ことばのうみのはじまり2 Dear my Frend

Sと呼んでおこう
すまんがお前の名前がうろ覚えだ。
ここに書き残そうと思う。

出会ったのは高校1年。
同じクラスでもない同じ部活でもない。
それなのになんで出会ったんだろう?
お前は痩せ型で色白で身長が伸びきってない、
いたずらっ子のコオロギみたいだった。

図書室や廊下で会うと
ニヤリと笑い、何かとつっかかってきた。
「美術部なんだよね?美術なんてやってどうするの?」
「おう言ってくれるな。どうなるか分かるようなもの追いかけるほど私はヒマじゃないんだよ」
どこであれ議論がはじまる。
あちらもこちらも嬉々として脳みそをフル回転する。
あいつの挑戦的な眼は嫌いじゃなかった。
名前はうろ覚えでもあの眼と笑顔は焼き付いている。

高校は地方の進学校で、
頭が切れる人や何がしか突出した個性を持つ人が多くいた。
その中でSは自分から好んでぶつかり合いをしていたように思う。
まるでようやく本気でやり合える相手を山ほど見つけて喜んでいるように。

2年になっても同じクラスになることはなかった。
SはSで友人ができたようで、廊下ですれ違うときは仲間に囲まれたまま視線だけを送ってきたりしていた。
わたしと違って社交的で頭の切れるSだから、きっと色んな人と仲良くやっていたんだと思う。
それでも1対1で会った時には「おうやるか?」といつものSとわたしだった。

高校2年の秋、遠目で見つけたSはなにかぶら下げていた。点滴だ。
そして3年のある日、亡くなったと聞いた。白血病だったそうだ。

あの頃のわたしもそれなりに受け止めるものはあったけど
でも今頃になって、さらに深くSの残した爪痕を感じてる。

なんであんな顔で笑えたんだ
わたしはお前の期待に応えられていたか?
好きな人、いただろうか。
あのまま生きていたら、2人の関係はどうなってただろうか。

どこかでバッタリなんて二度と無い。
若くて、小生意気で、対等で、相手の主張を聞く力を持っていた。
死んだヤツは追いつけないからタチが悪い。
ほんと何処までもイヤなヤツだなお前は。
長生きしすぎて腐っちまって、10年前に死んでりゃ良かったのにって思うヤツは多い。
けどやっぱお前の10年後は見てみたかったな。

たまにお前が、わたしのケツを蹴り上げる。
「止まるのは死んでからにしなよ」

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