのでなく、歪みを正しく認識することで、営業戦略の再構築や組織のミッションの再定義、といった解決策につなげることが可能になります。

なので、「自分は歪んでるのかあ…」と悩むのではなく、それを正しく認識することが解決策に繋がるんだ、とぜひポジティブに捉えてみてください。

次回は「コーピング」と呼ばれる、ストレスにどう対処していくか、という方法論に具体的に入っていきます。楽しみにしていて下さい!


MYCOPING(マイコーピング)では、悩みがちな方に対して、「予防」として認知行動療法に基づくカウンセリングを受けて頂くサービスを提供しています。ぜひお気軽に「無料相談」をご予約くださいませ。

★ボーナストラック★

「認知の歪み」という概念を知った時のある種の開放感について書きました

ここから先は

659字

雑感

¥800 / 月

日々考えていることを書いています

記事を楽しんでいただけたでしょうか。シェアいただけたらとても嬉しいです。