見出し画像

「岸辺の少女」が見せるチームEへの期待と林美澪に起こった引き算

センターってどんな人だろう?



 アイドルグループのセンターについて考える時、あなたはどんな言葉を思い浮かべるでしょう。「生まれ持った声」、「太陽」、「孤独とカリスマ性」、様々な言葉が思い浮かぶと思います。ちなみに、今、僕が挙げた3つの言葉は、一人一人まったく違うグループのセンターたちです。
 さて、このことを考える上で、面白い切り口になりそうなMVが発表されました。

 本日、2月20日。
 SKE48、チームEの新曲「岸辺の少女よ」のⅯVです。

 MVって、観ていて映像に惹かれるか、曲に惹かれるかに分かれると思うんですね。昨日、更新した櫻坂46の3期生の「何度 LOVE SONGの歌詞を読み返したんだろう?」は歌詞に惹かれましたが、今回は映像に惹かれました。
 なんと言っても、林美澪ちゃんから「アイドル性」と「ダンス」を引き算した時に、何が残るのかを考えさせられる内容になっているからです。
 結論から書いてしまうと、それでも彼女が真ん中に立っているだけで成立してしまうという圧倒的な存在感でした。いや、記憶を失って「普通の女の子」としてSKE48に放り込まれて戸惑いながらも、努力をしていく姿をみて、この人を応援したいと思わせる存在なんですよね。それはファンだけでなく同じチームの仲間たちも。
 もちろん、これはMVの脚本なので、あくまで演技ではあるんですが、ふとこんなことを考えてしまいました。
 センターが弱さや危うさを見せることに対して、良くないと思う方もいるかもしれませんが、今回のMVを見て、林美澪という人の魅力がまたぐんと上がったと僕は思っています。

君が来ない「風を待つ」

 
 次は歌詞の世界を見ていきましょう。
 タイトルを観た時は、久しぶりにSKE48に海関係の曲が来たなとまず思いました。「風を待つ」というSTU48の名曲があります。

 もうびっくりするぐらい雑に解説すると、岬で春や「君」を待つ「僕」について書かれている歌詞なんですね。自分を帆を畳んだ帆船にたとえて、風が吹くのを待っている状態であると。風が吹いたら「君」にこの思いを伝えたいと。その願いを帆船と同じく風が吹いたら動く波にたとえています。
 秋元康がSTU48に贈る海の曲は、いつだって特別な意味を込めていることが多いです。「海」とか「地方」という題材が彼にイマジネーションを与えているのかも知れません。

 それでは、SKE48はどうでしょう? 
 もう出だしから不吉な始まり方なんですよね。
 「夕日は待たない やがて暗闇に覆われてサヨナラ」ですよ。
 まず、彼女が住む「世界」に居場所がないことを知って、「季節外れの海」を目指します。
 で、この砂浜は波が足跡を消すぐらいには、潮が満ち始めているんですね。そして、約束はしていないけれど、きっと迎えに来るに違いないと彼女は待っています。その思い込みは醜いけれど、愚かな自分を認識するために彼女はここにきたと状況が明らかになっていきます。
 さて、ここから1番の大サビに入るのですが、もしかしてこの「岸辺の少女よ」と呼びかける部分は、自分で自分に言っているのかな、とふと考えました。客観的に自分をみているからこその言葉ではないかと。悲しいですが、時間は過ぎていき、「風はもう何も語ることなくその場を去る」と残酷な現実を突きつけてきます。しかし、思い出は美化されてどんどん儚く消えていきます。でも、真っ白にはならない( MVの美澪ちゃんは真っ白に記憶を失ってしまいますが )。だから、信じて迎えに来る人を信じて待っていてしまう。
 同じ待つというシチュエーションでも「風を待つ」と比較すると、出だしから望みが薄そうな気がしてきます。そして、「風を待つ」では変化の象徴として使われていた風が、ここでは残酷なぐらいあっさりと過ぎていきます。おそらく変化は起きない。
 最近、秋元康は過去を美化することに対して、NOという曲が多いですね。櫻坂46の最新シングル「何歳の頃に戻りたいのか?」は過去を美化することにはっきりとNOを突きつけています。欅坂46時代では「東京タワーはどこから見える?」がそうですね。


 2番では、素直に泣くには自分が不純で、どうやら迎えに来ないという状況についても「何故?」と思うのではなく、きちんと認識しているそうです。さて、2番では「外国の貨物船」が出てきます。それはとっくに行ってしまったものであると提示されます。この曲の主人公が外の世界へ接続できる可能性や迎えにくると思っている相手とは違うコミュニティや関係との可能性とも取れますが、そんなものは、もうとっくに行ってしまっている。
 それでも波は変わらず寄せては返しているので、彼女は期待してしまいます。ここからのサビ前までのやさしさという自己満足の残酷さや嫌いになって忘れたかったという心情の吐露から、多分、優しく降られたり、別れを告げられて、この岸辺に来たのではないかと僕は想像しました。
 2番のサビでは待ち続ける少女に対して、「人魚になるつもりか?」と問いかけます。時間の経過と共に波は迫ってきます。ここで彼女に問いかけるのは「光」ではなく「影」です。暗い方向へどんどん引きずりこまれそうで不安になってきますね。この「影」は彼女の内面の暗い部分と考えることも出来そうです。
 大サビでは自分は恋愛には向いていない、と感じ、立ち上がれば帰れるはずなのに、まだ待ち続けます。大サビ終わりで自分をいつの日か見つけてほしいと願います。どこか人魚姫のようでもありますが、ここで秋元康がとどめを刺してきます。待っているのは、「不幸」であると。彼女はそれに気づかずに待ち続けている。
 この悲しい部分で曲は終わります。
 
 STU48の「風を待つ」がもうすぐ来る「君」が来ることを予感させ、関係が変わるかも知れないと期待できるのに対して、SKE48の「岸辺の少女」は誰も来ないでこのまま夜がやってくるのではないか、という失恋の曲になっていると思います。
 もし、僕がこの曲の世界に居たら、今すぐ、「岸辺の少女」にこの曲を聴いてくれえ!とAKB48の「Green Flash」を聴かせるのに。

 お店や土地の名前を出さないことで、ちょっと童話にもできそうな感じのする歌詞で、これから大事に歌い継いで欲しい1曲が生まれたと思います。
 救いがないけれど、こういう救いがない曲で救われる魂も確かにあると最近、思います。

MVから感じた演技力を見せる場所の必要性


 さて、このMVの最大の見どころは、なんといってもチームEメンバーの演技でしょう。
 たとえば、記憶を失ったところの林美澪ちゃんの目の動き方。
 多分、シチュエーションもあるので、「皆さん、誰ですか?」というセリフ無しでも伝わったのでは、と僕は思います。それぐらい困惑が出ていたと思います。
 そして、0分50秒頃の倉島杏実ちゃんの演技に注目して欲しいです。
 横目で他のメンバーに確認しながら、あまりのことに半笑いになってしまう。めちゃくちゃリアリティーあるな、と感じました。一瞬、素なのかな、と。何故か、彼女が漢字を教えていくというシチュエーションも面白かったですね。
 それから、2分29秒くらいからと、4分47秒ぐらいからの「リーダーさとかほ」も凄く良かったと思います。
 あと、はたごんがダンスがを踊れない林美澪ちゃんを励ましてるところも良かったですね。何故か、自分も励まされた気持ちになってしまう。
 メロディーだと「忘れたかったよ」の「よー」と林美澪ちゃんの声が伸びているところに2番のサビが入ってくるところが好きです。更にその気持ち良さがMVと合わさったのが、5分1秒ぐらいからの「私を」のところですね。
 話を演技に戻すと、チームEメンバーたちの演技をもっと見てみたいと思わせてくれる素晴らしいMVでした。
 かつて、SKE48には「マジカルラジオ」というシットコム形式のコメディのドラマがあったり、「SKE48BINGO」という演技をじっくり学んで舞台に挑戦する番組もありました。
 今こそ、SKE48にいる才能たちを外にアピールできる番組が必要なんじゃないか、と僕は思います。昔みたいに日テレの枠が難しいなら、配信プラットフォームでも、Youtubeに連続ドラマを挙げていくというのもいいじゃないですか。予算を考えたら、「LIGHT HOUSE」みたいにネットフリックスが、才能のあるテレビマンさんに予算を割くのが理想なんですけどね。そして、今回のMVのように、架空のシチュエーションを用意することでメンバーの新しい魅力が見えてくると思います。
 是非、SKE48のメンバーで演技のドラマやバラエティ、どうでしょう?

いま、SKE48には林美澪のライバルが必要だ

 
 さて、ここからは、全部観終わって感じたことですが、林美澪という人の新しい魅力をMVの物語を通して知ることが出来た上で、あえて提案したいのが、今、林美澪ちゃんの対角に立てるぐらいの存在感があるメンバーが何人居るでしょうか?
 実は、僕の頭の中に二人浮かんでいますが、名前は書きません。
 出来たら11期、12期からどんどんライバルが出てきて欲しいなと思います。表現力やダンス力ではなく、全く違うスキルでライバルになる人が居てもいいと思っています。
 こういう時に、かつてのAKB48の選抜のようなグループを越境した交流から学ぶのも良かったのかな、とふと思ったりもするんですけどね。前田敦子と松井珠理奈や、大島優子と須田亜香里みたいな関係というか。いや、もう正直に書きましょう。
 坂道AKBを今やったら、多分、凄い刺激になると思います。
 反発は大きいと思いますが、SKE48の外にも見つかってほしいと僕は思っています。あと、もっと外の世界のメンバーと知り合って刺激を受けて欲しいとも。
 残酷な現実として、櫻坂46の3期生だけのデビュー曲「夏の近道」は513万回再生をYoutubeでしています。櫻坂のセンターである森田ひかるも山崎天も藤吉夏鈴もいません。新人だけです。同時期の「好きになっっちゃった」は78万回です。繰り返します。新人だけで500万越えです。
 サッカーでいえば、J1が櫻坂46でJ3がSKE48ではないか、と僕は2024年2月現在では思っています。でも、サッカーには天皇杯という所属のリーグが関係なく試合が出来るトーナメントがあります。それは、アイドルにとってはフェスや音楽番組かも知れませんが、ジャイアントキリングをメイクできる選手たちがちゃんとSKE48にはいるぞ、と今回のMVを観ながら思いました。そして、せっかく秋元康プロデュースなのだから、「坂道AKB」のような混合ユニットをまた復活させて、内外に刺激をガンガン生んでほしいなと思っています。

終わりに


 今回のSKE48は良い曲が沢山来ていると思います。
 ちゃんと語れる良さがある。
 だからこそ、どうか大事に育てていって欲しいな、と思っています。出して終わりじゃなくて、色々な方法で届けていって欲しいなと思います。
 まずは、J2に昇格していくために、一節一節の試合を地元の東海地区を中心に結果を出していけば、必ず新しい目的まで行けると僕は思っています。 

 

こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。