神の死骸における生態系

孤独死していく花を見たくて
摘んだ花をひび割れた花瓶に挿した
滴る水滴の音を聴いて
死んでいく私の身体
やがてその根は私へ伸びて
花に命を奪われるという
ただ一つ許せる終わり方を
羽化できないように狭く作られた蛹室 
みたいな部屋の壁際に座り込んで迎える 
生きろと言われたことがなくて
私と神の関係だけが残った
間引かれた花にとっての満開が幻肢痛であるように
初めから実像が欠けている 
その煉獄を全うするために
何にも救われず死ななければならない
一切の喪失は不在の所持だから
死は私
永遠はないということを
午後四時の陽光が照らして
皆が分解者となり、尽きない光源は
神の死骸 循環しない腐敗
鳥は途絶を運び 無精卵を産み続ける
祈りなさい

解けていく遺体
救われず死んだゆえに
満潮に晒される砂城のように
なめらかに液状化して
命の樹形図を伝い落ち
末代へ注がれていく その連なりは
生まれ、死ぬという極刑を
消化するための過程だった その底で
最後の一人は、過去から垂れる水滴を顔に受け
これが全てへの結論なのだと
溜まっていく海の始まりに身を浸す 
かつて死にゆく誰かが
暗い部屋で、どこからか垂れる水滴の音を聞いたように
灰が舞う
救いはなかった
花が綺麗
死はあふれ、原罪へ逆流する
遺体は水源となり  
枯れるために芽生えた草花が繁茂して  
歴史の最期の姿における生態系は
羽化に失敗した蝶
還る場所が海に沈んだ渡り鳥
命はひび割れた花瓶だから
生態系はいつまでも終わり続ける
その喪失の連なりは
絶滅という静かな海へ
流れ着くために一つでも欠けてはならなかった

波打ち際に横たわる私だったもの
それは蝶で、鳥で、花だった
いつか滅びすら終わって 
聖なる自壊は次に生まれてくる
不在を宿した命に啄まれるだろう
だから身体の亀裂から
漏れていく水を止めてはならない
すべての死が孤独死になるまで


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?