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「女記者が見た、タイ夜の街」ルポ)ゴーゴーボーイの素顔と貢ぐ日本人女性たち

※このルポには性的な表現が含まれます


■「ショーの前は日本のAV鑑賞」


「僕を買う女性?そうだな、日本とか、中国の女性が多いかな。彼女たちはお金を持っているからね」

カンボジア人のリム(仮名、32歳)は、数年前からタイの首都バンコクにあるゴーゴーボーイ(男娼の連れ出しバー)で働き始めた。自身の性器を観客に披露するストリップショーに出演し、週3~4回は客に連れ出してもらい、性交渉する。

「ショーの前は、ステージ裏で日本のAVを見て勃起させるんだ。日本の女の子は可愛くて、僕のタイプだからね。薬を使っているんだろう?って聞かれることもあるけど、そんなことはない。みんなAVを見てるんだよ」

リムはカンボジアの大自然に囲まれた農家の大家族で育った。家は藁ぶき屋根で、もちろんエアコンもない。経済的に豊かとはいえず、20歳のころ、タイに出稼ぎに来た。しばらくは建設作業員などをしていたが、1日の給料は400バーツ(約1,600円)にしかならなかった。
 
現在働く店では、ショーに出演するだけで1日最低800バーツが稼げ、客に連れ出してもらえば、1晩でさらに2,500バーツが手に入る。貯めた金のほとんどは実家に仕送りし、自分は必要最低限の暮らしを送っているという。バンコクのアパートでは、40平米の部屋で同僚のカンボジア人複数人と共同生活をしている。
 
「つい最近、貯めた金で実家を頑丈に建て直すことができたんだ。以前よりずっと稼げるし、僕はこの仕事が好きだよ」
 
屈託のないリムの笑顔を見ると、こちらまで嬉しい気持ちになってしまった。

取材中、彼の隣には、リムを筆者に紹介してくれた、彼の太客である日本人女性が座っていた。他の客の話をして場に緊張が走ると、リムは絶妙なタイミングで「カンパイ!」と言ってグラスを突き出し、場の雰囲気を和ませようとする。
 
リムは筋肉質で浅黒い肌を持ち、彫りの深い端正な顔立ちをしていて、つたない英語でも、さまざまな国籍の客を持つ人気のボーイだった。

優れた容姿や高いコミュニケーション能力に加えて、飾り気のない優しさが、人気の理由なのではないかと推察した。

■各国から男娼を買いにバンコクへ・・・


リムが働くのは、多様な性的嗜好を持つ人が集まるバンコクのパッポン通り。ベトナム戦争時に、米軍の保養地として発展したこの歓楽街には、世界各国から訪れる女性や同性愛の男性らに、体を売る男娼らの存在がある。
 
リムは男性との性行為を断り、女性専門で売っている。「なぜ女性はあなたを買うと思う?」と聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
 
「理由はさまざまだよ。僕を彼氏のように扱いたい日本人女性もいれば、旅行に付き添ってほしいシンガポール人女性もいた。この前は台湾の男女3人組が、男が1人足りないからと、僕を買っていったよ」
 
彼を旅行などに連れ出すには、1日最低5,000バーツを支払う必要があるが、ためらいもなく数日間、彼とともに過ごす時間を買う客がいるという。その場合、かかる宿泊費や交通費、食事代など、諸費用も全て客が負担することになる。

■日本人女性「愛憎混じって深みに」

 
なぜそこまで金をかけて、彼らと時間を過ごしたいのか。ゴーゴーボーイに入れ込む、ある現地在住の日本人女性、えりな(仮名、30代後半)は「彼は駆け引き上手。いつも小遣いをせびられて、嫌いになる時もあるけど、たまに甘い言葉をかけてくれるの。愛憎が混じって深みにはまっていく感じ」と話す。
 
えりなは数年前、海外での生活に憧れ、過去に訪れた国の中でも、過ごしやすかったタイへの移住を決意した。バンコクの日系企業で現地採用として働き始めたある日、タイに旅行に来た友人らとノリでゴーゴーボーイへ訪れた際に、ステージにいた一人のボーイに一目ぼれしてしまったという。
 
えりなの月給は日本円に換算して20万円前後。日本と比べて物価が安いバンコクとはいえ、暮らしに余裕があるとはいえない。

しかし店に行くたびに1万円程度を払えば、彼と恋人のような時間を過ごすことができるので、それで満足している。彼女がボーイについて話すまなざしは恋をしている乙女そのもので、話しぶりからも興奮が伝わってきた。
 
えりなのようなタイ在住者や、旅行に来た日本人女性が、ゴーゴーボーイにはまるケースは多くある。日本では女性に高額な売掛(借金)を背負わせる「悪質ホスト」が問題視されているが、一晩に数十万円、数百万円と貢がされることもある日本のホストと比べれば、タイでボーイたちと過ごす時間はだいぶ安上がりといえるのかもしれない。

■タイ近隣国から集まる男娼たち


一方、リムのようにコミュニケーション能力を活かし、仕事を楽しむ男娼もいる反面、生活苦から仕方なくこの仕事を選ぶ男性も多い。
 
「働いていたバーが閉店してしまって、仕事がなくなったんだ。そんな時、友達からこの仕事を紹介されて。稼ぎは5倍になったけど、本当はこんな仕事はしたくないね」
 
カンボジア人のリック(仮名、25歳)は、終始うつむいた様子で語った。話を聞いていると、小柄な体が、一層小さくなったように見えた。仕事の辛さに加えて、異国での生活が孤独感を強めているという。
 
「タイ料理は好きじゃないから、毎日自炊している。家族も友達もカンボジアにいるから寂しいよ。金を貯めて、早くこの仕事を辞めて、故郷でビジネスをするのが夢なんだ」
 
リムやリックのように、バンコクで男娼として働くのはタイ人だけではなく、近隣国のカンボジア人やミャンマー人、ラオス人に及ぶ。

筆者が訪れたあるゴーゴーボーイの店では、その日出勤していた約20人のボーイのうち、タイ人は数人のみ。その他はこうした近隣国のボーイたちだった。故郷で働く数倍の収入を目的に、近隣国からタイにやってくる男性らは後を絶たない。
 

■NGOは「性的搾取の被害者」と指摘

 
こうした男娼は未成年であっても、年齢をごまかして働いているケースもある。
 
国際NGOのエクパット・インターナショナル(ECPAT International)が2021年4月に発表した調査によると、バンコクと北部チェンマイの男娼20人(15歳~24歳)のうち半数以上が、「もっと若い頃から性サービスを提供していた」といい、最年少はわずか12歳だった。20人のうち18人が「他の生計手段を見つけたら仕事を辞めたい」と回答した。
 
彼らが男娼になった理由としては、「家庭が貧しく、働く必要があった」という回答や、「家庭内の育児放棄や暴力から逃れたかった」といった回答があった。性行為中には客からの暴力や盗難といった被害のほか、薬物使用、避妊具なしの性交渉などを強要される事例が報告されている。
 
エクパット・インターナショナルの調査・ポリシー担当責任者であるマーク・カヴェナーは、「偏見により、多くの人々は少年たちが性的欲求を満たすためにセックスサービスに従事していると考えている。しかし実際は、彼らは性的搾取の被害者なのだ」と指摘している。
 
貧しさから抜け出したい者、孤独を紛らわしたい者、異国情緒を楽しむ者、欲望を発散させたい者――さまざまな人が交錯するパッポン通り。煌々と輝くネオンの下、今日も軽快なダンスミュージックが鳴り響いている。(敬称略)

参考文献:
ECPAT International
GLOBAL INITIATIVE TO EXPLORE THE SEXUAL EXPLOITATION OF BOYS
https://ecpat.org/wp-content/uploads/2021/05/ENG-Global-Boys-Initiative-Thailand-Report_April-2021_FINAL_2.pdf

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