お酒の味

お酒を飲まなくなって10年が経った。

お酒を飲まなくなって何か変わったかと言われれば、特に何も変わってないし、なんなら飲まないのに飲み会には誘われる。基本的には断らない。

とても弱いけど、飲めないわけではない。ただ、苦手っちゃ苦手。お酒を飲んで声が大きくなっている人もちょっと苦手。

お酒を飲んでいる人の話を聞くのは嫌いじゃないし、なんならガンガン下ネタ話しても大抵は許されるあの雰囲気は好き。介抱するふりして、ちょっと嫌いなやつをそこそこの力で叩くのも好き。


お酒を飲まなくなって困ったことは一度もない。10年間で一度も。そしてこれからも。ない、はず。

たまに、ごくたまに、お酒を飲んでいたら得してたのかな、ということはあった。今もある。
察しの良い人は、お察しの通り。

私は性格的に、「お酒の力を借りる」ということができない。
いや、やればできるんだろうけど、相手が酔ってたらフェアじゃないし、その後の罪悪感を考えると、実行に移そうという気にすらならない。

その昔、食事の機会があった人に「もう夜遅いけど、この後どうするの?」という、個人的にはテレビや漫画でしか聞いたことのない、人によっては夢のようなことを囁かれた。

「夜も遅いし危ないので、自宅近くまで送りますよ。僕は明日も仕事なので帰ります」

一般的な模範解答とはかけ離れた回答。「解答」と「回答」ってややこしいよね。

ちなみに次の日は休みだった。

その時の、目を丸くした相手の顔が忘れられない。
どのくらい丸かったかといえば、「平面上で、ある定点から等距離にある点の集まり」という円の定義を思い出すくらいまでには丸かった記憶がある。

今思えばある意味とても失礼なことをしてしまったなと。今でもたまに夢に出てくるくらい。

相手は酔っていた。二本足で歩けていないまではなかったが、しかし本来の様子ではなかった。
対する僕は素面の状態。食事をする前と後で、同じ人格を保った人間がそこにいた。

僕があの時お酒を飲んでいたら、「お酒の力」を借りていたかもしれない。失礼なことにはならなかったかもしれない。
でも、飲まなかった。
正直、その時の食事は、もしかしたらこの後そういうことになるかもとは思っていた。だからこそ、飲まなかった。いや、「飲まなかった」というより「飲めなかった」。お酒の力を借りてしまいそうになるかもしれなかったから。

今でもその時の対応が正解だったのかは分からない。いや、不正解か……。

ちなみに、幸いにもその人とはまだ友人で、今でもたまにこの件でちくちく言われる。ちくちくで思い出したけど、インフルの予防接種忘れてた。


これからクリスマス、忘年会、新年会。
お酒を飲むシーズンの到来である。

というか、お酒を飲む人は色んな理由を引っ提げて飲む口実を作るから、正直シーズンなんて関係ないと思っている。

今シーズンもお酒の場には顔を出すだろう。さりげなく、ちょっと気になる女性社員の隣に座ることもあるだろう。お酒とお酒に合う料理とお酒の場の雰囲気で、今年も終わりだなぁと時の流れの早さに浸るだろう。マジで老けたわ。

でも、たぶん今シーズンも、ボジョレーヌーボーは解禁されても、僕がお酒を飲むことを解禁することはないだろう。


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