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ミュージアムの中の人が、なぜかいろいろあって「スポーツ(「との比較を行う上で」というテイで美術館・博物館も対象とした「文化観光」も無理やり含めた)ツーリズム」の非常勤講師をしている話 #01

自己紹介はあらためて行いますが、いろいろな業界を見聞きした経験をもとに、現在関わっているミュージアム業界(そんな言葉ないw)についての(あまり知られていない)ことを中心にご紹介できればと思い、noteをスタートすることにしました。今回のネタは前回に引き続き、ミュージアムの中の人がいろいろあって「スポーツ(芸術文化も無理やり含めた)ツーリズム」の非常勤講師をしている話


前回はこちら


実質的に初回になる今回はそもそも論として、「スポーツ(芸術文化も無理やり含めた)ツーリズム」がなぜ大学の講義になっているのかについて、が趣旨となります。では、なぜ「スポーツ(芸術文化も無理やり含めた)ツーリズム」に注目が集まっているのでしょうか?


スポーツツーリズム同様に新しいツーリズムといわれる、芸術文化系ツーリズムや、聖地巡礼といった「コンテンツツーリズム」などについては、正直それ単体で授業として展開している大学の数は「スポーツツーリズム」と比較しても、多くはないはずです。というかかなりレアなはず。それはそれとして、新しいツーリズムと、あえて新しさをうたうということは、新しくないツーリズムがあるはず。じゃあ、新しくないツーリズムって、なに? というところから見てみましょう。



もっとそもそもの話をすると、ツーリズムって、なに? ということ。聞かれたらまあ、たいていの人は「観光」と答えますよね。厳密に辞書的に言い換えれば「観光」はsightseeing、tourismは「観光(事)業」となります。なので、よく見るスポーツツーリズム産業というのは、ニュアンス的にはおかしい、ということになるわけです。頭痛が痛い的な。脱線しかけていますが、ツーリズムを学ぶということは観光産業を学ぶということ。なので旅行そのもの、ではなく社会の動きともリンクして考える必要がある、といえるかもしれません。



では、新しくないツーリズムというのはどれくらい新しくないのでしょうか? 日本に旅行、旅という概念が成立したのは江戸時代だといわれています(諸説あり)。確かに戦乱の世では落ち着いて移動なんてできないですよね、だって徒歩か馬か、籠くらいしか移動手段がないんだもの。江戸時代の代表的な人気観光地は伊勢だったといわれています(お伊勢参りという言葉もあるくらいです)。しかも当時の人々にとってはほぼ一生に一度の旅。伊勢神宮にお参りして、おみやげをまわりのひとたちに配る。という行動は今も昔も変わらないようです。



変わらないといえば、人気の観光地として挙げた伊勢神宮や出雲大社、厳島神社(宮島)、善光寺、京都など、神社仏閣が中心でした。いまでいうところのパワースポットですよね。こういうところも実は今も昔もそんなに変わらないのかもしれません。もっとも江戸時代に関していえば、各地の城郭を見に行く、なんてことは気軽にはできなかったわけです。だってお城が行政の中心地だから。しかも今の行政と大きく違うのは、なにかあったら「切捨御免」でバッサリやられる可能性もまったくゼロではなかった、ということ。それくらい時代背景としては大きく異なるわけです、今と昔をざっくりいえば。




話が長くなってきているので、思い切って時間をさかのぼりましょう。第二次世界大戦が終わり、昭和30年代後半。東京オリンピック開催にあわせて新幹線や高速道路網がひろがりはじめたころ、ようやく多くの国民にも気軽に旅行に行く、という概念が一般的になってきました。そのひとつのカタチとして当時ポピュラーだったのが「新婚旅行」。とはいえ、海外旅行がまだまだまだ憧れの存在だった時代、新婚旅行の目的地として人気を集めていたのが「宮崎県」でした。当時の新婚旅行は、団体(ほかの新婚カップルと)、正装(男女ともスーツでの移動)といまでは信じられないスタイルでした。



海外旅行がようやく一般化して普及してくるのは1970年代後半から(←ドルの変動相場制移行やオイルショックや飛行機の大型化など、いろいろな条件が重なって、という時代背景)といわれています。このころには新婚旅行の行先もハワイやグアムなどが多くなり、高度経済成長を背景にしたルイ・ヴィトンの買い漁りなどが行われるような動きへとつながっていきます。80年代以降は日本経済の好調さや、格安航空券の登場などで、会社の社員旅行や大学の卒業旅行、農協ご一行様による団体旅行や、定年後の旅行などで海外に、というのがスタンダードになってくるのです。


ちなみにまったくどうでもいい話ですが、現存するルイ・ヴィトンのかばんを購入した最古の顧客は板垣退助といわれています。板垣死すとも自由は死せずのニュアンスとはミスマッチ感が漂いますが、当時と今とはブランドイメージも違いますので。


おっと、話がさらにさらにずれていますが、新しくないツーリズムの話です。


格安航空券の登場で、増えたのが個人客。団体旅行から個人旅行への転換となるタイミングだといえるかもしれません。さらに1990年代後半のインターネットの登場、2000年代からの家庭用パソコンの普及などにより、「従来の観光地をめぐるスタイルから、自分の好きなものや興味のあるものをテーマにその目的地に訪れるスタイル」への変化が広く一般的になってきました。それっぽい言葉でいえば「多様化するニーズにあわせて自分のおもいのままの内容をアレンジする旅行」といえるかもしれません。そう、これこそが新しいツーリズムのベースとなるわけです。


当然、インターネットやパソコンなど端末の普及で、チケットや宿泊先の予約も可能になった、ということも大きな理由としてあげられます。この新しいツーリズムに含まれるさまざまなテーマの中で、動く金額的にも、人数的にも、対象となる国の数的にも、要は産業として大きいとされるものが「スポーツツーリズム」であり、今後の可能性も大きいとされています。ちなみにスポーツツーリズムの産業全体の市場としては2021年に約5000億ドル=日本円で約65兆円とされており、さらには2029年まで17.5%という高い割合で成長すると予測されている非常に有望なマーケットである、ということ。だから大学で講義が行われるんですね。



ということで今回はここまで。
次回は「スポーツツーリズムの3つの種類」についてご紹介していきます。
#02 へつづく…