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そのほうがきっといい



私には5歳の息子がいる。
名前はレイ。

レイは近頃、「ドラえもん」にハマりだした。というのも、つい1ヶ月ほど前に「ドラえもん」の存在に気が付いた彼は、あまりの面白さに夢中になってしまったのだ。のび太やスネ夫や、ジャイアンの毎日を眺めてはケラケラ笑ったり、しかめ面になったり、時には涙を浮かべたりしながら「ドラえもん」の世界に没入する。それで時には「ママ?どうしてうちにはタケコプターがないの?」と聞いてきたり、「ママ!レイくんはどら焼きが食べたい!」と急にリクエストを送ってきたりもする。その度に私は「ママはドラえもんじゃないんだよ〜、」と本当のことを教えたりしている。すると息子は「え〜」と残念そうにしてから再び視線をドラえもんが映るテレビに向けるんだ。その一連を私はキッチンから眺める。
いつまでもいつまでも、この安心に埋め尽くされた毎日が続くと思ってしまう。ドラえもんって子供時代の熱い思い出になるよね。

話は変わるが。
5歳というのはちょうど、夢と現実の間を行ったり来たりするような言動があって、私はそんなレイの様子を見るたび胸がぎゅっとしめつけられたり、妙に温かくなったりするんだ。それは親が子に向かって「可愛い」と思う単純な一言では収まらない種類の温度。この暖かさはきっと、私がとうの昔に置いてきてしまった甘くてもう二度と戻れない故郷みたいなものなんだろう。
そして同時に、大人だけが知っている沢山の冷たい景色はできるだけ内緒にしておきたいとも思うんだ。できれば私も息子と同じあの頃に立って、「タケコプターやどこでもドアがあったらどこにいく?」なんていう話を一日中していたい。

そのほうがきっといい。
そのほうがきっといい。



それからどうやら息子にとっては、「スネ夫」というキャラクターがとにかく嫌みたらしく、意地悪で自慢ばかりしている故、気に入らないらしい。はたまた「ジャイアン」がとてつもなく短気で乱暴なことも。レイは繰り返し、「なんであんなに意地悪なんだろう」と言う。私も同調して「そうだね〜ひどいよね〜」と言う。すると息子はそこで続けて芯をついた発言をしたんだ。

「ママ待って。
本当に悪いのはジャイアンやスネ夫じゃなくて、藤子・F・不二雄なんだよ!だからジャイアンたちは悪くないんだと思う」

と。なんとも核心をついた一言に思わず私は笑った。そうして彼は僅か5歳ながら真実を見抜く力や、悪役にも共感する慈悲のようなものがあるらしい。そういうことがひとつずつ大人へ近づく階段になるのだろうね。

こんなにも毎日くっついて過ごしていると息子はいつまでも5歳で、明日も、明後日もきっとその先も、私のそばで「子供」でいてくれるんだと間違ってしまうが、本当はもうだいぶ階段を登って遠くの景色を眺めているのかもしれない。私はそう言うことを少しずつでも受け入れないといけない。ある日突然、離れてしまったなんてことにならないように。

そのほうがきっといい。
そのほうがきっといい。

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