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『母性』

『母性』


湊かなえ著


物語は、ある女子高生が転落死したことに対して、
『愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて信じられません』という、女子高生の母親の言葉に引っかかるという一人の女性教師の疑問から始まる。

物語は、娘(清佳)と母親(ルミ子)が、交互に過去を振り返って独白する形で進んでいく。

一言で、言ってしまえば、大人になりきれない夫婦が、生まれてくる子供を巻き込んで、不幸のどん底に突き落とされながらも、なんとか、生き延びることができたというある意味奇跡的な物語。

タイトル通り、この作品は『母性』をテーマにしていて、それは女性が自然に持っている性質なのか、はたまた状況や経験により形成されるものなのかを問いかけるという体裁ではあるのだけど、そもそも愛情とは何か?、そして、親子の共依存関係が、もたらす悲劇というものが主題なのだと理解した。

「愛」について(コリント13-4)
愛は寛容であり、愛は親切です。また人をねたみません。愛は自慢せず、高慢になりません。礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、苛立たず、人がした悪を心に留めず、不正を喜ばずに、真理を喜びます。すべてを耐え、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを忍びます。愛は決して絶えることがありません。

妻は夫に従い、夫は、その家の頭として、妻を守る。子供は親に従う。
これは、聖書に書かれている家族としての基本的なルールなのですが、本書の登場人物たちは、基本的には、このルールを守っている。ようにみえるのだけど、何かおかしい。
それは、そこに『愛』がないということなのだと思う。本書の登場人物たちは、皆、自分は優しい人間だと思っているはずで、皆、基本的には献身的だ。でも、皆、見返りを求めている。

共依存の関係の特徴について
1. 自己否定: 共依存者はしばしば、自分の感情や欲求を無視し、他人の感情や欲求を優先する。

2. 過度な責任感: 共依存者は他人の行動、感情、選択、健康、福祉、そしてその他の生活の面で過度に責任を感じる。彼らはしばしば、自分がコントロールできない状況に対しても責任を感じてしまう。

3. 依存的な関係: 共依存者は他人に対して強い依存心を持ち、他人なしでは自己価値を感じられなくなってしまう。

4. 強迫的な援助行動: 共依存者はしばしば無意識のうちに、他人の問題解決や欲求を満たすために自分自身を犠牲にしてしまう。

5. 人間関係での不安定さ: 共依存者はしばしば人間関係において過度に不安定な状況を経験する。これには、感情的な浮き沈みや、依存的なパートナーとの関係の中での自分自身のアイデンティティの喪失が含まれる。

6. 過剰なコントロール欲求: 依存症者の行動をコントロールしようとするが、その結果、自分自身の感情や行動にまで影響を及ぼすこと。


家庭環境の中で、親子間、特に母親と娘は、共依存になりやすいように思う。共依存にならないためには、正しい父親の存在が、必要なのではないかと思う。

よく、神と個々人との関係性が、ベースなのだけど、人と人との関係性の基本は夫婦関係なのだと思うと、健全な夫婦関係って重要だなあと思った。夫も妻も、それぞれの両親から離れて、新しい家族関係を築いていく上で、妻は夫に従い、夫は妻を守ることが基本。


本書に戻ると、夫(田所)も、妻(ルリ子)も、それぞれの親子関係から、独立できていないという、幼さが、共依存の悲劇を産んでいるように思った。物語で起こる悲劇的な関係性から、物語の平和的な結末は、結びつき難いような印象は受けてしまったのだけどね。

ある意味、衝撃的な物語だったと思う。人間関係、とりわけ親子関係というのは、共依存の関係性にも気づきにくいから、なかなか怖いなあと思った。

映画も見たのだけど、小説の方がより、ドロドロした人間関係の怖さを感じられる。映画は、だいぶ単純化しているけど、わかりやすいと思う。

firgive,forget. Stella Jang

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