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五年先のカレンダーに丸をつけた


また明日!京都集合で!

終電ギリギリまでカラオケだなんて、学生のような夜を本当に学生時代ぶりに過ごした4月の日、解散した後に先輩から受け取ったひと言。

相変わらず急な提案だけど、この先輩の良くないところは絶妙にクリアできそうなラインの提案をしてくるところ。そしてどうして明日のわたしに予定がないことを知っているのか。

とかなんとか言いながらもお出かけの用意を進めるわたしは、この人の周りでは結構おもろいことが起きるという方程式を知ってしまっているようです。そしてその好奇心には睡眠欲さえ抗えない。


特に神社仏閣を巡るでもなく、抹茶スイーツを食べるでもなく。ご飯を食べるためだけに京都にやって来ました。先輩とそのお友達と一緒に。

緊張感も不安感も持たなくてよい心地良い接客と、そのまま活力に変化を遂げるだろうと信じられるご飯。ほかほか白米とお肉は、一緒に食べればカロリーとして摂取される前に即エネルギーに変換される気がします。もの凄く個人的な見解。




満腹感と満足感の両方でいっぱいのわたしたちは、その心地良さを身体に纏わせたまま、ふらりと京都の日暮れを歩きました。お昼頃から降り続いた雨は上がっていました。


長袖のシャツと肌の隙間に入り込んでくる風がなんとも心地良い季節。頬にもその風をあてて、貴重過ぎるこの時期の温度と湿度を堪能しておきます。歩きながら眠れちゃいそうなくらいふわふわしていました。


明日は仕事だし早く帰ろうという約束だったのですが、この先輩とは約束通り計画通りなんてものが存在しないことを、うっかり忘れていました。

もうすっかり色を変えた空の下を駅まで向かう道の途中、どうにも興味をそそられて足を踏み入れたその場所には、なんとも不思議な魅力が潜んでいそうな予感。それを感じとった時にはもう、明日のことなんて頭にはなかったようです。


カウンター席のみ、その時その席にありつけた10名以下で創る空間。其処にはディープな京都がこじんまりと、しかし圧倒的な存在感を醸し出しながら佇んでいました。わたし1人ではきっと足を進めない空間でした。

一杯だけ飲みますか、と空いている席に腰を下ろしてものの2分。自家製のリキュールを使用したお酒の中からどちらをオーダーしようかと迷っていると、ひとつ席を空けて座っているお客さんたちとの会話がスタート。それはもうナチュラルな始まりでした。


関西に引っ越してくるまで、お酒を介したコミュニケーションの良さを殆ど知ることなく過ごしてきました。そもそも独特な苦味のある味が美味しいと思わなかったし、アルコール耐性もあまりない。自分で選ぶのなら絶対的に夜カフェ派だったのです。

それでもこちらで出逢った人たちとの交流を通して、こだわりのお酒を味わう楽しさを少しずつ知っていきました。そのグラスに入ったお酒をゆっくり飲みながら弾ませる会話の楽しさも。少しずつ試す中で自分が飲めるお酒のタイプも分かってきて、自ら美味しいお酒に出逢おうと積極的にまでなっています。

そして思うのは、圧倒的にお酒の場で生まれるコミュニケーションが多いということです。わたし自身は烏龍茶しか飲んでいなくても酔ってんの?と聞かれる人間ではありますが、やはり其処にお酒があった方が砕けるものは多いなと感じます。


この夜も、自然と始まったお隣さんとの会話。お酒のおかげでお互いの扉が少し開けられていて、そこにスルスルスルッと入り込んでいく。一期一会で生きているわたしには、こういったその場で居合わせた人同士でその時に生まれる空間や会話が楽しくて仕方がありません。

時折店長さんも会話に参加したり、後から入店された海外からの観光客の方とお話したり。気付けば先輩は2杯目のドリンクをオーダーしていました。一生のお願いも一杯だけという台詞も本気にしてはいけません。

会話はどんどん盛り上がって、お仕事のこと、これまでの人生経験、恋愛の極意などあらゆる話題を行ったり来たりしました。経験豊富な歳上の方々から聞くお話は興味深い。



そろそろ終電を気にして時間を確認する頃、五年後の君らに会いたいな〜と言われました。

奇数で座るわたしたち男女の関係性に変化があるのか、そもそもわたしたちが何処で何をしているのか、初めましての人生の先輩たちは五年後のわたしたちに興味を持ってくれたようです。

一年後でも三年後でもなく、五年後。もうすっかり忘れてしまってもおかしくない未来の約束。お酒を介した偶然の初めましてに対する二度目ましてとしては何だかちょうどいいなと感じて、わたしたちは賛同しました。

連絡先を交換する訳でもなく、カレンダーを開いて五年先の同じ日にスケジュールを登録しました。お互いの名前を書き連ねる訳でもなく、お店の名前だけを追記しました。

これが最後かもしれないし、そうではないかもしれない。必ず次があると保証されたことなんて何処にもなくて。すべての出逢いは一期一会。それでもまた会えたらおもろいねと記されたその予定は、とてもユニークだなと思いました。


いよいよ終電の時間が迫ってきて、先輩は2杯目のお酒を飲み終えました。わたしたちは五年後に此処で二度目ましてをしようとゆるい約束をしたその方々に、元気でねと手を振りました。

その日もその日とて計画通りにはいかない、おもろい夜になりました。話が盛り上がってご馳走していただいたカツサンド、五年後にはわたしたちがご馳走できたら、もっとおもろいなあと思うのです。



じっくり読んでいただけて、何か感じるものがあったのなら嬉しいです^^