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カルトの勧誘を聴こう

 寝不足によって頭痛と耳鳴りがひどく、ロキソニンで相殺したものの、不眠由来の痛みに逆らう意味はあるのだろうか。だったら身体のシグナルに従って眠ればいいのにと理解しつつ、締め切りや打ち合わせが許してくれない。
 というわけで眠らずに作業をするため朝の喫茶店へ。幸か不運か、目の前の先では絶賛カルト宗教の勧誘中である。彼らからしてみれば奇跡的な出会いといったところか。


 普通の主婦二人へ「チャンネルの重要性」について力説するビシッとした高そうなスーツのおじさん・おばさん二人組。「人は外へ向かってチャンネルを広げれば広がるほど同時に運気を吸い込むことができるのに、チャンネルを開かないのは損だ」、なんとわかりやすくスピリチュアルであろうか。
 おじさん曰く、現在最もチャンネルを開いている人間の例は大谷翔平らしい。このように怪しい団体からどれだけ名前を出されているのだろう。有名税にしても同情する。いや、もしかしたらおじさんの言う通りチャンネルの開きかたのおかげで大成功しているのかもしれませんが。
 おじさんの話は続く。
「僕らが怪しい団体と違うのは、お金目当てでなく正しいことを行うから。だって僕が◯◯(教祖的な人?)へ、お金がなければどうすればいいですか? と聞いたら、まずは両親へ仕送りしなさいと答えたんです。普通、仕送りもらいなさいって言うでしょ? けれど逆に親に感謝をすることでチャンネルを開かせたんです。親とのチャンネルは非常に強い効果がうんぬんかんぬん」
「それで、親に仕送りしてどうなったんですか!?」
「やっぱりその行動が正しくて、だから今のわたしがあるんです!」
 高級スーツを見せつけ胸を張るおじさん。一旦仕送りを勧める=この団体は怪しくないの理屈は不明なものの、ここまで自信満々に言われると目の前で否定しづらい。すかさず、おばさんの方が援護射撃を行い、「この機会を逃すと幸せが勿体無いですよ」と追い討ち。ランページゴーストばりの合体攻撃をしかける。
 主婦は主婦たちでいちいち素直に感動している。「なるほど!」「ですよね!」と前向きに相槌をうつ。よくこんなポジティブに……と不安になるものの、元よりそういった性格でないとこの場がまずセッティングされないか。主婦の片方は来月にマンションの更新のためお金が必要らしい。なら、なおさらこんなところで話聞いてる暇は無いのではないか。
 他人事なので適当に聞いていたものの、このカルトの面白い点は、やたらと両親を大切にすることだ。なんにせよまずは両親と仲良くすることによって運気は上がるし、他のスピリチュアル系YouTubeチャンネルで親の重要性を説いてないやつらは怪しいので見なくていいと断言。妙な刷り込みに他チャンネル下げも加えて見事なコンボが決まる。「両親を大切にさせる=なんか良い人たちっぽい」と印象づけるのでしょうか。そのうえで両親まで取り込むのなら、なかなかやり手だ。
 気づけば四人はどこかへ消えていった。果たして主婦二人はチャンネルを開く幸福な道へ進んだのでしょうか。
 寝不足の頭で変な話を聞かされて頭痛が余計に。この苦しみから解放されるのであれば、僕も今すぐチャンネルを開きまくるのですが、おじさんとおばさんは僕を救ってくれるでしょうか。
 

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