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ココア共和国3月号やながわの感想

ココア共和国やながわの感想です。ご無沙汰しておりました。前回から時間が経ってしまいましたが、何をしていたかというと、詩をかいていました。それも、これまでにない勢いで毎日、電気の消えた部屋で、電気スタンドで灯りを取り(家人が寝ているため)新しくかいたり、以前のものを改稿したり。投稿欄時代も(時代?)これほど毎日、詩に向かったことはなかったと思います。まあ、わたしのことはこのへんで。

今回は、10作品で力尽きました。(2021年3月7日現在)作品と向き合うことは、作者の情熱を受け取ることなのだと思っています。存分に受け取りました。

「哀しい巨人」竹之内稔 

ああ、そうだったなあ、子ども時代って。巨人の世界では、彼ら自身も信じていないらしい言葉として「アイ ヘイワ」を説かれる。「彼ら自身も信じていない」この部分が、現代を風刺していて効果的だ。
さらに、「信号」はグリーンなのに「青」と言わされる。ここ。これは、私自身、本当に今からでも「緑」に変更した方が良いのではないかと思っている。「あおい」が、緑も含んできた言語の歴史や、日本語の持つ色への繊細な感覚とかよりも、せめて「信号機」は「緑」であって欲しい。「青」じゃないからと渡れない子どもがいたり、多くは納得がいかないのに「あれは青!」と言わされることは切ない。信号機は、子どもたちの命を守るものなのだから、分かりやすい納得のいく言葉で教えたいのです。
竹之内さんは、巨人でも「小さな人たち」の心を持っていらっしゃるので、この様な詩がかけるのだと思います。理不尽と駄目出しに負けず、小さな人たちをこれからも大事にしたいですね。
赤とんぼ   中原賢治

素晴らしい抒情詩として読んだ。
壮絶な過去を持ち、死を間近にした「父」と若い看護師。生と死(若さと老いること)、平和と戦争。「モルヒネに癒される深い眠りのまえ/夕陽に染まるガラス窓をあけ/眼窩の奥から流れる泪」この部分が特に秀逸だ。前景と後景の配置が非常にいい。
「なでるように手櫛でといてもらう」「父の耳に唇をあて」に、ホスピスで介護する若い看護師の手と唇がどこか艶かしく感じさせられる。若さとは、生とは、そういうものなのかもしれない。
コロナ禍で、人との接触が極端に減った昨今、触れた指の熱が、やがて死へ向かう時間を前にして、夕陽に飛ぶ赤とんぼの情景へと戻って行くのだろう。 
いっぴきのための子守唄    山口波子

愛犬との生活の日々を、上下に分かれた構成が効いている。以前も、心電図を模した詩をかかれていたが、山口さんの詩の良さのひとつに、こういった工夫があげられる。詩が「読もう」と思った者にしか届かない、届きにくい媒体であるだけに、初見で上部に平仮名が(犬への言葉)並ぶ構成は、読ませる要素として有益だと唸った。
「胸を温めた三、六キログラム」抱っこすると、小さなやや早い鼓動と、すこし体温の高いあたたかいからだが、抱いている胸に伝わってくるように、愛犬にも山口さんのやわらかい胸は安心できる匂いの場所だったのだろうと思います。「また あした」は、最後の「いてもいなくても大好きだよ」に繋がり、余韻を引いています。
やわらかくあたたかい存在としての愛犬。散歩も夜泣きも病気も大変なことも含めて、一緒に歩んだ日々。私も三度の別れを経験しているので、追体験のように涙してしまいました。
映画監督・工藤栄二の告白    木崎善夫

非常に練られた構成に唸りました。(こういった詩、実は梁川は大好きです)「総理の眉は麻呂の眉」おもしろいですね。「王さまの耳はロバの耳」の木崎バージョンでしょうか。
親の仇で顔剃りが始まったら、流血の事態と思いきや、マジックで眉を描くとは!!
シナリオは相当おもしろいが、シナリオどおりでないラストにした理由が「プライド」
やり返すのではなく「誇り高く生きる事が一番の復讐」この言葉を何度も何度も胸に刻む。
「やられたらやり返す」某ドラマも面白かったが、これ以上の復讐はないかもしれない。相手のひれ伏す姿を見ることで得た「爽快感の様なもの」は、あくまでも「様なもの」でしかない。
タイトルが内容にマッチしていてとても良いです。
被害者になりたい          空蝉

酸素吸って 二酸化炭素を吐いているだけで/なんて健気なのって涙ぐまれて

この二行が特に気に入りました。私たちは、決して加害者になりたくないのです。自分が害を与えること、被ることについて、考えさせられた詩です。
被害者にも加害者にもなりたくない、それはどこか絵空事だ。生きているということは、存在自体が両方を併せ持ってしまう。ある事象について、自分がどんなに「やっていない」と主張しても、相手から見れば害を為されたとされることは多い。ハラスメントの認定で、どこまでが「一般論」なのか、難しさがここにある。
あなたなら、どちらを取る。やる方とやられる方。痛みつけられるより、高見の見物が楽ですよ、というメッセージの中に、現代のSNSをはじめとした媒体における歪んだ同調及び炎上が浮かぶ。
ところで、筆名も素敵です。
順序良く         小宮正人

まず、フォントと色を指定した括弧内が、実際に反映されていることが、とてもおもしろい。ココア共和国の編集部の凄さともいえる。ラストの(括弧部分は、この行も含め作品です)これがとても効果的。いいな。
そして、詩の内容ですが、そういえばそうですよね、この様な順序になったのは何故なのでしょうね、という例が上がっている。
「東西南北」「前後左右」「信号機」
(信号機ですよ!3月号で二度目の信号機の「青」は「緑」だ!の指摘。そろそろ市民権を得そうな勢いを実感した梁川です。
確かに、「東西南北」はなぜ十字を切るように並ぶのだろう。日本語は右から、英語は左から、円であるなら「東南西北」のはずだ。(ちなみに麻雀はこれで「トンナンシャーペイ」)麻雀は、天体を観察する中国人が見た薄紙を裏から見た方向でまわる、とかいてあるものを読んだが(梁川、調べました)東西南北を紙にかいて透かしてみたり色々してみましたが、これが一番分かりやすかったので張っておきます。(麻雀の方向と方角)
https://majyan-item.com/hougaku-yomikata/
次に、前後左右。やはり、これも十字を描く。前は「見えてしまう」から、そこから左右を見ずに後を見るには、横の動きでは不可能であり(小宮さんもかかれているように、仰反る、股覗きといった縦の動きが必要)そこまでして、アクロバット的な柔軟さの必要な動作は明らかにおかしい。
などと延々と考え込んでしまった梁川です。
面白い点に着目されてかかれた詩で、相当、梁川の脳を活性化させて頂きました。
怒りだ             向坂くじら

「ひっとりと目をとじれば」
「だれも名まえを/つけるな」 

この二箇所に特に惹かれました。というか、向坂さんの詩は、漢字とひらがなの絶妙なバランスがたまりません。(なまえ、ではなく、名前でもなく、名まえであること)しかも、言葉に力みがないので、読んでいて、内容は怒りなのに爽快感すら感じられるところが魅力的です。
「もえのこり」が、赤くなって暗くなっての繰り返しが二回半続くところの絶妙な加減も。このあたり、とても難しい部分だと思うのですが、さらりとやってのけてしまう。
「ひっとりと」に戻りますが、目の水分量を感じさせる表現と受け取りました。怒りは爆発する水分を内包しているのだろう。
さみしいほど          真水翅

「あれが、生まれる前のぼくたちです」
とても美しい発想に目を留めた。
最初にあったのは月光であること。ぼくたちになる「液体」が霞みがかった月光のもとに吸い寄せられて月をつくる。そして、それは生前であり、死後であり、連綿と連なるものなのだ、と。
液体になるぼくと、ぼくになる液体
今後、月を見るたびにこの詩を思い出すことになるでしょう。このとてもうつくい死生観で。
私たちは、月に還る「だけ」なのだと。
褪貌              中マキノ

「窓の外にいる身体」は、硬質で裸体のブロンズ像のようなのだ。
生身のわたしは、揺れている。少しづつずれている。母に描かれた静止画の中でも揺れてしまう。「生きている」とは、常に揺れ続けることなのだろう。
ラスト行。うっすらと肌に残る色が死ぬということの色。死の色ではない。死ぬという動詞の色なのだ。
生死と静止、偶然でしょうか、必然でしょうか。生死を絵画で描き出す、という難解な手法が魅力的だ。
中さんの詩は、深くまで降りていってしまえるので、どうしても感想をかきたくなってしまいます。
一日の寿命          山口航平
 
誰にも看取られることなく言葉を見失った人口呼吸器の青年が、注射器が刺さったまま溶けて耳のみが残ったこと。
なぜ、「耳」だったのだろう。最後まで何かを聞き取ろうとしていたのだろうか。
誰にも看取られない、人口呼吸器、コロナ禍を表しているとするならば、耳について、いくつかの可能性を感じた。
「企業家の肩に乗っていた二本の糸が虐げられたアジア人の笑った目」
まるでそこに目がついていて動いているように感じた。ハッとするすぐれた表現だ。


以上です。
続き、また書けたら書きます。
自分の詩をかくより難しいのが感想だな、としみじみ思っています。「気に入りました」「好きです」「凄いです」以外の言葉を使って読み解く行為はなかなか難関です。
様々な種類の詩がココア共和国にはあって、これは他所では見たことがない!という詩に出会えること、それをどう読むか、そのあたりでうんうん唸る、勉強させて頂いております。

しつこいですが、信号機はそろそろ「緑」にしましょう。


#ココア共和国   #現代詩  

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