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【一日一捨】 文学フリマのトートバッグ

文学フリマはわりと初期の頃から出店していたけれど、ここ数年はすっかり規模が大きくなってしまった。おっさんがひとりで本を売っていても誰も立ち止まってくれない。目を引かない。ものすごい美人やものすごいイケメンが本を売っていたら、通りかかったお客さんは「おっ…」と立ち止まってくれるだろうにな。

というような話をゴールデン街のバーで話していたら、カウンターの隣に座っていたコーちゃんが「わたし、売り子してあげましょうか。美人じゃないけど、とりあえず髪の色で目立ちますよ?」と言ってくれた。コーちゃんはそのとき髪をピンクに染めていた。ゴールデン街のそのバーは月に一度くらいにぶらりと顔を出す行きつけの店で、コーちゃんもその店の常連で何度かカウンターで見かけたことはあった。せっかくだからお願いすることにした。

文学フリマ当日、コーちゃんは約束通り来てくれた。
バーでお酒を飲みながら話す分にはいいけれど、シラフで一緒に店番していても、特に盛り上がらない。コーちゃんは小説はたまに読む程度だそうで、好きな作家は山内マリコと村上龍と吉川トリコだそうだ。たまに読む程度のわりには渋い。僕がそのとき売っていたのはSF系の小説だったのでたぶん彼女はあまり興味ないだろうなと思った。一冊献本しようかと思ったけれど、好みでもない本、それも素人の書いた本をもらっても困るだろうと迷っていたら、帰り際にコーちゃんの方から「1冊もらっていいですか?」と言ってきたので、あげた。無料配布のトートバックに入れようとしたら、それはいらないと言われたのでそのまま渡したけれど、以後、特に連絡はなく、こっちから連絡することもなく、ゴールデン街で顔を合わせることもなくなった。あの本、渡さなければ良かったのか。とりあえず、トートバックはもう捨てる。


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