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「確定申告はなぜ始まってしまったのか」歴史と社会から見る税の仕組み

この記事はアドビのPR企画「僕と私の確定申告」に参加しています。


2月になると思い出すのが、確定申告の存在。
税額を確定するために必要な手続きとはいえ、領収書や請求書といった膨大な書類を前に「どうしてこんなことを……」と思ってしまうのは私だけではないはずです。

そういえば、なぜ確定申告は始まったのでしょうか。
そもそも、誰がいつから、確定申告を始めることにしたのでしょうか。

そんな理由を知るために読み始めたのが、『税から読みとく歴史・社会と日本の将来』(栗原克文/きんざい)。本書では、古今東西の税と社会の切っても切れない関係が、当時の社会情勢と照らし合わせながら紹介されています。

多くの人がよく知る戦争や町の景観、その当時の社会のムードと税が密接に関わっていたという税の歴史や、1990年まで導入されていたブルガリアの「独身税」や、日本にもかつてあった「炭酸飲料税」といった、ちょっと変わった税のトリビアまでもが紹介されています。それらを踏まえて、税について考える「目」を養える本です。

この本を書いた先生なら、確定申告が生まれた理由を、当時の社会背景とあわせて教えてくれるのではないか。

そこで今回は『税から読みとく歴史・社会と日本の将来』の著者で、現在は筑波大学ビジネスサイエンス系 企業法学研究グループ教授の栗原克文先生にお話をお聞きすることに。確定申告をはじめとした身近な事柄と税の歴史的背景、さらには税を見る視点についても伺いました。

栗原克文さん
筑波大学ビジネスサイエンス系 企業法学研究グループ教授。
早稲田大学政治経済学部卒業、英国リーズ大学大学院修士。
国税庁入庁後、税務大学校研究部国際支援室長、札幌国税局・名古屋国税局課税第二部長などを経て、2017年より早稲田大学大学院会計研究科教授に就任。2020年から現職。

京都のお店の間口が狭いのは税金のせい?



ーー栗原先生は国税庁に長くお勤めされていましたよね。国税庁勤務時は、どんなお仕事をされていたのでしょうか?

栗原 私は主に、法人課税や途上国支援に携わっていて、とくに途上国支援をする中では興味深いことが多くありました。これは本でも書きましたが、ベトナムの税務職員と一緒に現地の街を歩いていたときに、お店の間口が狭いことに気づいて、話を聞いてみると「お店の間口が狭いのは、税金のせいだ」と言うんですね。

ーーお店の間口の狭さと税金、両者にどんな関係があるのでしょうか?

栗原 かつてベトナムには「間口税」があって、土地に対する税を道路に面する長さ(間口)によって計算していたんですね。同じ面積であっても、間口が狭くて奥に長い土地のほうが税金が少なく済むため、みんなできるだけ間口を狭くしたいと思うわけです。

このように、税が街並みに影響を及ぼす例が京都にもあります。京都には「うなぎの寝床」と呼ばれる町屋がありますが、実はこれも江戸時代に間口税が課されたことが関係しています。

ーー税と社会は密接に関係しているんですね。

栗原 税を担う力のある場所からより多くの税が徴収されてきましたが、時代によって税の主流になるセクターが変わるので、それに伴って税制も変化してきました。社会の状況が税制に影響を及ぼすこともあれば、税制が社会に影響を及ぼすこともあります。

税によって社会を意図的に導こうとする政策もあれば、そうした政策が社会を思いもよらない方向に導いてしまったこともあります。そうした意味で、「税は社会の鏡」とも言えるのです。

税から生まれた戦争、戦争から生まれた税



ーー多くの人が知っているような歴史上の出来事で、税に関係している例にはどのようなことがありますか?

栗原 例を挙げるとキリがありませんが、たとえば、イギリスの支配下にあったアメリカが独立するに至った「独立戦争」も、イギリスから課せられていた重税に対してアメリカ人民の不満が爆発したことに端を発しているのは有名です。

また、税が原因で戦争が起きた事例もあれば、戦争が理由で生まれた税もたくさんあります。日本の所得税もその一つで、日清戦争の前に海軍を増強する目的で明治中頃に導入されたのが始まりです。当初の所得税は課税最低限も非常に高くて、お金持ちの人しか納税しないような制度だったので、「名誉税」と呼ばれていたこともありました。

ただ、その後の類似の戦争によって課税最低限は引き下げられていき、その税率も非常に高くなっていって、国民から徴収する税全体に対して所得税の割合が多くを占めていきました。

ーー戦争と税は深い結びつきがあるのですね。

栗原 それから、おもしろいのは明治時代の地租改正ですね。江戸時代の年貢は、収穫高に応じた税率がそれぞれの藩で定められていたわけですけれども、地租改正では一定の基準に置き直したことはもちろん、税のかけかたが「収穫高にかかわらず土地に対して何%」という基準になりました。

つまり、収穫すればするほど、自分の手元に残るというわけですね。ですので、税制度を変えたことによって、農民のインセンティブを上げたという側面があります。

一方で、凶作になっても地租の一定額を支払わなければいけないため、生活が非常に厳しくなり、一揆につながっていったんですね。このようにさまざまな条件によって納税者の負担が大きく変わってしまうので、その時代や社会背景に応じて税の設定方法を変えていく必要があります。

確定申告の導入を後押ししたのは「360%以上のインフレ」



ーー税金と歴史・社会は密接に関係しているんですね。それでは、確定申告が始まった背景にはどのような出来事があったのでしょうか?

栗原 現在の確定申告が始まったのは1947年で、「申告納税制度」が取り入れられたことに端を発しています。「申告納税制度」は、納税者が税額を計算・申告することで税額が決定する制度で、所得税、法人税、相続税、地方住民税などに採用されました。アメリカがすでに「申告納税制度」を取り入れていて、日本にも取り入れるべきだという考えが強く示唆されて、導入に至ったのです。

前年の1946年11月3日に新しい憲法が公布されたタイミングで、民主的な国民主権や納税の義務も謳われていましたし、民主的な思想に適合すると考えられたようです。

ーー「申告納税制度」を導入する以前は、どのように税を納めていたのでしょうか?

栗原 それ以前は「賦課課税制度」という制度を採用していました。その頃の「賦課課税制度」は、地元の名士で組織される「所得調査委員会」が税額を決定し、納税者に通知を行う仕組みです。現在は法人の住民税や事業税、固定資産税、不動産税などの税額を決定する際に採用されていました。

「賦課課税制度」も「申告納税制度」も、納税者が所得を申告する点においては同じですが、「申告納税制度」が所得に一定の税率をかけて税額を計算するのに対し、その頃の「賦課課税制度」は納税者間の資産のバランスを重視して税額が決められていました。

「申告納税制度」が始まった当時の財務省は「自分で税額を計算・申告する習慣が日本にはないから、いきなり申告納税制度を導入するのは難しいんじゃないか」と言ったようなんですけれども、360%以上のインフレーションが進んでいたこともあって、結果的にGHQの意見を導入したかたちになりました。

ーー360%以上!モノの値段が1年で4倍近く上がるということですか?

栗原 そうなんです。加えて、インフレーションが進めば進むほど、国庫に入ってくる税金の価値も下がりますから、国としては何としてでも徴税したいわけです。こうした背景があって、自発的な納税を確保するために「申告納税制度」を取り入れたと言われています。

不誠実な申告を通報した者に報酬を与える「第三者通報制度」


ーー今でも独立したての人は確定申告に苦労されていますが、社会全体で初めて導入した際は相当な混乱があったでしょうね。

栗原 手続き上の混乱はもちろんなのですが、「申告納税制度」にあわせて導入された「第三者通報制度」の影響は大きかったと思います。これは正しい所得申告を促すために、不誠実な申告に関する情報を税務当局に通報した人に報酬を与える制度です。

また、同じタイミングで他人の申告書を誰でも閲覧できる「申告者閲覧制度」も創設されました。これにより、税務署に請求すれば、他人の申告書を誰でも閲覧することができたので、報酬を得ようとする人たちの通報が相次ぎました。

ーー申告書が誰でも閲覧できて誤りがあると通報される……想像しただけで胃が痛くなります。

栗原 そうですよね。結果的に「第三者通報制度」は、密告を促す社会は望ましくないという理由で1954年に廃止され、代わりに高額納税者を公示する制度に変わり、それも現在は廃止されています。

ちなみに、現在もアメリカをはじめとしたいくつかの国で、通報者に報酬を与える「第三者通報制度」が実施されています。途上国では経済成長のために税をしっかりと納める必要があると考えられて、こうした制度が導入されやすくなっているんですね。

ベトナムでは2000年以降に「申告納税制度」が導入されました。もう随分前ですが、私が国税庁の職員としてベトナムに行ったときに、「税が適正に申告されているかはどうやって確認してるの?」と聞いたら、「町のマーケットの中にある税務署に納税者所得一覧を貼っておいて『違うなと思う人がいたら教えてくれ』と伝えている」と話していました。

ーーでも、日本ではなぜこのような制度が導入されたのでしょうか?

栗原 当時の日本は戦後ものすごく財政難に陥ってしまっていたからですね。復興するお金を集めるためにGHQから国税庁へとかなり厳しい取り立てが行われ、目標を達成した税務署長には報償としてシャープペンシルが贈られましたが、目標未達成の税務署長はGHQから激しく叱責されました。

ただ、無理な課税が行われると、納税者も「最初は税を少なめに申告しておこう」ということになりますし、税務署側も経験の少ない人が多かったので「どうせ過少申告しているんだから課税しよう」という悪循環が起きたんですね。そうしたお互いの不信感から申告納税制度はスタートしました。

ただ、その後の1950年にアメリカのカール・S・シャウプ博士をはじめとした7人の税制使節団が派遣されて、日本の税制や税務執行の様子をかなり詳細にヒアリング・調査したうえで、望ましい税の改革案を提言しました。いわゆる「シャウプ勧告」です。

申告納税制度に関して言えば、このときに青色申告制度の創設や、税理士制度も整備され、税務署と納税者の間の信頼が少しずつ築かれていきました。

税について考える「目」を養う



ーー税に関してお聞きしてみたいのが、消費税のことです。最近かなり短い期間で何度も上がっている印象なのですが、どうしてこんなにも頻繁に上がっているのでしょうか?

栗原 政府は、社会保障の財源に回すためだと説明していましたね。消費税は皆さんご存じの通りモノを買ったときにかかる税金で、好景気・不景気にかかわらず、ある程度はモノを買わなければいけませんから安定している、という考え方からだと思います。

高齢化が進んで社会保障負担が上がっていく中で、どこかで財源を確保しなければならない。日本の国債の残高もGDPの2倍くらいになっていますから、ほかに財政余力がないんですね。そして消費税を上げることになったのだと思います。

ーーそうなんですね。ちなみに、日常生活を送っていると、消費税をはじめとした税制の改正が決まってから初めて「ええ!」と驚いてしまうのですが、私のような一市民が普段からできることは何かあるのでしょうか?

栗原 まず税制の改正が行われる手順なんですけれども、さまざまな業界の団体があって、それぞれの所管省庁や関連する省庁に税制改正要望を出すことができます。それを各省庁が取りまとめて、財務省に税制改正要望を提出します。

財務省で取りまとめられた意見の中でも、中長期的なものに関しては政府の「税制調査会」で検討して議論するわけです。税制改正にこれを盛り込む、盛り込まないといったことは政治家たちで決めていくわけですね。今ちょうど税制に関しての議論が行われていて、通常は3月末に予算案の中で可決されています。

ですから、国民が税に関する意見を反映させるためには、新聞のコラムやSNSをはじめ、さまざまなところで話題にしていくことが大切かと思います。

より身近なことで言えば、生活の中で「この税ってなんであるんだろう?」ですとか「どんなことに使われているんだろう?」といったことを考えたり、そのことについて友人と考える機会をもうけたりすることもできますね。

そうしている中で、税制改正要望を出している団体とつながるかもしれませんし、まずは考えて、発信していくことが大事だと個人的には思います。

確定申告用の書類をPDFにまとめるなら「Adobe Acrobat」



確定申告をはじめとした税制の背景にある壮大な人間ドラマと歴史。それらを興味深く聞かせていただく中で、以前よりも確定申告や税への抵抗感が薄れ、身近に感じられるようになった気がします。

しかし、どんなに親近感を抱いたところで、消えてくれないのが領収書の山。数字と書類関係の手続き、片付けが苦手な私にとって、確定申告の領収書整理・保存は三重苦なのです。

そんな私のような方におすすめしたいのが、「Adobe Acrobat オンラインツール」。

アドビと言えば、クリエイティブツールのイメージが強いですが、確定申告にも役立つ機能が搭載されているものもあるのです。

Adobe Acrobat オンラインツールの主なおすすめポイントは、以下の5つ。

Adobe Acrobat オンラインツールのおすすめポイント
①領収書のPDFを結合できる
②ページ数の多いPDFを圧縮できる
③スマホで撮影した領収書の写真をPDF化できる
④既存のPDFに領収書を追加できる
⑤領収書のPDFを日付順に並び替えられる

①領収書のPDFを結合できる

PDFを結合する」機能を使えば、複数の領収書のPDFを1つにまとめられます。領収書をシンプルに管理したい方におすすめです。

②ページ数の多いPDFを圧縮できる

大量の領収書をまとめたPDFはページ数が増えてファイルサイズが大きくなりがち。「PDFを圧縮する」機能でファイルサイズを縮小すれば、PCの容量を圧迫せずに保管できます。

③スマホで撮影した領収書の写真をPDF化できる

JPEGをPDFに変換する」機能で、複数の領収書の写真を1枚のPDFにまとめられます。PDFにまとめた領収書の写真を削除すれば、スマホの容量節約にもつながります。

④既存のPDFに領収書を追加できる

領収書が増えたときは「PDFにページを追加する」機能で、既存のPDFにページを挿入できます。こまめに領収書の整理をしたい方に便利な機能です。

⑤領収書のPDFを日付順に並び替えられる

PDFのページ並び替え」機能を使えば、複数の領収書をまとめたPDFのページ順を変更できます。日付順に並び替えれば振り返ったときにわかりやすくなるでしょう。

また、紙の領収書をPDF化したい方は「Adobe Scan」がおすすめです。

「Adobe Scan」の3つの機能
①領収書を撮影するだけでPDF化
②PDFファイルはクラウドストレージに自動保存
③テキスト変換をしておけば、検索も簡単

①領収書を撮影するだけでPDF化

領収書を撮影するだけで、「Adobe Sensei」というAIが画質や傾きを調整してくれて、PDFに書き出してくれます。

②PDFはクラウドストレージに自動保存

作成されたPDFは「Adobe Document Cloud」というクラウドストレージに自動保存されるので、整理の手間もかかりません。

③テキスト変換をしておけば、検索も簡単

PDFをテキスト変換しておけば、「あの領収書を見たい」と思ったときにクラウド内で検索して領収書を見つけられるようになります。

これらを組み合わせて、確定申告の書類管理を効率よく進めてみてはいかがでしょうか?


最後までお読みいただき、ありがとうございました いただいたお金は好きな文章を書く時間に充てさせていただきます 今後とも応援のほど、よろしくお願いいたします!