見出し画像

好奇心を揺さぶる!スナック×アートで切り開く新しい関係人口の構築 『ソトコト』編集長 指出さん × PIAZZA代表 矢野 晃平

生き方や人生観に新しい価値観を与えてくれる「関係人口」という概念。「おもしろそう」「やってみたい」といった感情が、関係人口を増やす大きなきっかけになると注目されています。人の心を動かし、行動に移すためには、どのような仕掛けづくりが必要なのでしょうか。

未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』編集長・指出一正さんとPIAZZA代表 矢野 晃平の対談をお届けします。

※新型コロナウイルスの感染拡大リスクに十分配慮のうえ取材を行いました。

指出 一正(さしで かずまさ)さん
『ソトコト』編集長。
島根県「しまコトアカデミー」メイン講師、山形県小国町「白い森サスティナブルデザインスクール」メイン講師、高知県高知市「エディットKAGAMIGAWA」「高知・鏡川 RYOMA流域学校」メイン講師、奥大和地域誘客促進事業実行委員会、奈良県、吉野町、天川村、曽爾村「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」エリア横断キュレーターをはじめ、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房、総務省、国土交通省、農林水産省、環境省などの国の委員も務める。経済産業省「2025年大阪・関西万博日本館」クリエイター。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)

関係人口は、人と関わる深さ

矢野:関係人口は社会にとって必要だと常々感じています。ソトコトでは、さまざまな切り口から人と人が街の中でつながる「きっかけづくり」をされていますが、関係人口の意義についてどう思われますか。

指出さん:少し遡りますが、 2004年に起きた新潟県中越地震。これが、関係人口を世の中に広めた根源だと思います。若者たちがボランティアで被災地に入ったり地域と関わったりしたという意味では、とても大事なターニングポイント。災害という有事の中でクリエイティブな風景やコミュニケーションを発見したこと、地域に関わるおもしろさを知り、これまでにない人との関係性を肌で感じたこと、こうした経験を経て地域に好意を持った方たちが、関係人口の始まりです。関係人口は楽しい動きですけど、自分の心が動かされないと人は移動しません。それが有事になると現れやすいという傾向はありますね。

矢野:なるほど。それは興味深いです。

指出さん:3.11の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)も同様です。ここで興味深いのが、被災地に足を運んだ若い人たちが発する言葉の変化。「私は陸前高田に通っています。」と自己紹介していた若者が、地域の人たちとの関わりが深まるにつれ、評価に直結する数字的な意味で使われていた「通う」から「関わる」という動詞に変わっていくのです。人との関わりに安心や喜びを感じること……そこから関係人口をより具体的に提唱するようになりました。

矢野:受け入れる側からすると、そこに何かあるのでしょうか。本当にこの人を信頼してもいいのか?と思うのは、誰にでもありますよね。

指出さん:フルネームで呼ばれるようになると自分を理解してくれたと感じ、信頼感につながるケースはあります。ローカルは、ファーストネームで呼び合うのが当たり前。それが都心に住む若い人たちにとって信頼感や安心感につながるのだと思います。限られた時間の中で人を判断しなければならない大都市と違い、ローカルは突出した才能や個性がなくても、その人自身を認めてくれる……。誰も取り残さない距離の縮め方から、遅効型の関係性を喜びに繋げていったのが関係人口だと感じています。

スナック×アートで地域交流

矢野:有事だからという逆説的な考えもありますが、もう少しライトなやり方はないものかと率直に感じます。その辺り、どうでしょうか。

指出さん:災害という有事は、社会の中にある優劣が外される大事なタイミング。ポジショニング(優劣・順位)が全て崩されるため、順序の中に位置付けられていた人が飛び出しやすくなります。例えば房総半島で起きた大水害は、普段は引きこもっていた若者たちが泥出しや屋根の修繕といった活躍を見せてくれました。とはいえ、仰る通りライトな方法もあると思います。

矢野:有事ではなく、楽しいという感覚から生まれるきっかけ作りには、どのようなものがあると思いますか?

指出さん:最近の話ですが、奈良県で行われた芸術祭プロジェクトでスナックを作り、誰でも気軽に足を運べる地域交流の場を作りました。吉野町、天川村、曽爾村それぞれの村にスナックを開いたところ、地元の人はもちろん、ITエンジニアや林業組合の方、都心から来たアート好きの若者たちが毎夜スナックに立ち寄ってくれるんです。私の持論ですけど、人が集まりやすい場所を作るなら①スナック②バーベキュー③カレーを食べる④駄菓子屋、この4つです。

矢野:駄菓子屋も入りますか。意外ですね!

指出さん:この4つは、あらゆる世代が関与します。駄菓子屋なら、駄菓子屋を切り盛りする大人、駄菓子屋に行きたい子どもたち、その子どもたちを引率する若いお母さんたち、駄菓子が好きな少しお疲れ気味の人。みんなにとって居心地のいい場所をどう作るかが関係人口を考える上で次のステップです。

もうひとつの顔が現れる、スナックの力

矢野:スナックを運営されてみて、どのような動きがありましたか?

指出さん:アートイベントの中でスナックをやったことは、おもしろいを超えてファンタジーな状況でした。例えば吉野町で開いた「スナック よしの」には、お寺のお坊さんや東京から来た女の子が私の代わりにマスターやママになってしまう、そんな交流が当たり前。アートに関心がなくても、みんなでお酒を飲むスナックなら誰でも楽しめてしまう。分かりやすい構図です。

矢野:お坊さんがスナックのマスターですか。日常の顔とスナックでお酒を飲む顔、2つの顔が見えますね。

指出さん:A面とB面が人にあるとした場合、どうやってB面を見せるかという意味でスナックを開いたのはよかったと思います。実際に「スナックのマスターをやりたい」と手を挙げる人もいましたよ。

矢野:そういうことですね。

指出さん:関係人口は外からやって来る人たちを指しますが、地域内から関係人口になる人たちを増やしていきたいですね。常連さんとの距離が近くなるスナックは、まさに地域内外の人たちが出会う空間。そういう場所を作りたいと感じながらスナックを企画しました。

矢野:関係人口は「継続」も大切なポイントですが、イベントに参加された方がスナックのマスターになるという行動は、いいきっかけですね。

指出さん:コミュニティスナックという形で県と町村がバックアップしてくれたこともあり、楽しかったです。

矢野:すごく楽しそうですね(笑)

指出さん:スナックのママとして入ってくれた女性起業家2人は、自然資源を上手に使える方たち。地元の素材を取り入れたクラフトコーラやボタニカルティーを彼女たちが作って出していました。そしてそれを飲んだ地元の方たちが、地元の素材でこんなに美味いものが作れるのか?と驚いて喜ぶわけです。スナックのドリンクに地元の自然資源を活用したことで、その土地が持つ資源の価値に気づく、そこが大切。人が関与することで、素晴らしいものが生み出されると分かってもらえれば、次につながります。

矢野:重要ですね。

完璧にしない。「余白」を残す

矢野:関係人口作りは、身近なところから。誰かがお手本を見せることで「やってみたい!」と思うし「挑戦させてください」と言いやすい。スナックの看板を貸し出すように、まず誰かがやって見せることで、周りの人を巻き込むことが大切ですね。

指出さん:私が最も大事にしているのは、「一番にならない」です。「関わりしろ」と私は呼んでいますが、あえて完璧にやらない。自分ならもっと上手くできるだろうと思える伸びしろが、関係人口を増やすための大切なポイントです。完璧なお手本は、それで終わってしまいますから。自分だったらこうする!と想像を膨らませて行動してもらう方が大事。私がやったスナックを見て、やってみたいと思っていただけるのは、完璧ではないからです。

矢野:確かに「こうしたい」と新しいアイデアが浮かびますね。例えばこの活動を広めたいと思ったら、我々が最低限用意すべきものはありますか?

指出さん:看板を作ることですね。このイベントで使用したスナックの看板も、日本全国各地で人気のアーティストの中﨑透さんに依頼しました。アートと地元の架け橋になる方法として、みんなが同じ舞台に上がって盛り上がるための装置が、スナックであり看板です。

ゆるふわは、地域創生と相性がいい

矢野:スナックは、どこかゆるい感じがちょうどいいのかもしれませんね。

指出さん:そもそも楽しく軽やかに生きたい人たちに「社会課題を解決に来ました」とアピールしても誰も来ないです。やっている側が楽しそう、そしてみんなが楽しめる、そんな「ふわっ」とした雰囲気が大切。自分もスナックに関わっているんだと実感できると、参加する意義やおもしろさが出てくると思います。

矢野:「場」の作り方ですね。こうしたことの積み重ねだと思います。役職や年齢は関係ない、参加することが大事。でも、特定の人で固まってしまうことはありませんか?

指出さん:そこは一番気を使うところです(笑)。ソトコトでは2012年から関係人口の講座をスタートしましたが、グループに特定の人が偏らないよう全体のバランスに注視しています。みんなで目標に向かってがんばろう!ではなく、誰かを追い込まない「ゆるふわ」な雰囲気は大切にしています。

矢野:そう考えると、スナックは「本質」ですね。

社会の空気を作る人が関係人口に関わってほしい

指出さん:スナックの存在は、サードプレイスのような役割。自分のやり切れなさをスナックで発散する方もいれば、楽しく飲んで交流したい人もいます。

矢野:話を聞いているうちに、私もスナックをやりたいと本気で思い始めました(笑)

指出さん:いろいろな背景からスナックを題材にしましたが、人が集まりやすい場所で何をどう仕掛けるかが重要。極端な話、腕相撲のファイトクラブでもいいんです。誰かが何かの役割を担える、そこから関係人口を考えるのは理に適っています。

矢野:関わるきっかけは、身近なところからですね。

指出さん:例えば、岐阜県の各務原市には「かかみがはら暮らし委員会」というコミュニティがあり、4人だったコミュニティが70数名まで参加者が増えて1日に4万人が集まるイベントになりました。そんな彼らがやったことは「この公園で過ごす=オシャレ」という雰囲気づくりです。

矢野:スナックと同じですね。やれそう、やってみたいという感覚。

指出さん:そうです。誰かが設計した町の中に発信される声から素敵なものをつくると関わりやすい。社会の空気を作る人が関係人口のプロジェクトに関わり、どうやってその空気感を作るか「街づくり」として見ていくのはおもしろいですね。

矢野:私も施設運営に携わっていますが、空気づくりの難しさは身をもって感じています。空気を作らないと人は寄って来ない。スナックという発想は、とても新鮮で入りやすいと思いました。

最後に「場」を作りたい方へメッセージをお願いします。

指出さん:地域で起きる「おもしろいもの」に自分も関わっている、その感覚をキープするためにどうすればいいのか、街全体をワクワクさせるためにどうすればいいのか……柔らかい視点を、ぜひ意識してください。

身近な例だと「自由に持っていってください」と、私の息子が家の前に虫かごを置いたところ、ご近所の方と会話する機会が生まれ、近くに住んでいる女の子の家の前には長靴が並ぶようになりました。家の中にあるものを外に出すだけで小学生の息子が地域とリンクし、「私もやりたい」と広まっていく、これが大切なんです。

矢野:そう考えると、誰でもできそうですね。こうしたことが本質だと思うし、忘れてはいけないなと感じます。

貴重なお話をありがとうございました。