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能登半島「通れた道」マップ

一般教養課程の「みんなのデータサイエンス」はまず、データサイエンスの「データ」とは何だろうと考えるところから始まります。1990年代ごろまでは、「データ」というと、国内総生産(GDP)だとか、平均寿命だとか、消費者物価指数だとか、株価だとか‥‥。公的な統計など、そしてデータの種類で言うと、数字または文字のものがほとんどでした。データサイエンス時代の今日、扱える「データ」は数字と文字に限らず、多岐にわたっています。

では、数字・文字以外のどんなものが「データ」として扱えるのでしょうか?画像(写真、手書きの絵などなど)、音声、人のいる場所(位置情報)と動き、顔などなどのほかに、例としてあげるのが「通れた道路」です。2011年の東日本大震災が起こった直後、Hondaは当時運用が始まっていた双方向カーナビ「インターナビ」を利用して、被災地で通行可能な道を地図にして公表、大きな反響を呼びました。(「東北地方太平洋沖地震被災地域の方々の移動支援を目的に、Hondaの『インターナビ・プレミアムクラブ』会員と、パイオニア株式会社のカーナビゲーションシステムのユーザーから収集した走行軌跡データ(フローティングカーデータ)を通行実績として一元的に集約」した、Honda)。

高速道路沿いに埋め込んだセンサーで走行する車の速度を測るなどのデータ収集方法もありますが、Hondaのインターナビは、車をセンサーとして用いています。走行する車がほぼリアルタイムでデータを送り、そのデータを地図上に表すと、「車が走行できた道」=「通れる道」のマップができるというわけです。被災地支援のために人員と物資を運ぶにあたっては、通行可能な道路を把握することが極めて重要で、震災の数日後からはHondaの情報がGoogle Map上でも公開されました。

そして、東日本大震災から13年。車の通行実績をデータとして収集し、通行可能な道路を迅速にマップして災害対応に活かす方法はさらに進化し、災害以外の時にも使われるようになってきています。トヨタ自動車は平時から全国の通れた道マップを公開しています。たとえば、現在の東京周辺はこんな感じ。水色の「通れた道」が蜘蛛の巣のように張り巡らされています。

トヨタ自動車 通れた道マップ(2023年1月6日)

一方で、1月1日に大地震が発生した能登半島の通れた道マップは1月6日午前、このように、通れた道は少ないです。赤いアイコンをクリックすると、道路交通情報通信システムセンター(VICS)からの通行規制情報として、通行止め、原因は「災害等:道路陥没」「災害等:道路損壊」「災害等:土砂崩れ」などと表示されます。

トヨタ自動車 通れた道マップ(1月6日午前)

インテリジェント・トランスポート・システム(ITS)

特定非営利活動法人ITS Japanは、1月1日の地震を受けて、被災地の乗用車・トラック通行実績情報マップを公開しました。ITS Japanはウェブサイトで、
ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)について、「人と道路と自動車の間で情報の受発信を行い、道路交通が抱える事故や渋滞、環境対策など、様々な課題を解決するためのシステム」と説明。ITSを使って、「道路交通の最適化を図ると同時に、事故や渋滞の解消、省エネや環境との共存」を図っていくとしています。

ITS Japanの通行実績マップには3つのレイヤーがあり、乗用車、小型トラック、大中型トラックのそれぞれ、または組み合わせて、通行実績を表示できるようになっています。広域のマップを見ると、能登半島は石川県内の他の地域と比べて、また、被災した近隣の富山県や新潟県と比べても、白い部分が大きい(通行できないところが多い)ことがわかります。

ITS Japan 乗用車・トラック通行実績情報 小型トラックのみ表示
ITS Japan 乗用車・トラック通行実績情報 乗用車のみ表示
ITS Japan 乗用車・トラック通行実績情報 大中型トラックのみ表示

能登半島の重要物流道路と緊急輸送道路をマップしてみる

通行できない道が多いであろうことはITS Japanのマップでわかりますが、では、この地域の主要な道路ネットワークはそもそもどうなっているのでしょうか?それがわかるのが国交省・国土数値情報ダウンロードサイトにある重要物流道路緊急輸送道路データです。重要物流道路とは、「国土交通大臣が指定する重要物流道路及び代替・補完路」(識別子N12)で、この地図では赤い太線で表現しています。青い線は災害対策基本法などに基づく緊急輸送道路(識別子N10)です。道路の名称は重要物流道路のものです。これをITS Japanの通行実績マップと比べると、国道470号はほぼ通行可ですが、国道249号など、多くの重要物流道路と緊急輸送道路が通行不可であることが確認できます。能登半島は地震の前から「陸の孤島」、「アクセスが悪い」という指摘もあるようですが、国土数値情報には道路密度データもあるのでそちらを見ると、そもそも道路ネットワークが薄いのかがわかるかもしれません。

国交省・国土数値情報を利用して作成

最後に、ITS Japanの通行実績マップと、主要道路マップを並べるとこうなります。半島全体で主要道路の多くが使用不可能であることがはっきりわかります。

ITS Japan 乗用車・トラック通行実績(1月5日夜、左)。能登半島の主要道路(右)

なお、ITS Japanは注意事項として、「この『自動車通行実績情報』は、被災地域内外での移動の参考となる情報を提供することを目的として災害時に提供されます。 通行実績がある道路でも、現在通行できることを保証するものではありません。 通行止めの箇所については、通行実績がある場合でも通行はしないでください。 実際の道路状況は、このマップと異なる場合があります。 事前に、警察、国土交通省、高速道路株式会社等の情報をご確認ください。」と記載しています。

迅速に、そして優先度の高いところから、地図に青と緑の色が増えていきますように!


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