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【SNS投稿和訳】ウクライナ東部アウジーウカ市陥落が及ぼす影響(Mick Ryan氏・日本時間2024.02.18, 05:36投稿)

はじめに

本note記事は、上記リンク先から始まるX(旧Twitter)での連続投稿の日本語訳になります。投稿者はオーストラリア軍退役少将ミック・ライアン氏で、その内容はウクライナ東部アウジーウカ陥落に関する分析になります。

なお、原文投稿の一部に画像が添付されていますが、画像がないことが内容理解の妨げにはならないと判断し、この翻訳記事にはそれらの画像は掲載していません。

日本語訳

ウクライナの都市アウジーウカが陥落した模様だ。テレグラム投稿で、総司令官シルシキー大将は「この都市からの我が軍部隊の撤退と防御により好ましい防衛線への移動を決心した」と述べた。これがもたらす影響はどのようなものになるの

アウジーウカ陥落を伝えるニューヨーク・タイムズ紙記事
https://www.nytimes.com/2024/02/17/world/europe/ukraine-avdiivka-withdraw-despair.html?unlocked_article_code=1.WE0.hkJZ.LcMQkWhkg95H&smid=url-share

アウジーウカ陥落の影響は、戦術・戦略・政治の面に及ぶことになる。戦術的視点では、ウクライナ軍地上部隊は事前準備された防御陣地に後退する必要が生じることになる。この後方にある陣地への後退は今後、まず第一に重要な点になる。それができれば、ロシア軍は追撃ができなくなり、アウジーウカからその先へと戦果を拡張することができなくなる。

アウジーウカ陥落の影響は、戦術・戦略・政治の面に及ぶことになる。戦術的視点では、ウクライナ軍地上部隊は事前準備された防御陣地に後退する必要が生じることになる。この後方にある陣地への後退は今後、まず第一に重要な点になる。それができれば、ロシア軍は追撃ができなくなり、アウジーウカからその先へと戦果を拡張することができなくなる。

撤退という戦術行動はいかなる場合でも難しいものだ。そして、それは入念に計画されていても、そうなのだ! 撤退命令が下されるのが遅すぎる場合、撤退路の両側面を自由に使えるようにしておくことが、とても難しくなる可能性があり、兵員に犠牲が生じたり砲撃されたりする可能性が生じる。

秩序立った撤退は、負傷者を後送できるかどうか、貴重な装備・弾薬を置いていくのか否か、敵に奪われるか否か、ということに関する違いとしてあらわれうる。

別に面での戦術的影響に、「アウジーウカ・ポケット」の終わりが、ロシア軍に今後、利益をもたらすという点がある。ロシア軍は今や戦線をまっすぐにしており、その結果、戦力の一部を解放でき、休息を取らせたり、予備戦力をつくったりすることができる。もしくは、新たな防衛地点に展開するウクライナ軍に対して、途切れることなく圧力をかけることができる。

アウジーウカの西方にウクライナ軍が構築した防御措置の質と縦深が、今後の数日間、重要な要素になってくる。十分な地雷・障害物・砲兵・無人航空機が、防衛線上で活用可能ならば、ウクライナ軍がロシア軍の戦果拡張を阻止できる可能性がある。

戦術面と同様に戦略的影響も存在する。まず、今回のロシア側の成功は、ロシアが戦略的主導権を握っていることのさらなる証明になる。ウクライナ戦域全体のなかで攻撃・攻勢を実施する場所と時期を決めることができるのは、今はロシアのほうなのだ。この情勢を逆転させるのは、難しいだろう。

別の戦略的影響として、春が近づきつつあるなか、アウジーウカでの成功が、ロシア軍に東部におけるほかの攻勢の選択肢を与えるというものがある。また、ロシア軍はアウジーウカ地域での成果を拡張したいと考えている可能性があり、今後遭遇することになる防御陣地が、アウジーウカ地区にあったものよりも弱いことを期待しているのかもしれない。

一方で、ロシア軍は地上戦での主たる重点を、ドネツィクもしくはルハンシクといったウクライナ東部のいずれかの場所に、今や移しているのかもしれない。ウクライナ北東部等々の地点にロシア軍が戦力を集結させていることは分かっており、ロシア軍には重点をシフトするという選択肢がある。このことによって、予備も含む戦力の展開場所に関するジレンマに、ウクライナは直面している。

さらにほかの戦略的影響がある。ウクライナは、とりわけ直近の数日間、ロシア軍に大きな損害を与え、これからも与えていくだろうが、このことは戦力の相関関係に大きな違いをもたらしておらず、今後もそうだろう。ウクライナに大きな損害を許容する余裕はない。だが、ロシアにはそれがある。

4番目の戦略面でのポイントとして、ロシア軍が戦闘遂行に関する適応と戦闘遂行能力の向上を続けているという点がある。確かにこれは迅速な取り組みではないけれども、ウクライナ軍指揮官たちにとって、今後も懸念材料になっていく。ロシア軍の能力を評価するにあたって、私たちは謙虚さをもつ必要がある。

今回の件がロシアにさらなる自信を与えるというのが、戦略面における影響として最後のポイントだ。戦争における士気の側面は、極めて重要だ。今回のような戦場での成功が生み出した自信が、軍指導部と兵卒の間にあっという間に広がっていく可能性がある。

政治的にみて、アウジーウカ陥落は、プーチンにとってプラスで、ゼレンシキーにとってマイナスの出来事である。3月のロシア大統領選挙とその当選に先立ってのアウジーウカ陥落は、プーチンがまさに望んでいた成功だ。さらに重要なのは、この件がプーチンにさらに多くの戦略的情報工作の素材を与えたということだ。

以下にリンクした最近の記事が報じているように、ウクライナの将来展望に関して西側の政治家に影響を及ぼすための偽情報工作に、ロシアはよりいっそう重点を置いている、ここで鍵となるロシアのメッセージは、アウジーウカ戦後は特にそうなるが、「ロシアの勝利は必然だ」というものになるだろう。

ロシアの偽情報工作に関するワシントン・ポスト紙記事
https://www.washingtonpost.com/world/2024/02/16/russian-disinformation-zelensky-zaluzhny/

いうまでもなく、これは真実ではない。だが、米国議会などの場所で、ウクライナ支援を中止する言い訳を探している人々にとって、このロシアからのメッセージは自身を勇気づけるものになるだろう。

ゼレンシキーは政治的に難しい立場にある。まさに政軍関係の危機から出現したアウジーウカは、ゼレンシキーが国内外からどのように判断されるのかという面に影響を及ぼすことになる。ゼレンシキーが最も望まないことは、政府から「車輪が外れつつある」という感覚が生じることだ。

また、なかなか払拭されない印象に、ここ数カ月間の政軍関係危機がアウジーウカに関する決定の遅延を招いたのかもしれないというものがある。この見解が事実かどうかは分からないが、アウジーウカと政軍関係危機を結びつけている者たちは確かに存在する。特にロシアがその一人だ!

ウクライナにおける政軍間の相互交流の面でいえば、アウジーウカ陥落の件は、ゼレンシキーがシルシキーを総司令官に任命する声明のなかで指示した軍事戦略を、具体的なものに仕上げていく人々に対して、2024年が抱える難しい課題を、よりいっそう際立たせることになるだろう。

そして、当然のことながら、ゼレンシキー政権はまた新たにウクライナ側都市が失われたことを受け、国民の士気を懸念することになる。

アウジーウカ陥落を受けての、ここまで述べてきた戦術・戦略・政治面での諸課題から、今年のウクライナの戦略が学ぶべき教訓がある。重要なのは、今後の見込みはまったくないという気分に浸ってはいけないということだ。

会戦で負けることは、戦争という現象の一部だ。最良の軍事組織でさえ避けられないことだ。優れた軍隊と劣った軍隊の違いをつくる点は、このような敗戦から学び、戦争の勝利を導く会戦の勝利をもっと生み出すことができるかどうかにある。

ロシアは学び、向上する能力を示してきたが、このことはウクライナ軍もまた、この戦争を通して示してきたことだ。アウジーウカは重要な戦いであったし、有益な知見をもたらしているには違いないが、この戦い一つだけをみて、2024年の戦争の行き先を判断することはできないし、また、そうすべきでもない。

大規模なロシア軍春季地上攻勢の可能性を減らしながら、戦略・作戦レベルの打撃作戦を行い、それと並行して2025年に向けて戦力を再建することに、ウクライナ軍が2024年軍事戦略の重点を置くのは確実だ。

ゼレンシキーがミュンヘンで語ったように、「ウクライナがひとりぼっちになれば、ロシアは私たちを破壊するだろう」という事態になる。私たちがウクライナに与えるべきものは、物質・情報・士気の面での支援であり、その支援は、今年とその先もウクライナを支えることを目的とする。

[*リンク先への謝意と画像使用に関する謝意は略]

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