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何のためのルールか、なんて

 
あまりのことにショックで寝てしまった。

本当にあまりのことだったので、ここに書き留めておきたいと思う。バイクのレースに興味がないと、何のことやらさっぱりわからないかもしれない。

事件は3段階に分けられる。

今年の鈴鹿8耐、コトは残り6分で起きた。EWC(世界耐久選手権)総合優勝目前のSERT(スズキ)が1コーナー入り口でエンジンブロー。しかし諦めきれなかったのかそのまま白煙を上げながらS字まで走り、ただでさえ滑りやすいハーフウェットの路面に大量のオイルをまき散らす。これが1つ目。

残り2分、トップ走行のままラストラップに入ったKRT(カワサキ)が、くだんのS字で転倒。ちょうど同じタイミングで赤旗中断。普通なら赤旗提示直前のラップの順位で結果が確定するところ、KRTが赤旗提示後5分以内にピットに戻れなかった廉で失格。2位を走っていたヤマハが繰り上げで優勝、そのまま表彰台に登り、トロフィー授与やシャンパンファイトまで行われる。これが2つ目。

そしてレース終了から約2時間後。例の5分ルールがEWCのレースには適用されないことが運営から発表され、KRTが復活優勝。殆どの観客が帰った会場の表彰台で改めて表彰が行われ、8耐5連覇とさんざん持ち上げられたヤマハは2位に繰り下げとなる。これが3つ目。

私はそれこそ中学に上がる頃からレースを見ているが、こんなに無茶苦茶な展開は初めて見た。そりゃあ残り10分でガス欠とか、最終周の最終コーナーで転倒リタイヤとか、競技上の純然たる悲劇は何度も見てきた。しかしこのブローしたままコース上を走るとか、運営がレギュレーションを正確に理解していないとか、よくわからないまま表彰式まで行ってしまうとか、2時間後にリザルトが引っ繰り返るとか、しかもそれが国際格式の耐久シリーズの最終戦で起きるとか、人の情熱やらエゴやら無知やらが極限まで絡み合わないと、こんな事態には絶対にならないと思う。

こういう時に我々はよく「ドラマ」という言葉を使うが、これはドラマ以上の何かだった気がする。ということで、私はその全てを受け止めきれずに、noteも書かずにそのまま寝てしまった。そして今改めてそれを書いている。

ルールはルールなので、当初ヤマハが優勝となったことには全く違和感はなかった。こういう時に棚ぼただと言う人は絶対にいるが、大事なのはそういう機会が訪れた時に、その恩恵を受けられる位置にいることなのだ。今回の8耐で言えば、たとえ優勝には届かないとしても、7時間58分間、集中力を切らさずに2位をキープし続けることだ。そしてそうしたスピリットが集まってレースというものが形作られている。

今回は明らかに運営の問題だと、多くのレース好きは思っていると思う。勿論私もその一人だ。詳しい事情がどこまで明かされるかわからないが、極めてデリケートな部分のルールの理解が浅かったのは勿論のこと、オイルが出た直後にセーフティーカーを入れなかったことも不思議だった(これは各自意見が分かれるかもしれない)。残り6分、スローダウンしたままゴールでは「ドラマ」として興ざめだと思ったんだろう、なんていう邪推が思わず働く。

全てのスポーツのルールは、選手の利益のために解釈され、運用されるべきだと思う。今回で言えば、選手の安全のために早めにセーフティーカーを入れる。選手の名誉のために、時間が掛かってもレギュレーションを子細に検討する。こういうところが後手後手に回ると全てがおかしくなることを、これでもかと見せつけられた8時間の結末であった。

ふう。備忘録的に書き連ねた後で、個人的な感慨を少しだけ。今年のカワサキは勝って然るべき強さだったと思う。つまりそれに相応しい順位に落ち着いたということだ。良かった良かった。

それにしてもこのルールの話、ここまで色々と考えてしまうのは、やっぱり高校野球の球数制限の話が頭のどこかにあるからかな。この件はまた、ちょっと頭を冷やした後で。

※ピットの写真はカワサキモータースジャパンの公式twitterアカウントから借用した。


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