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地域NPOの政策デザインにリサーチを活用するCloud JAPANの取り組み【 #ResearchConf 2023 レポート】

RESEARCH Conferenceは、デザインリサーチ、UXリサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。

本記事は、認定NPO法人Cloud JAPAN・田中 惇敏さんのセッション『地域NPOの政策デザインにResearchを活用』の模様をお届けします。

宮城県気仙沼市を拠点に活動し、調査研究から論文を作成、リサーチを政策デザインに活用しているCloud JAPAN。リサーチャーという職業がまだ馴染みのない地方やNPO法人で、リサーチを用いることのメリットやその具体的な実践法を教えていただきました。

■登壇者

田中 惇敏
認定NPO法人Cloud JAPAN 代表理事

1993年、北九州市生まれ。4年の休学を経て、大学生13年目。日本最年少の認定NPO法人代表として全国14軒の空き家活用を支援。研究では、パターン・ランゲージの手法を用いて建築ストック活用の各段階を一体となった創造行為として理解し、各段階とその関係の間の良質な型の抽出を試みている。


社会のために働くNPOだからこそ、リサーチで世の中を見る目を鋭く

認可保育施設をはじめとした子育て支援施設の運営や、空き家活用支援など、6つの事業の柱を持つ認定NPO法人Cloud JAPAN。本セッションでは、調査研究事業にリサーチを用いた実例をメインでお話しいただきました。

Cloud JAPANでは、調査研究(リサーチ)を元に論文を作成・発表し、政策デザインの基盤としています。「行政の方から聞き取りを行えば、政策のデザインは可能です」と田中さんは前置きをしながら、それでもリサーチが欠かせない存在である理由について説明してくださいました。

まず、本日の登壇者のなかで、唯一「ユーザーから直接対価を得ない」事業をしていると思っていると田中さんは語ります。

一般的に、客体は顧客、主体は事業者である事業モデルが多くを占めています。一方で、「政策」とは税金として預かったものを困っている人たちに渡していくもの。この仕組みをどうデザインしていくのかが政策デザインです。そのため、一般的な主体と客体の関係ではないことが、今回のユニークなポイントとなります。

政策デザインでは、社会的意味(「地域の方に笑顔で過ごしてもらいたい」などの社会に対しての自らの願い)を追求し、事業モデルを運営すると、自然と主体である自分たちも「豊かに生かされている状態」になれることを目指します。そして、社会的意味と状態の二つをつなぐきっかけや理由のようなものが、「原動力」です。

原動力があればこそ、政策がデザインできます。結果として自分が幸せでありながら、社会も前進する。「一見、素晴らしいサイクルのように思えますが、ここに政策デザインの問題がある」と田中さんは指摘します。

「自分がやりたいこと」と、「自分が豊かである状態」が繋がっているため、社会的意味が薄れているように感じてしまうことが多々あるそう。元々は社会のためにと動いていたのが、活動が周りへ還元できているのか不安が生まれてしまうそうです。対価をいただく活動に比べ、この「自己充足」という状態が、元々の目的を見失わせてしまうのです。

この問題を、政策デザインの工程にリサーチを取り入れることで解消できると田中さんは強調します。

リサーチがあることによって、良い実践があるのかどうか、理想状態と比べてジレンマがあるかどうかを、取り組みの反応としてダイレクトに受け取ることができます。

市民や地域が抱える課題を、リサーチを通じて解像度高く理解することが可能です。さらに、自分たちの活動がきちんと実践的で社会に還元できているのか、効果を測定することができます。「自己充足の枠を抜けて、地域との関係性や変化からフィードバックがもらえるんです」と田中さんはその利点を実感をもって語りました。

政策デザインにおいての“政策”と呼ばれるものは、過去のデータに基づいてつくっている法律や条例なので、周りの客体と呼ばれるものが基本的には古いといいます。そのため、ルールと実際に動いている客体の状態はどんどん変化しつづけています。田中さんは「リサーチと呼ばれるものは1回で終わるものではなく、何度もしていくことが大事です」と、政策デザインにおけるリサーチの重要性を強調しました。

政策デザインのためのリサーチにおけるレビュアーの重要性

具体的に、Cloud JAPANではどのような体制でリサーチを実践しているのでしょうか。Cloud JAPANには、田中さんの他にNPOリサーチャーが1人在籍しています。計2人のリサーチャー体制で、行政職員、市民、スタッフを巻き込んでリサーチを推進しているそうです。

「関係者と共同でリサーチをすることが、NPO法人では大切ですね。リサーチによって地域の課題が明らかになると同時に、私たちだけでなく地域に住むみなさんもそれに気づけます。また、スタッフは、『自分たちの活動にはこんな意味があって、こんなふうに変化をもたらすことができるんだ』と、その意義を知ることができ、活力にも繋がるんです」と地域でのリサーチを起点としたコミュニティ活性化にも田中さんは言及します。

Cloud JAPANのリサーチには、地域外リサーチャーであるレビュアーの存在が欠かせません。都内の経営コンサルティングファームで働く方に土日の副業やボランティアとして、次のような役割を担ってもらっています。

  • ①担い手としての役割:Cloud JAPANを含む地域内の組織や団体にリサーチャーマインドと調査スキルをインストールする

  • ②プロダクトマネージャーとしての役割:リサーチプロジェクトの一連を体系的にマネジメントする

  • ③アウトプットに対してのレビュー:政策提言に活用できる調査レポートとなる質の高いアウトプットが実現できるよう視点を提示する

地域外リサーチャーに、マネジメントと、アウトプットの質の向上をお任せできたことで、地域内リサーチャーは地域の人的関係性を活かしたリサーチの遂行に徹することができているとのこと。

最後に田中さんは、リサーチャーのみなさまへのお願いとして、「ただ、そこにいてくれること」を付け加えました。

「地方で研究・リサーチがもっと広がってほしいと願う一方で、地域に深く入り込んでください、とか、無理をしてでも足を運んでください、とは言いたくないんです」と田中さんは先ほどの言葉の理由を打ち明けます。

まずは、その土地にただ滞在し、体験し、楽しんでもらう。それだけでも、圧倒的に地方で不足しているリサーチャーという職業が、その土地にインプットされるのではないかと期待しているそう。「その先で、地方、そして日本がよくなってくれるのが一番嬉しい」と、田中さんは笑顔で登壇を締めくくりました。

RESEARCH Conference2023のテーマは「SPREAD 広げる」。認定NPO法人から、地域へ、そして日本へ、リサーチが広がるためのヒントと、この先の未来が見えてくるようなセッションとなりました。

▼資料・動画
本セッションでは資料と動画が公開されています!今回の取り組み内容が気になる方は是非ご覧ください!

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[編集]若旅 多喜恵[文章]野里 のどか   [写真] リサーチカンファレンススタッフ

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