見出し画像

マッチロ展[+Colors]直前インタビュー

[KAI-YOU.net 連載アクセス1位]
 [第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 審査委員会推薦作品]
で話題の漫画『BIBLIOMANIA』より厳選されたオリジナル原画の他、新境地となる水彩イラストレーションなど…
鬼才の魅力を凝縮した初個展を開催。
イラストレーター『マッチロ』単独インタビュー。


聞き手:メチクロ [MHz]


『ツブアンマン』まさかの20000RT

まず最初に、名刺替わりの作品として『ツブアンマン』は外せないと思うのですが、あの作品が生み出された経緯から教えてもらえますか?

当時はデザイン会社に勤めていたんですけど、その時に3.11があったんです。震災という現実を目の当たりにして、自分の死を意識するようになり、「俺は本当にデザインを一生やっていくのかな…。」って考えるようになっちゃって…。
その流れからバチっとスイッチが入って、イラストレーターになろうと決めたんです。
とはいえ、全くの無名だったので、とりあえず一年の準備期間ということで働きながらお金を貯めつつ、足がかりとして何かバズることができれば一発逆転になるかもと狙って描いたのが、アンパンマンのパロディ漫画だったんです。それがややウケて…。

ややウケと言うには謙遜しすぎなくらいバズった印象があるのですが、その作戦は1回目で成功したんですか?

はい。一発目でウケたのでラッキーでした。
500RTでもホカホカだなって思ったのが、20000RT以上の反応を頂けたので予想以上でした。
あと、以前から寺田克也さんにすごい影響を受けていたので、画力は拙いんですけど絵柄がそっくりだったんですね。バズった結果、回り回って寺田さん本人が見たそうで、フェイスブックを通じて直接連絡を頂けたことも大きなトピックでした。

「寺田さんが書いたの?」って聞かれることが多くて、寺田さん本人を困らせた。的な逸話も聞いたことがあります(笑)。
もしかして、狙い通りバズったことよりも、寺田さんからのメッセージの方が嬉しかったのでは?

そうですね。びっくりしました(笑)。
前日の夜にアップして、「すごいバズってる。」って思いながらダラっと仕事してたら、携帯がブインて鳴って、フェイスブックを見たら『寺田克也』って表示されてて、「おおおおおおお!」ってスグに体を起こして椅子の上で正座してメッセージを打ってましたね。締め切りもあったんですけど、「知らないよ!」って感じで(笑)。
急いで「絵柄がそっくりですいません。」って返信したら、「面白かったんで、どんどん書いてください」と言っていただけました。
今でも、ちょくちょくお酒を飲みながら絵の悩みを聞いていただいていますのでお世話になりっぱなしです。


 [第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 審査委員会推薦作品] 『BIBLIOMANIA』

画像1


そんな嬉しい誤算があった一方で、イラストレーターとして一本立ちする。という難易度MAXのミッションも残っていたわけですが、仕事に繋がる反応などはありましたか? 

はい。広告代理店に勤めている予備校時代の先輩からも連絡を頂けて、「イラストレーターになろうと思ってる。」って伝えたら、大手百貨店の大きい仕事を振ってもらえたので、本当にラッキーでしたね。

一点突破の大胆な作戦だったにもかかわらず理想的なスタートを切れたんですね。夢がある話だなあ…。そして現在でも、イラストレーター稼業を続けつつ、『BIBLIOMANIA』という超絶技巧の漫画作品を産み出すなど、精力的な展開を見せている印象がありますが、現在の活動ペースはどのような感じですか?

ちゃんとお金を稼げるようになって生活をするっていうのが大前提だったので、子供向けアニメの背景画などのように、頂いた仕事は自分のタッチじゃなくても「とにかく描く!」って感じで進めながら、得意とするダークな世界観を描く機会をいただけたら積極的にトライしています。

作家性と職人性を両立させられる秘訣としては、過去のデザイナー経験が大きいのかもしれないですね。依頼に沿ってアウトプットを自由自在に変えるスキルは、とてもデザイナー的な思考だと感じます。

それはいい面でも働きましたし、逆に自分を出しきれないっていう悪い面もあって…。
作家としてはもっと爆発させないとダメって思うんですけど、常に難しいと感じています。自分の描きたいものだけを描くのが理想なんですけど、現状ではなかなか難しいですからね。

『BIBLIOMANIA』に関しても、一見、個性が大爆発している作品に見えますが、リーダビリティーを意識した画面構成や、細かな意匠などにもデザイナー的なバランスを強く感じます。
伝えるべきポイントを見極める能力と、作家としてのエゴをバランスさせるのは、原作付きの作品では特に求められる能力だと思うので、その点でも驚いた記憶がありますね。
そういった器用さを感じさせる一方、作家性を存分に爆発させたいという微かなフラストレーションを感じ取ったことも、今回、単独の展覧会をお声がけさせていただく動機になりました。
依頼から一年半ほどの準備期間を経ての開催となりますが、その過程で心境の変化や悩みなどはありましたか?

確かに、悩んでしまうようになってますけど、自問自答によって自分の好みがどんどん明確化していくので、それが楽しいんですよね。
一時期は寺田克也さんの線に影響を受けすぎていて、自分でもどうしたものかな。って思ってたんですけど、いつの間にか全然違うものになっていて、光やボリューム感などが好きなんだなって気付けたので、自由に描けています。

画像2

『BIBLIOMANIA』の時点でも、漫画なのにマチエールに重きが置かれていたりと、陰影で描くことができる稀有な才能だと感じていましたが、今回の『+Colors』のシリーズでは、すでに線すらも存在してないという興味深い変化が起きていますよね。

今回の展覧会を切っ掛けに、自分の好きなものを子供時代から振り返ってみたのですが、PixerなどのCG作品が大好きだったことを思い出したんです。デフォルメしてるのに確かに存在している反射光や光の印象がすごい好きだな。ってのを再確認して、自分のスタイルに落とし込む実験を繰り返しました。ご指摘から振り返ると、確かにPixerには輪郭線がないですね。

さらなる特徴的な変化としては、チューブや人体のような有機的モチーフが折り紙のような面構成で描かれている。
こちらもPixer的な影響かもしれませんが、まるでポリゴン由来の立体物のようですよね。
僕が専門とするプロダクトデザインの用語でいうと、R面ではなくてC面で構成されているのが特に個性的だと感じます。 

カクカクしていった経緯に関しては、PinterestやInstagramで海外の作家を検索するのが好きなんですが、保存した画像を一覧しながら、核となる共通点を探して、試行錯誤を繰り返して辿り着いた結果かもしれないですね。
ユアン・アグロウという、本当に美しい面で描く画家がいたんですけど、その人の影響が大きいと思います。
その次世代にあたる、キャサリン・キーホーという女性の作品にも影響を受けてますね。

その点でもデザイナーとしてのスキルが存分に活かされていると感じます。インターネットでサーベイして特徴を抽象化する…いわゆるデカルト的な分解・再構築作業は、誰もが実践できる王道のアプローチとも言えますが、その抽象化の精度とマテリアルの選択こそがオリジナリティを左右する時代なので、『水彩』という、コントロールしづらいアナログツールで描くことにより、さらに個性が際立っていると思います。

確かにそうですね(笑)。 アナログのハッピーアクシデントという意味では、事前にイメージしたものが完全に描けることはないので、試行錯誤が作品に現れやすいと思います。

画像3

シリーズ全体の印象としては、質量をしっかりと感じさせる静物画のような佇まいも現代のシーンでは珍しいです。
少し乱暴にいうと、国内でウケているイラストやフィギュアの多くが『浮遊感』に傾倒していますよね。髪もポーズも四方八方に浮いていて、読み取れない表情で目を見開いて口を開けている作品が乱立している。
『救済』的なニーズに応える商材としての功罪なのかもしれませんが、現代はエクストリームなバロック期が到来しているとも言えます(笑)。
そんな宗教芸術にも似たトレンドの渦中で、マッチロさんのような才能は、つくづく稀有な存在だと思います。
動きを極端に抑えたスタティックな画風ということは意識されてますか?

今は、光とボリュームと重さを意識して描いてるので、そうなっているのかもしれませんね。
漫画的なアクションなども好きなので、落書きでは書いてるんですけど、着彩では試してないので、動きのある絵を作品として完成させることは今のところないと思いますが、今後は挑戦してみたいです。

今回は、展覧会ということもあり、マッチロさんの作品を購入できるようにします。
国内では、必ずしもイラストを展示販売するマーケットが成熟してるとは言い難いのですが、会場としてコラボレーションする『VOID』では、しっかりと展示販売のシーンが根付いてきているので、審美眼が備わっているお客様の目に触れる機会も多いと思います。
今回の展覧会を皮切りに、今後もこの方向性で作品を発表し続けて欲しいし、もし叶うなら、僕らも引き続き協力させていただきたいですね。もっとチカラのある方との大きな動きになるならば、尚更嬉しいので、引き続き期待しています。

VOIDは好きなギャラリーなのでとても光栄です。展示中も描き続ける予定ですので、よろしくお願いします。◾️


画像4

マッチロ展 [+Colors]

9/19[木]~ 9/29[日]
OPEN : 15:00~20:00 [金・土のみ ~21:00] 
9/23[祝日]も15:00~20:00まで営業いたします
入場無料

開催場所:VOID [阿佐ヶ谷]
東京都杉並区阿佐谷北1-28-8 芙蓉コーポ102 

Google map


オープニングパーティー

9/21[土] 19:00~
開催場所:VOID [阿佐ヶ谷]
東京都杉並区阿佐谷北1-28-8 芙蓉コーポ102 

Google map


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?