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『レーズンパン』

『レーズンパン』【超短編小説 076】

毎週日曜日の朝は、焼きたてのレーズンパンを買う。あなたの好きなレーズンパン。

朝食が白米とお味噌汁の時は仏頂面で、おかわりもせずに「ごちそうさま」というあなた。レーズンパンの朝は機嫌よく、3枚食べても食べ足りないとわがままを言うあなた。

家にレーズンパンを切らしたことは無い。今朝もレーズン入りの食パンを二斤買ってきた。もうあなたは居ないのに。

離婚して一年。あなたと一緒の生活で習慣になっていったいろいろなことが消えていった。

それでもやめられない習慣。別に戻って来て欲しいわけでは無いし、見栄を張っているわけでもない。なんとなくバランスを保つために必要なこと。

再婚の知らせをよこすような自分勝手なあなたに未練は無い。返信した「おめでとう」の言葉は自然に出てきた言葉。「今度は裏切らないように」の言葉は、余計なお世話だから消して送らなかった言葉。

あなたはこんなわたしをどう思っているのですか。毎週、変わらずにレーズンパンを買いに行くわたしのことを。

やめた方がいいですか。なんとも思っていないですか。やめてくれと言われたら、もうレーズンパンを買いには行きません。わたしだって、もう買いたくないから。

それでも、わたしは買いに行く。焼きたてのレーズンパンを。あなたがレジを打つパン屋へ。

レーズンパン01

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