【SS】 白い靴の転校生 #シロクマ文芸部
白い靴を履いた女の子が僕の学校に転校してきた。輝くような真っ白な靴に真っ白なワンピースを着た女の子で長い黒髪がとても綺麗だった。女の子の履いている靴はまるで磨き抜かれた石でできているようにも見えた。僕は一目で転校生の女の子を好きになってしまったけれど、とても告白なんてできない。だって、僕は勉強もスポーツもそれほどできないし、極め付けはゲームもしないからクラスのみんなからは仲間外れにされていたから。
「白石希です。父の転勤で転校してきました。よろしくお願いします」
「はい、みんな白石さんと仲良くしてやってくださいね。じゃあ、白石さんは、青空翔くんの隣に座ってくださいね。青空くん、教科書を見せてあげてください。まだ白石さんは持ってないから」
「えー、青空の隣だとバカが移っちゃうよ、先生」
「何を言ってるんですか。みんな同じクラスの仲間だろ、仲良くしなきゃだめでしょう」
「はーい」
田舎町にある希望小学校五年三組のとある朝の時間の出来事。ほとんど転校生が来ることはないこの小学校に美しい転校生の白石という女の子がやってきたのだから、子供達は大喜び。でもクラスの女子たちはちょっと面白くない雰囲気になっている。明らかに自分たちよりも綺麗で田舎にはない雰囲気をまとっていたからだ。
クラスで仲間外れの青空翔は、隣に転校生の綺麗な女の子が座り、しかも机をくっつけて教科書を見せるという幸運にも恵まれ、クラスの男子からは嫌がらせを受けることになる。しかし、翔はそれでも嬉しい気持ちの方が強かったので我慢できた。
数日間は、クラスの女子は白石を完全に無視して仲間外れにし、クラスの男子は青空をバカにしてからかい続けた。そうなると青空と白石は自然と話をする時間も長くなり、帰りも一緒に帰るようになっていった。ただ、不思議なことに青空の家が見えるところまで来ると、何故かいつも白石は「じゃあ、またね」と言って長い髪をなびかせながら、違う方向に帰っていくのである。青空は何度か「今日は僕が送っていくよ」と言っても、いつもニコッと笑うだけで送らせてはくれなかった。それでも青空は小学校で楽しく話ができる友達ができたことを喜んでいた。
青空はなんの取り柄もない男の子だったけれど、海岸や河岸に転がっている綺麗な石を見つけるのが得意だった。丸い石、尖った石、くすんだ石、線が入った石、など部屋の中には拾ってきた石の標本がたくさん並べてあった。
「いつか、この石を白石さんに見せたいなぁ。僕が石を拾ってきた時の話をすると目を輝かせて聞いてくれるからきっと喜んでくれると思うんだけどなぁ」
いつもそんなことを考えてはいたのだが、自分の部屋に誘う勇気を青空は持っていなかった。それでも二人はだんだん仲良くなり、帰り道は手を繋いで帰るようになっていた。そうなると、クラスの仲間は呆れたように二人を囃し立てるようになっていった。
「わーい。小学生の夫婦が仲良く歩いてるぞー」
「本当だー。夫婦だ、夫婦だー。バカ夫婦だー。二人とももっともっとバカになるのかなぁ」
おとなしい青空は、それまで何を言われても怒ったことはなかった。自分のことを言われるのは平気だったが、一緒に歩いている白石のことを悪く言われるのは、何故か我慢できなかった。まるで自分の一番大切なものを、けなされているかのように感じてしまったのだ。
「おい。昭雄、僕のことをバカにするのはいいけど、白石さんは頭もいいしバカになんかするな」
「へっへー。バカと一緒にいるとバカになってしまうんだよー。そんなことも知らないなんて、やっぱりバカだなー」
青空は、さらに言い返そうとした時、横から白石が出てきてバカにしている男子に強く言い放った。
「私は、青空くんを毎日バカにしているあなたたちより、うーんと青空くんの方が頭がいいと思うわ。私はそんな青空くんのことが大好きなの。夫婦になれるなら早くなりたいと思っているくらいだもん」
「ちぇ、なんだよ、それ。全然面白くなーい」
「つまんないなー。おい、昭雄、もうからかうのはやめてゲームでもしようぜ」
「おお、そうだな、行こう行こう」
青空はなんだか嬉しさのあまり飛び上がりたくなるのを我慢して、いつものように手を繋いで帰っていった。そして、青空の家の前。
「ねぇ、白石さん、僕の部屋に上がっていかない。たくさん石があるんだけど見せたいんだ、白石さんに」
「えっ、本当。嬉しい」
青空は嬉しさのあまり白石の手を引っ張って家の中に入っていった。
「お母さん、ただいまー。友達と部屋に上がるねー」
「おかえりー。えっ、友達? 珍しいわね。あら、いらっしゃい、可愛らしいお嬢様ね」
「こんにちは。同じクラスの白石希です。お邪魔します」
「はーい。ゆっくりしていきなさい」
二人は階段を駆け上がり、青空の部屋に入った。そして二人はランドセルをおろして青空が集めた石を順番に見ていた。ある石の前で、白石は目を止めた。
「これ、私よ」
「えっ、これ。この石は海岸の端っこで汚れていたのを拾ってきたんだ。うちに持って帰って洗って磨いたらこんなに綺麗になったんだよ」
「ううん、そうじゃなくて、私はこの石なの」
「えっ、言ってることがわからないんだけど。まさか僕のバカが移ったんじゃないよね」
「違うわよ。私は石の精霊なの。あなたが私を拾って綺麗にしてくれたから、お礼をしたかったのよ。やっと私に石を見せてくれたわね。ずっと待ってたのよ。あなたが誘ってくれるのを」
「えっ、えっ、石の精霊? 白石さんって人間じゃないの?」
「ええ、ごめんなさい。私はヒトではないの。でもあなたの優しい心はちゃんとわかるわ。こんなにも石たちを大切に綺麗にしてくれているもの。この石たちを一目見ることができて安心したわ。これで、また元の世界に戻れるわ」
「元の世界に戻るってどういうこと。いなくなっちゃうの」
「ええ、でもあなたの心の中にはずっといるわ。あなたが大きくなるまではね。私の石に話しかけてくれれば小さいけれど姿を見せられると思う」
「そんな。じゃあ、もう学校には来ないの」
「ええ、私が消えると同時に、青空くん以外の人の記憶からは私は消えるの。でも、その後は誰も青空くんのことをバカにしないようになっていると思うから安心して」
「そんなの嫌だ。白石さんとずっと一緒にいたい」
「ごめんなさい。それだけはできないの。そろそろ時間が来たようだわ。学校ではお友達と楽しい時間を過ごしてね。さようなら」
そういうと白石は光となって、白い石の中に吸い込まれていった。その時、階段を上がってくる足音が聞こえた。
「翔、おやつ持ってきたわよー。あれ、なんでお母さんは二人分持ってきたんだろう。変ね。おや、翔、泣いてるのかい」
「いや、泣いてなんかいないよ。石を見て感動してただけだよ」
「本当に変な子だね、お前は。じゃあ、ジュース二人分だから、一緒にここで飲もうかな」
「うん、そうしよう。お母さんも石を見る? ほら、この白い石、まるで白い靴みたいに見えるんだよ」
「あら、本当だ。白い靴みたいだね。じゃあ、もう一つ見つけて来ないとね。靴が片方じゃかわいそうだね」
「うん、また、海岸に探しに行ってみる。白い靴になりそうな石を」
了
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