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虎に翼 第25話

最初から最後まで、清き水がさらさらと流れるような第25話だった。

「主文。被告人らはいずれも無罪」
「検察側が提示する証拠は自白を含め、どれも信憑性に乏しく(略)本件において検察側が主張するままに事件の背景を組み立てんとしたことは、あたかも水中に月影を掬い上げようとするかの如し」
「即ち、検察側の主張は証拠不十分によるものではなく、犯罪の事実そのものが存在しないと認めるものである」

美しい、そしてきっぱりとした判決文である。
水中に月影を掬い上げようとする……書画などで目にすることのある、

「掬水月在手 弄花香満衣」
(水を掬えば手のひらの中に月があり、花を手に楽しめば、その香りが着物に移り満ちる)

静かな心で豊かな自然を賛美する禅語が、検察の横暴を指摘する厳しい言葉に組み込まれている。脚本は、共亞事件裁判のモデルであろう帝人事件裁判の裁判官・石田和外の起案した判決文を取り入れた。
いまどきは検索すれば出てくる言葉ではあるが、それをドラマと共に、実のある言葉、響く名文として届けてくれたキャストと制作陣にお礼を言いたい。

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猪爪家でささやかなお祝い。直言(岡部たかし)が4か月ぶりに帰宅した時には家族が絶望に包まれてしまい、せっかく書いたのに出番がなかったであろう、直明(永瀬矢紘)のお祝いメッセージは改めて書いて貼られ、今度こそ皆で楽しむことができる御馳走が並べられ。

直言「トラ(伊藤沙莉)。父さんの言うことを信じないでくれて、ありがとう。トラを明律に行かせて良かっただろ」

ようやく、直言に冗談を言う余裕が出てきたようで……猪爪家と共に笑ってしまう。
そして、台所ではるさん(石田ゆり子)に差し出される映画チケット2枚。
これまで張り詰めていた気持ちが一気に解れて、泣き出すはるさんと優しく抱きしめる直言。
家族一同が、はるさんの泣き声が響いてくるのを微笑みながら流して、それぞれにお酒を酌み交わしているのがいい。夫婦の邪魔をするのも、覗くのも野暮。だってみんな、わかってるんだもの。どれだけ嬉しいか、どれだけこれまで苦しかったか。

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穂高先生(小林薫)と桂場さん(松山ケンイチ)も祝杯を上げている。

「あいつらは私利私欲にまみれた、きったねえ足で踏み込んできやがったんですよ」「司法の独立の意義もわからぬクッソ馬鹿どもが」

桂場さん、お酒が入ると口が悪くなるタチらしい。しかし言わんとするところは理解できる。そして思う、いまの日本で司法の独立は守られているか。

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ついに、桂場さんが甘いものを!甘いものを口にできた!
おめでとうございます……もしかして、裁判の結果が出たり物語で一区切りつかないと食べられない縛りとかできてないだろうか。気の毒。

「法律は(略)きれいなお水が湧き出ている場所というか。私たちは、きれいなお水に変な色を混ぜられたり、汚されたりしないように、守らなきゃいけない。きれいなお水を正しい場所に導かなきゃならない」

本日、5月3日は憲法記念日である。
私たちの国の法規範はどうか。水が命と生活の維持に欠かせぬのと同様、法律も命と生活を守り営むのに不可欠だ。曇りなく澄んでいるか、必要とするひとたちのもとに届いているか。目を離したり、疎かにしてはならない。
そんなことを考える回だった。

次週予告はちょっと切ない。みんなとお別れ
……それにしてもテンポがよく年月が流れる。物語の大きな山は、虎に翼が真に描きたいことはこれからということか。次週も、寅子とみんなを応援する。

(つづく)


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