レイ・クーニー「ラン・フォー・ユア・ワイフ」の魅力

 レイ・クーニーという作家は、世界一ユーモアセンスがあると自負しているであろうイギリス人たちを半世紀以上にわたって抱腹絶倒させ続けている、いわばキング・オブ・コメディです。
 レイ・クーニーの作品ってどんな感じ?と聞かれた時、「三谷幸喜さんの作品みたい」と言えばわかりやすいかも知れません。
 それは、一口に言えば「ワンシチュエーションの中で登場人物たちがひたすら困った状況にあって、なんとか打開しようと右往左往するも、さらに状況が悪化してしまう」という作風です。
 レイ・クーニーの「ラン・フォー・ユア・ワイフ」も御他聞に漏れずそういうワンシチュエーションの喜劇です。この作品は一言で言ってしまえば「修羅場」のフルコースです。想定できるあらゆる修羅場が詰め込まれている戯曲の完成度は感動的ですらあります。
 そして修羅場とは、渦中でもがいている当事者からすれば悲劇に違いないのですが、傍目から見ればとてつもなく滑稽なのです。レイ・クーニー自身も「最高の笑劇は悲劇である。良質の笑劇のプロットは、純然たる悲劇に置き換えることができる」と述べています。

 この作品の主人公ジョン・スミスは、どこにでもいるような平凡なタクシードライバーです(ちなみにこのジョン・スミスという名前は日本でいうところの「山田太郎」のように平凡の代名詞のような名前です)
 ところがこのジョン・スミスは、なんとメアリーとバーバラという二人の奥さんと二重生活を送っていたのです。厳密なスケジュール管理によって、二人の奥さんに全く気付かれずに過ごしていたのですが、あるちょっとしたアクシデントによって彼の完璧なスケジュールが狂ってしまいます。
 真面目なジョンはこれまで一度もスケジュールを狂わしたことがなく、心配する二人の奥さんたちによって警察沙汰の大騒ぎになり、危うく重婚の秘密がバレてしまいそうになります。そこで上の階に住む友人スタンリーと協力して、何とかごまかそうと悪戦苦闘するのですが、どういうわけか事態はどんどん悪くなっていきます。
 
 論より証拠ということで、ほんのちょっとだけネタバレしつつ、どんな内容なのかをお話ししたいと思います。雰囲気が伝わるといいのですが。。。

 主人公のジョンがもう一人の妻バーバラと四苦八苦している時、ジョンの家で留守番をしていたスタンリーの所へ警察がやって来ます。
 そこはジョンの家ですから、警察は当然そこにいる男(スタンリー)がジョンだと思って事情聴取を始めます。スタンリーもなんとか帰ってもらおうと、ジョンのフリをして受け答えするのですが、そこにジョンの一人目の妻メアリーが帰って来てしまいます。
 スタンリーは、嘘がバレないように「お帰りダーリン!」などと言いながらメアリーを抱きしめたりするのですが、ジョンのことが気がかりなメアリーはスタンリーを無視して警察官に質問をします。
 「ジョンは大丈夫なんでしょうか?」
 警察は、目の前にいる男をジョンだと思い込んでいるので、スタンリーを見ながら「だと、思いますが…」と答えます。
 さらにメアリーが「では、主人と話したんですね?」と聞くと、「おかげさまで」と答えるまではいいのですが、「今、どこにいるんですか?」と聞かれたら、「どなたが??」とすっかり混乱してしまいます。その間、スタンリーは何とか取り繕おうと会話の邪魔をするのですが、ついに業を煮やしたメアリーはスタンリーを叩き出してしまいます。
それを見た警察官は「あんな風に追い出してしまうのは、どうかと思いますよ」と、忠告します。
 それでも「いいんです、あんな奴!」というメアリーに、「キスと抱擁ですぐに仲直りできるでしょう」と、追い打ちのアドバイスをします。当然メアリーは怒って「死んでも嫌です!」と言うので、「それはお気の毒に…」と弱ってしまいます。

 いかがでしょう。雰囲気が伝わればいいのですが。
こんな風に、この場面では警察官が「スタンリーをメアリーの夫だと思い込んでいる」というただ一つの勘違いだけで、会話の中にいくつも抱腹絶倒のすれ違いが生まれています。
芝居全体を通しても、「一人の男が、重婚の事実をなんとか隠そうとしている」というたった一つのシチュエーションがあるだけなのに、そこには考えられるおよそ全てのすれ違いが会話となって提示されています。
 そして、やがて二人の妻が同じ場所で鉢合わせをしそうになって(まさに修羅場です)物語もクライマックスに向かうのですが、、、、、そこから先はここには書きません。
 喜劇というのは、劇場に足を運んでいただき、そこで実際に登場人物たちの修羅場を感じてもらいながら、他のお客様と一緒に笑っていただくのが一番いいからです。

 続きが気になった方はぜひ公演を観に劇場にお越し下さい。

ABsu公演 3都市(東京/大分/北九州(福岡))ツアー
『ラン・フォー・ユア・ワイフ』
作:レイ・クーニー
翻訳:小田島雄志/小田島恒志
演出・潤色:野村架織(ABsun)

[東京] 新宿シアターブラッツ
2019年4月10~15日
[大分] J-COMホルトホール大分(小ホール)
2019年4月28~29日
[北九州(福岡)] 枝光本町商店街アイアンシアター
2019年5月3~4日  

日下扱いのチケットご予約はコチラ↓
https://www.quartet-online.net/ticket/absun2019runfor?m=0hicjfb



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