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その場所はそのときだれもいなかった

シリーズ・現代川柳と短文NEO/033

 帰宅すると机の上でパソコンが動いていた。家を出るときまちがいなくシャットダウンした。それがいま動いている。なぜだ。いったいいつから動きはじめたんだ。だれもいない部屋で、いつから。わたしはぎゅっと目をつぶり、その瞬間のことを想像した。だれもいない部屋でパソコンのディスプレイに光がともり、ファンがまわりはじめる。マウスのカーソルがひとりでに動く。ディスプレイいっぱいに明朝体のテキストが一文字ずつ表示される。だ、れ、も、い、な、い。とっさに目を開けると、だれもいなかったし、机の上にはダンボールとクレヨンで作ったパソコンの形をしたゴミしかなかった。

【本日の現代川柳】
その場所はそのときだれもいなかった
/今田健太郎

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