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ソーゾーシー2024 in高円寺演芸まつり感想

 若手落語家・浪曲師の瀧川鯉八、春風亭昇々、立川吉笑、玉川太福の4人による創作話芸ユニットソーゾーシー。
 ネタおろし公演の場合には、誰もが初めて聴く話だから、全く落語の予備知識がなくても楽しめるのが有難い。本公演は、春風亭昇々師匠に代わって、弟弟子の春風亭昇羊さんが出演。

 しかし、週1日しか出てない勤務先での仕事が終わらず、どうにも開演に間に合わなかった。高円寺から駅に向かうときに思い出した感覚は、学校の遅刻。「行けば楽しい」と分かっていながらも気後れしてしまうから、さっさと踵を返して帰宅してしまいたかった。決してクラスの人に注目されないように細心の注意を払いながら、先生や友達が笑えば私もそれに合わせていく。 ま、そんなことを危惧する必要もなく、めちゃめちゃ面白かったから途中からでも行けてよかった。

 会場について受付の人に尋ねたら「2人目」なのだという。中入りのときに声をかけたお客さんによると、私が見逃してしまったのは浪曲師の玉川太福先生で、「また白銀荘に行ったんだって。こっちも毎年のお便りみたいで楽しみになるわね」と話されていた。日常の何気ないワンシーンや、旅行のハプニングが浪曲として唸られると劇画として想像されるから興味深い。太福さんを見逃したことが悔やまれる。独演会で補充しようと思った。曲氏のみね子師匠の包み込むような雰囲気と、その三味線の音色も聴きたい。

 ソーゾーシーの舞台に昇羊さんがいることは新鮮に思えた。春風亭昇太一門の兄弟子である昇々師匠からいただいた台本をもとに新作『パーフェクトゲーム』をネタおろしするのだという。きらきらした目で客席を眺め、しっとりと座布団の上で跳ねる彼に昇々師匠を重ね、「昇々師匠バージョンも見たい!」と思いながらも、その展開と演出に舌を巻く。悋気と夫婦愛の描写は昇羊さんゆえの艶っぽさと思い、その奥行きを含めてピクサー「映画」だった。昨年のNHK新人落語大賞本選にも出場し、今後の活躍が期待される二つ目といえよう。

 奇異な切り口、理論的な展開が持ち味といわれる立川吉笑さんの新作は、徹頭徹尾しつこさが爆発していた『長考桃太郎』。「青ざめた赤鬼」を想像できるという落語の面白さは、彼の著作『現在落語論』でも言及していたように思う。桃太郎が決して「英雄」として描き出されているのではなく、鬼の色を巡って展開されている議論と、鬼たちの描写によってしか捉えられない桃太郎というのが非常に面白い。想像力を試される古典落語『あたま山』的であるが、現実的な着地点を損なわず、観察され、評価され続ける構造というのが『一人相撲』同様の実況性を帯びていた。

 瀧川鯉八師匠の『旅情』は抜群の安定感!私にとって鯉八師匠の落語は幻想的でありながら「そう、これこれ」みたいな形で、体のなかにすっと馴染んでいくから不思議だ。峠の茶屋に差し掛かる旅人と、接客するじいさん。ほのぼのしていながら、2人とも絶妙に微妙に性格が悪い。どんどんと私自身の記憶も活性されていき、積極的に旅に例えがちな「私の人生」って結局何にも起きてないな、って思い始めたら馬鹿馬鹿しくって最高だった。鯉八落語に欠かせないスパイスとしての妬み、僻み、蔑みが、ぴりっと小気味よく演出されており、実に美味。

 余談だけど、遅刻してロビーおりたら鯉八師匠が、モニターに映る昇羊さんを真剣に眺めていて、その背中がよかった。自分に対する厳しさとか、後輩への温かさとか、こっちが勝手に想像したことだけど、垣間見えた気がしてすごい素敵だった。

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