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【一日一捨】 PCケース

出張に行くときはこのPCケースにPCを入れて新幹線に乗っていた。
荷棚に荷物を乗せ、PCケースだけ手元に置いて仕事をする。その頃は毎週のように日帰りで京都に行っていた。帰りは駅弁を買って車内で食べる。たまにビールも飲む。あるとき、疲れて酔っ払って完全に眠ってしまい、車内にPCケースを忘れてしまった。東京駅の改札を出たところで気づき、慌てて引き返したけど、新幹線はもう車庫に入ってしまった後だった。駅員さんに確認してもらったら、PCケースは拾得物センターに届けられたという。

拾得物センターは東京駅の地下深くにあった。
もらった地図を片手に迷路のような地下構内を彷徨う。東京駅の地下にこんな場所があったんだと驚く。普段何気なく通り過ぎていた細い通路を一歩中に入ると、そこにはまるで迷路のような空間が広がっている。迷っているうちに終電の時間を過ぎてしまった。大丈夫だろうか。明日に出直してこようかと思っていると前方に拾得物センターの明かりが見えてきた。カウンターにいた係の人に名前を告げると、「少々お待ち下さい」と奥に消えていった。カウンターの奥は薄暗く、たくさんの拾得物が並んだ棚がずっと奥の方まで続いてる。しばらく待っていると係の人が戻ってきて、「これですね」と小さな桐の小箱を差し出した。
「え、違うんですけど…」
不審に思いつつ桐の小箱を開けると、中にはティッシュにくるまれて干からびた臍の緒が入っていた。

そこで目が覚めた。ちょうど新横浜に着くアナウンスが車内に流れていて、PCケースは手元にあった。そういえば、臍の緒って今も実家に置いてあるのかな。次に帰ったときに聞いてみようと思ったけど、結局、聞いてない。捨てる。

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