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[西洋の古い物語]「釘」

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今回は、グリム童話より、馬の蹄鉄の手入れを怠った商人のお話です。
短いですが、ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※ ご近所のお庭のテッセンが、今、まさに盛りを迎えています。画像はフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございました。

「釘」

ある商人が市場で商いがうまくいきました。品物が売れて、鞄は金貨や銀貨でいっぱいになりました。そこですぐに家路につきました。夜までには自宅に帰りたいと願っていたからです。

正午頃、商人はとある町で休憩をとりました。出発しようとしますと、厩番の少年が彼の馬を連れてきて、言いました。
「旦那、こいつの左の後ろ脚の蹄鉄ですが、釘が一本足りませんよ。」
「足りないままにしておいてくれ」と、商人は答えました。「残りあと6マイルだ、蹄鉄はもつだろう。急いでいるものでね。」

午後、商人は宿屋に立ち寄り、馬に餌を食べさせました。厩番の少年が部屋にやってきて彼に言いました。
「旦那、馬の左の後ろ脚の蹄鉄が無くなっていますよ。馬を鍛冶屋に連れて行きましょうか。」
「そのままにしておいてくれ」と商人は答えました。「馬はもう2マイルは十分持ちこたえるだろう。私は急いでいるのだよ。」

そして商人は馬に乗って進んでいきました。しかし、ほどなくすると馬は足をひきずり始めました。そして、そうするうちに躓き始めたかと思うと、すぐに馬は転倒して足を折ってしまいました。商人は、馬を転んだ場所に残し、結わえていた鞄をほどき、自分の背中に背負って、歩いて家に帰らねばなりませんでした。

「嘆かわしい。あの釘のおかげでたいへんな目にあったものだ」と、彼は心の中で思いました。

「釘」のお話はこれでお終いです。

 
 最初の休憩場所で馬の蹄鉄の釘が抜けていることを知らされたのに、あと6マイルだから大丈夫だろう、と手入れを怠ったことが、最悪の結果をもたらした原因でしたね。

 商人が荷物を背負って2マイル(約3km)ほど歩かねばならなかったことはともかく、釘を打ち直す時間を惜しんだために転んで骨折してしまった馬が本当に哀れです。骨折した馬は、なんとか3本足で体重を支えることができたとしても、早晩、予後の悪い蹄の難病を引き起して苦しむことになるそうです。だから、骨折したら安楽死させるのが最後の愛情、と考える方も多いそうですね。

 これまで商人のために重い荷物を負って忠実に仕えてきた馬だったでしょうに、主人の不注意と怠慢のために命を落とすことになるなんて、馬もきっと無念だったことと思います。

 たとえ小さな問題でも、気付いたり警告を受けたりしたら、安易に楽観視せず。然るべき対策を講じておかなければならないのだなあ、とあらためて思いました。気付いても、つい対策を後回し、先延ばしにしてしまう私にとって、とても耳の痛いお話でございました。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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