生真面目なスナフキン(2024/2/17 ukka 茜空生誕ソロライブ「21 -百花繚乱-」)
(※以下の文中、敬称略で失礼します)
「すみません、客席の照明をあげてもらえますか?」
アンコールに用意した4曲もすべて歌い終わり、ステージ上から、茜空が珍しくスタッフにお願いを出した。
MCのため、びっしりと書かれた手元のメモから目をあげて、ぐるっと会場を見渡す。
そんな風にして、茜空にとって3回めの「生誕ソロライブ」は終わっていった。
ほどなく、ゆっくりと下手の舞台袖に消えていく茜空。
「ずっと、この会場で生誕ライブをやりたかった」そう言っていた割には、思いのほかあっさりと袖にはけていったようにも見えた。
セットリスト
《会場BGM》
シスター - フィロソフィーのダンス
ささやかな祝祭 - sora tob sakana
君に叱られた - 乃木坂46
SHIBUYA TSUTAYA前で待ち合わせね! - 超ときめき宣伝部
何なんw - 藤井風
夢幻クライマックス - °C-ute
《セットリスト》
M1. 仮契約のシンデレラ - 私立恵比寿中学
M2. 小生意気ガール - カントリー・ガールズ
M3. ミライボウル - ももいろクローバーZ
M4. ガールズナイト - ukka
M5. 愛のレンタル - マカロニえんぴつ
M6. 黒い羊 - 欅坂46
M7. アルジャーノン - ヨルシカ
M8. 鼓動 - タイトル未定
M9. 明日テンキになあれ - こぶしファクトリー
M10. 夜明けbrand new days - ベイビーレイズJAPAN
- アンコール-
EN1. 恋は走り出した - Dorothy Little Happy
EN2. 無敵のビーナス - ばってん少女隊
EN3. U.B.U - 私立恵比寿中学
〜撮可タイムBGM : マツケンサンバ - 松平健〜
EN4. 僕らのハジマリ - 桜エビ〜ず(ukka)
東京キネマ倶楽部
東京キネマ倶楽部は、もともとグランドキャバレー(*)として営業されていた店舗を、原形は残した上で、一部だけ改装してライブハウスに転用した経緯があるそうだ。
(*) グランドキャバレー : 広いダンスフロアと生バンド演奏などを特徴とした、スタッフによる接客をともなう飲食店。昭和30年代から昭和40年代に最も流行した業態。
「ステージをとり囲んでいる幕の色に、位置によってちゃんとバリエーションがあったり、会場後ろの壁の色にも雰囲気があるし、階段上のテラスがステージになって使えるのも素敵」
平成生まれのアイドルにとっては、すべての昭和の雰囲気が、レトロかつカッコいいものにうつるのかもしれない。
2019年12月、tipToe.とのツーマンライブで初めてこの場所に立ったときから、茜空はこのライブハウスに魅せられ続けたという。
それから2年余りが経ったころから、この場所で生誕ソロライブをやることが目標であることを、折にふれて公言するようになった。
「今年は、去年までとは違う見せ方にできたらと思ってます」
その宣言通り、過去2年がぶんぶん肩を回しながら撮った長編ドキュメンタリーだとすると、今回はさながら、肩の力を抜いてコメディ要素も取り入れて作ってみた、3遍のオムニバスだった。
そう、何よりも茜空自身の肩の力が抜けているように感じた。
青いドレスは期限付き
自作のOPV映像とともにスタートする、いつものスタイル。
ただ、今回は前2回とはどうにも様子が違っていた。
その映像の主役兼語り部は、茜空自身ではなく、茜空のそばにいつもいるパンダのぬいぐるみ(が魔法で大きくなって喋るようになった大人のパンダ)だった。
その語り部のパンダによる、メタ視点からの茜空像が、いつもより「人間くささ」の割合が大きい気がして、今から出てくる主役に、余計に”コミカル”な味を期待してしまう。
階段上のテラスに『仮契約のシンデレラ』イントロとともに登場したのは、ブルーの”お姫様”衣装をまとった茜空だった。
優雅に階段をおりて、今日の主役はゼロズレに立とうとしている。
2024年、新体制7人でスタートを切ったukka。
茜空は村星りじゅとともに、最上級生学年となった。
ぼんやりしていると、蹴散らかされてしまうお姉様の方に入ってきているのかもしれない。
新体制お披露目ライブを終えてすぐ、新たなデザインのメンバー名前入りTシャツが発表された。
メンバーの名前の下に、小さくそれぞれのキャッチフレーズが添えられている。
誰が考えたのやら? 茜空には、”宇宙人” “自由人”という言葉が添えられている。
“太陽”も、”かわいい”も、”笑顔”も、全部他のメンバーに譲ったのに、自分がまとうフレーズが2つあるのがなんともこの人らしい。
ukkaのステージを見るたび、茜空のパフォーマンスに魅せられるのは、いま目の前で動いている肉体で二度と同じものが再現されないんじゃないか。そんな焦燥に駆り立てられるからだと思う。
ときにukkaの持ち曲を歌っているときも、いろいろな「段取り」を壊す側に立っていることがある。
ただ、それは単に「勝手きまま」「思いつくがまま」というのではない、受け取る相手を見つめた上での、彼女なりの決められたステップを踏んでいるようにも思う。
これまでの2回の生誕ソロライブでは、MC・進行にまごつかないよう、A4のメモ書きを几帳面に綴じたクリアファイルを片脇に抱えていた。
今回のライブ、自グループ以外の楽曲をより魅せるためもあるのか、体重を3キロ絞ったとも語っていた。
予告編も兼ねて公開された、17のTikTokを撮影するために、自分でスタジオを何日か続けて借りたらしい。
自由人は、そんな真面目でストイックな部分を同居させている。
気づくと『仮契約のシンデレラ』はショートバージョンで終わり、大好きだと語る『小生意気ガール』、『ミライボウル』と計3曲歌ったところで、いったん袖に引っ込む。
自作映像の続きがその場をつなぐ。
狂言まわしのパンダが、引き続き、どこかしら抜けた茜空の日常をユーモラスに語っている。
そのパンダの名前は、熊田と言うらしい。
僕だけがいなくなればいいんだ
転換映像が終わり、薄暗い照明のなか、しばしの静寂が訪れる。
『ガールズナイト』のイントロとともに、黒を基調にした衣装で、茜空が再びステージに登場した。
一瞬、会場を、もう一枚の闇の膜が覆った気がした。
3年前、18歳の誕生日当日。
自身のフィーチャー曲は、真っ白な「WINGS」ツアー衣装で初披露された。
まだ雪が残る札幌で、その日だけはひとり頭にティアラをのせて、ZEPPのステージを狭しと駆け回っていたとき、そう、そのときの茜空は、紛れもなくukkaの太陽だった。
薄暗い照明のもと、下手に一本のスタンドマイクを取りに行く姿が見える。
『愛のレンタル』だった。
かつて、柏木ひなたや真山りかも自身のソロライブで歌った、マカロニえんぴつによる曲は、本家エビ中のディーバと比べると、どこかしら儚はかなげにも聞こえたけれど、
必死に音に喰らいつく表情に垣間見えた「闇」は絶品だった。
あえてこの曲にチャレンジしようとした意図が、薄暗い会場の照明に少しだけ見えた気がした。
続いて、耳なじみのない曲が流れ始める。
ピアノの旋律が緊張感を煽りながら駆け上がっていくイントロ。何か届かないものに手を伸ばすかのように、いつになく早口で歌が続いていく。
いつの間にか赤い花束を抱きかかえ、1人でステージの左右を駆けずりまわる茜空の姿。
終演後、その曲の名前が『黒い羊』だと知った。
この曲のMVでは、主人公(平手友梨奈)が、”自分の絶望を共有しようとするも” 次々に仲間から拒まれる様子が描かれる。
今日ここのステージにたどり着くまでに、いくつの善意と悪意に相対したんだろう?
まわりの人から抱擁を拒まれるたび、心の中にいくつの闇を負うことになったのだろう?
茜空は、(MVでの演出とは異なり) 1番を歌い切ったあと、その花束をひらりと足元に落とした。
その動きには、何か不自然ともいえる意図が感じられた。
2019年5月、欅坂46の武道館ライブで、この日限りのアンコールとして歌われた『黒い羊』では、(これもMVと異なり)曲のラストで、平手友梨奈は小林由依に花束を渡して、一切の抱擁も受け入れないままその場を去るという演出だったそうだ。
その花束が、小林の手でそっと床にたむけられた瞬間、ライブのエンドロールがゆっくりと流れ出したそうだ。
そんな演出との、偶然の符合だろうか?
平手友梨奈は、絶望を抱えたまま、心(彼岸花)を置いたまま、”向こう側”へ行ったという。
2番の途中で、茜空は花束をもう一度拾い上げた。
そうか、そこには明らかに何らかの意図がある。
いささか野暮ではあるが、この意図を本人に質問してみた。
2月という季節柄、MVで使われていた彼岸花は手に入らず、花束にはガーベラを使ったそうだ。
ガーベラの花言葉が「希望」「前向き」「常に前進」と知ったときに、自分のソロパフォーマンスでは、一度落とした花束をもう一度拾うという、”次に/未来にポジティブにつなぐ”演出にしようと考えたのだという。
そう、黒い羊は、心(花束)を投げ打ってまで、白い羊の群れに同化したいというわけではなかったのだ。
茜空が次に選んだ曲は、ヨルシカ『アルジャーノン』だった。
この楽曲が作られたきっかけとなった、随分むかしのダニエル・キイスの小説(アルジャーノンに花束を)で、花束が実際にたむけられる記述はない。
茜空にとって、いつだって暗闇に光をくれるのは、「見てくれているみんな」なんだという。
歌い終わって、もう一度、茜空は袖に引っ込む。
しんがりから届けたい歌、届けたい言葉
みたびステージに登場した茜空が選んだ曲は、タイトル未定の『鼓動』だった。
間奏で、ステージ真正面に出て、セリフで「届けたい言葉があります!」と優しい笑顔で観客に念を押した。
それはオリジナルにはないアレンジだった。
そして、数週間前に、
「解散したグループの楽曲を」
「誰でも知っていると思うよ」
と、ほんの少しだけ匂わされていた『夜明けBrand New Days』
2018年、解散ラストライブでのパフォーマンスが、半ば伝説化しているベイビーレイズJAPAN。
そのライブからほどなくして、スターダストの対バン(スタプラ東京)で、ユニットの一人として歌った思い出の曲でもある。
去年までだったら、この曲を歌うことの意味合いに、自分は、どこか終わりへのカウントダウンを勝手に感じ取っていたかもしれない。
なぜか今年はそれよりも、物語を一生懸命につないでいる姿の方に目を奪われた。
このあとのMCで茜空は、今後のukkaについて、自分の立ち位置について話をした。
そんな、いつまでも聞いていたい”アドリブ”だった。
自由人の本領発揮だった。
でも、たぶん、ホントに彼女が言いたいことは、このあとにひっそりと忍び込まれた。
『夜明けBrand New Days』は、解散・終わりの歌なんかじゃなくて、タイトルの通り、1日の始まりを示唆した歌だ。
ラストのフレーズを気持ちをこめて、かつ、気持ちの昂りをおさえられない様子で歌う茜空。
次のストーリー 私のストーリー
熱気がこの日最高潮に達したところで、唐突に『仮契約のシンデレラ』が途中から流れ出す。
そっか! 一曲目の『仮契約のシンデレラ』が途中でぶったぎられたのは、そういうことだったのか。
曲が止まる。
大げさに倒れこんでみる。
楽しいなあ。
「普通の女の子」というフレーズは、たしか2年前に茜空が生誕ソロライブのMCで触れていたような気がする。
芸能活動を続けていく上で、自分自身がなにかに特別ひいでているわけではない、だけれども、周りの人たち・ファンの人たちに恵まれてここまでやってこれた、そして続けていけるという意図だったような気がする。
今日、観客席には、ukkaとしての活動とはまた別に関わっている人たちの姿があった。
等身大の20歳の女性として、学生生活の中で出会った人たち。
あるいは縁あってこのライブにいろんな彩りを加えてくれた人たち。
映像に出てきたパンダ”熊田”の声を担当してくれたのは、そんな友だちのひとりだったらしい。
あるいは、このライブをバンドセットにできないかと相談して、実際にukka楽曲のバンドアレンジのスコアを作成して、実際に録音してくれた友だちもいたらしい。
アイドルとしてのだけではない、いろんな側面の茜空に魅せられた”我ら”。
茜空不在のステージと、取り残された我ら。
いったん椅子に全員が着席する。
去年の生誕ソロライブでは、アンコールブロックはなかった。あるいは、今年ももしかして?
普通の女の子のシンデレラタイムは、それは見事な演出で、何かを挟む余地はなかったけれど、それにしてもあまりにもあっという間に過ぎていやしないか?
半ばあっけに取られながら、会場では「アンコール」の掛け声はおろか、手拍子も起こらず、不思議な沈黙が30秒近く続いたように記憶している。
客電は薄暗く落とされたままで、沈黙を破る不粋な場内アナウンスも流れなかった。
キョロキョロとまわりを見渡すと、最前列から、あるいは3列後方から視線を感じる。
その場に座ったまま、何かを待ち続ける観客。
そんな様子を見ていたら、急に何かに突き動かされるように、「そろそろ我らも立とうや」強くそう思った。
そこにいるけどいないような
今にもどっかにいっちゃいそうな
そんな人
アンコールの歓声に応えて、その人はとびきりの笑顔でステージに戻ってきてくれた。
思いのほかはやく、もしかすると、すぐそばでアンコールが起こるのを待ちわびていたかのように。
事前配信で、
「解散したグループさんの曲を何曲かやるよ」
「以前にspotifyで公開したプレイリストの中からやるよ」
『恋は走り出した』だった。
イントロからはやくも、会場の「オッオッオッオー」のシンガロングがひとつになる。
今さらながら、この3年間で初めての客席が声出しのできるソロライブだと言うことに気づかされる。
アンコールは続く。
聞き慣れたイントロに、ふと我に帰る。
あれ?なんだっけ?あれ?
ばってん少女隊の名前を思い浮かべるのに、なぜか何十秒もかかった。
何度となくその振付、とりわけスカートさばきに魅せられた『無敵のビーナス』
よおし!…てあれ? 今日パンツスタイルやないかい!
おいおい、お願いしますよ!
こちらのことを見透かしたかのように、少しだけ悪気のある笑顔で、「ばってん少女隊」「だあ!」のガッツポーズを曲終わりに決める茜空。
アンコールはさらに続く。
さっきまであるだけ悪気をおびた表情だった茜空は、なんのことでしょうという顔で『U.B.U.』を歌う。
等身大の女の子は、等身大のやわらかな笑顔でそこにいる。
ステージのあちこちに散りばめられた小物とともに、私の世界へようこそと手招きせんばかりに。
アンコール3曲を歌い終えて、この日唯一の、そして最後のMCパートで、満面の笑みを浮かべながら、ユーモラスに茜空本人が語り始める。
君が君で 僕が僕の 答えを見つけたい
今日のステージのひとつひとつに意味を込めたことを語る茜空。
と、唐突に、
そんな人。
撮可タイム、オフボーカルで小さめに流れる『マツケンサンバ』に合わせて、上手に下手にと動きが忙しい。
動く、止まる、ポーズをとる。
動く、止まる、ポーズをとる。
気がついたら、いつしか客席は、『マツケンサンバ』のシンガロングになっていた。
関係者席では,村星りじゅがそれに合わせて踊っていたらしい。
一体なんやねん。情緒は?
「最後の曲は、桜エビ〜ずの曲をやります」
「なんだと思う」
わざわざ”桜エビ〜ずの”曲をと言った意味。
そこに深い意味はないのかもしれないが、普段はそんな言い方をあまり聞くことがない。
“ukkaの”もしくは”桜エビ〜ず時代の”ということがほとんどな気がする。
MCで語ったことは、これからのukkaについてと、8年超アイドルとしてやってきた中で、来てくれたお客さんのことについても触れていた。
最後の曲は『僕らのハジマリ』だった。
ふたたび会場が一体となる。
いまのゆうこはの歳頃合いの頃から茜空を見続けている観客も、高校生の感情渦巻く「宇宙人」だった頃に魅せられた人も、そして大学生活を一緒に楽しんでいる友人も。
もうすぐ21歳になる「今日の主役」に、みんなが今日一番の笑顔を向けている。
思わず茜空が「客席の電気をあげてほしい」そう言い出すくらいには、熱を伝えられただろうか。
終演。
茜空が後にしたステージには、彼女がひとつひとつ丁寧に用意した小物が残されていた。
ティアラ、CD、メイク道具、折り紙のチューリップ、『黒い羊』でそっと床に置かれた彼岸花。
「自分の世界観を表現したい、みんなに見てもらいたい」
そう言って、長い時間をかけてステージに用意したものは一切持たず、身一つでステージを去っていった。
それは、さしづめ、リュックひとつだけを持って旅に出ていくスナフキンのようだった。
「目の前にいるこの人は、いつかいなくなっちゃうかもしれない」
過去2年と違って、今日のライブでそうは思わなかった。
またすぐに会えるさ。ここで待っていれば。
今年もまた、素敵なライブをありがとうございました。
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