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ヴァンパイア:ザ・マスカレード『ニューオリンズ・クロニクル』(5)眠れる美姫

シーン1:車中の談合

 “公子”アントニオから、麻薬「ミッドナイト」の元締めであるミニストリー氏族のマノンに対する咎人狩り、追捕処刑命令が出されたが、エリュシオンからの帰り道の車中で、血盟は善後策を協議する。

 結論としては様子見。トレアドール氏族のリーダーであるモーゲインが咎人狩りに批判的なことから、軽率に動きたくないとの判断である。その一方で、先晩にヴェントルー氏族の叛徒クリストファーから、死せる前公子マルセルの廃屋敷について示唆されたアイザックは、血盟でそこの捜索を行おうと提案する。クリストファーの自堕落な姿に、麻薬ミッドナイトに関する謀略の臭いを感じたためである。

シーン2:マルセルの廃屋敷

 マルセル・ギルボーが住んでいた屋敷は、ニューオリンズの大きな湖、ポンチャートレイン湖にほど近い、静かなエリアに立っている。ハリケーン・カトリーナの災厄で破壊されて以来、誰も手を触れることなく二十年近くが過ぎているのだ。

 しかし誰もいないと思われたこの敷地には、先客がいた。自らを血族の考古学者と名告る謎めいたギャンレル、カスバート・ベケットである。

ベケットとの邂逅

 ベケットは、生前のマルセルが持ちこんだと思われる秘宝が、この廃屋敷に隠されているのではないかと推測してニューオリンズにやってきたとのこと。その落ち着き払った慇懃な態度は、妙に血盟の血族たちに信頼感を抱かせる力がある。ベケットとともに屋敷の調査が始まった。

 館内で、ムスタファは妙なことに気がつく。これほど大型の屋敷が無人で打ち捨てられていたというのに、誰一人として空き巣などの侵入があった形跡がないのだ。自らも血の魔術を用いる彼は、何らかの魔術的な防御か、より剣呑な秘密があるのではないかと疑う。

シーン3:棺の中の美姫

 《先覚》に長けたロジェは、荒れ果てた館内の一室のカーペットの下に、手つかずの揚げ戸を発見する。その先には暗い地下への階段が伸びている。

 地下室には、大型の棺が安置されていた。そしてその中からは強力な魔術的オーラが感じられる。血盟は危険について協議したが、結局、ベケットとともに棺の開封に踏み切る。

 棺の中には、休眠しているとおぼしき女性血族の死骸めいた身体がおさめられていた。そしてその胸の中からオーラは放散されている。変わり果ててはいるが、この眠れる血族が誰なのか、血盟の者たちは思い出す。それは、公子マルセルの仔であり寵姫であるヴェントルー氏族のマリー・ドリシェットであると。そして彼女の姿はマルセルの死の数年前からおおやけの場で見られなくなっていたということを。

 また、ロジェの見通す力はマリーの胸に隠されているものが、牙のような形をした品物であることを看破する。

 ここでベケットはおもむろに知識を開陳する。これはおそらく「ネルガルの牙」と呼ばれる秘宝であり、マルセルがこの屋敷に持ちこんだものであると。

カスバート・ベケット

 「ネルガルの牙」は、古代メソポタミアに遡ることができる謎めいた起源を持つ強力な秘宝だという。「牙」は、強力な魔術師や死霊術師によって作られたと考えられている。彼らは死の闇のエネルギーを利用することができたが、その持ち主は何千年もの間に転々と変わり、やがて歴史の闇に消え去った。しかし、いかなる手段でか、ニューオリンズの公子はこれを見つけだしたのである。

 アイザックはマリーの身体を切開すると、不気味なほど美しく滑らかないにしえの秘宝を取り出す。恐るべき魔力の品を前に慄然とする血盟。

ネルガルの牙

 そしてさらに事の真相を知るために、アイザックとロジェは意を決して、マリーの蘇生を決断。ムスタファが銃をかまえて警戒する中、二人の血潮はマリーの唇に吸い込まれた。

 肌の色と張りを取り戻し、往時の美貌を取り戻していくマリーはしかし、長年の休眠による渇きからアイザックに襲いかかると、その血を大量に飲み始める。アイザックが飲み干されなかったのは、すんでにマリーが彼のことを思い出したからであった。

 正気を取り戻したマリーは、マルセルの死の知らせに動揺しつつもそれを受け容れた。彼女の記憶はあいまいであるらしく、どうしてここで眠っていたのかははっきりとは話すことができない。

 ベケットは、事の次第をじっと見守っていたが、「ここで見つかるものはこれくらいのようだ」という言葉とともに去っていく。彼はアントニオ公子の客人として滞在しているとのことで、ポケベルの連絡先という形で血盟とのつながりを保った。

シーン4:ダッチとの会談

 ロジェが再び用意したマンションの一室を、マリーの当座の隠れ家とするため、アイザックと彼女は去る。一方、ロジェとムスタファは、咎人狩りが宣告されているこの危険な夜の事態を把握・打開するために、叛徒のリーダー、ダッチに再び会談を申し込む。

 ジャズクラブに向かう途中、数人のギャングとともに二人を待ち構えていたのは、先夜、二人を襲撃した女性血族であった。サイズと名告るこのブルハー・パンクは、ダッチに心酔している叛徒のメンバーである。彼女はどうやら前回の勇み足をダッチに難じられた様子で、この夜に事を構えるつもりはないようだ。サイズは対カマリリャ強硬派であり、血盟のこともはっきりと敵と見ている。その一方で、ムスタファの強さには一目置いたようである。

 「マホガニー・ホール」では、ダッチがギャングたちとともに待っている。ここでロジェ、ムスタファ、ダッチの三者で腹を割った話が展開された。ダッチはマノンが「イエロー・キング」教団を率いはじめた頃から不可解な行動が多くなり、いまや叛徒の運動にとって厄介な存在になっていること。だがそうは言ってもカマリリャに処刑させるわけにはいかないことを明かす。彼は、マノンと血盟との会談をセッティングする用意があることも示して、血盟を鍵にして事態の打開を考えているようだ。

 ロジェとの友情を通して、血盟とダッチとの間でゆるやかな互助関係が結ばれる。それは、将来的なアントニオ公子の失脚も視野に入れた剣呑なものであったが……

シーン5:マンションの一室

 マンションの一室に入ったマリーは、アイザックが自分の教団から提供した若い男たちの血を吸って完全な復活を遂げる。彼女はアイザック=アンドルーの真意をたずね、それが死せる公子の復讐であることを知る。容疑者は唯一、生き残ったヴェントルー、クリストファーであることも。

マリー・ドリシェット

 だが逆に、マリーの記憶も真意も明らかにはならない。秘宝「ネルガルの牙」はいったん、トレアドールのロジェの寝所である館に隠されたが、それが何を企図していたものかは、まだ夜の闇に包まれている……

(つづく)

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