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舞台「高円寺が踊る」無料配信中

私は2022年10月13日〜16日まで座・高円寺1で上演された舞台「高円寺が踊る」に出演しました。

この舞台は令和4年に区政90 周年を迎えた杉並区が、記念事業の一環としてプロポーザル方式で実施した演劇公演です。

芝居の内容は「高円寺阿波おどり」誕生の史実を下敷きに、高円寺で暮らすとある家族の親・子・孫の三世代の視点で昭和・平成・令和の3つの時代を跨いで壮大に描く高円寺的大河ドラマです。

出演者は杉並区在住者限定のオーディションで選ばれた22人と、作演出を担当した池亀三太さんが主宰するマチルダアパルトマン所属の俳優3名の総勢25名です。

注目すべきことは、出演者オーディションで選ばれた区民の中で、「俳優」という肩書きで活動する人は数名だけで、ほとんどの人が舞台経験のない他業種に従事する方々だったことです。

地域の居住者が参加する演劇という意味において、今作はコミュニティ・シアターに類する演劇と言えると思います。

私の拙い経験から申し上げますと、コミュニティ・シアターや、いわゆる市民劇は、どうしても「素人演劇」というイメージが先行して、プロが作る舞台よりも数段クオリティが下がったものになると思われがちです。

しかし「高円寺が踊る」は、全国的な知名度がある出演者は一人もいなかったにも関わらず、初日を開けるやいなや口コミやSNSで評判となり、当日キャンセル待ちを求める人が日に日に増え続け、千秋楽には実に50人もの人が劇場前に並ぶ話題作となりました。

参加していた人間が言うと手前味噌になってしまうことを承知で申し上げますと、私は今回の演劇公演はコミュニティ・シアターの一つの到達点だったのではないかと思います。

参加者の私から見た、本作の特長は以下の4点です。


1.演技経験者と未経験者の区別がなかったこと

いわゆる市民劇では、大多数のアマチュアの市民出演者の中に、少数のプロ俳優がゲスト扱いで出演するというケースが一般的かと思います。当然のことながら、そこには待遇の差があったり、観客から見て経験者と未経験者の演技の質が歴然と現れたりすることが多いです。
それに対し「高円寺が踊る」の創作現場において、演技経験者、未経験者という隔たりは一切ありませんでした。みなさん、会社員だったり、区役所でお勤めだったり、阿波踊りをやっていたり、デザイナーをやっていたり、理学療法士をやっていたりする中で、たまたま役者をやっている人もいて、とにかくみんな一つになって自分たちの街の物語を紡ぎました。これができたのは本当に素晴らしいことだと感じました。


2.内容が自分たちの住む街の物語だったこと

私はかつて、ある地方の演劇祭で審査員を務めたことがありますが、参加団体がみな既存の人気作を上演したり、オリジナルであっても地方色の一切ない作風であったことに対して「一作品くらいは、この土地に住む人が土着の問題意識と正面から向き合った作品が観たかった」と思いました。
コミュニティ・シアターの目指すべき方向性が「プロじゃないのに頑張ってる」ではなく「我々にしか創れない演劇」だとしたら、今回、出演者が高円寺のことを「わが町」として共有できていたことはとても大きな強みでした。

3.ワークショップを繰り返して作品を作り上げていったこと

今回の作品は最初から完成した台本が配られて「ではセリフを覚えてください」といって始まったわけではありません。
半年という期間をかけて、幾度もワークショップを繰り返しながら少しずつ完成していきました。それは私たち杉並区の住民が、自分たちの街の歴史と向き合い、あるいは自分自身の歴史と向き合う時間でした。
その結果、私たちは、自分の人生を、生活の息遣いをそのまま舞台に乗せることができたのです。
決して個々人のノンフィクションというわけではありませんが、私たちのワークショップを参考にして池亀さんが脚本を肉付けしていったことは間違いありません。


4.参加者全員の心理的安全性に配慮されていたこと

事前のワークショップも含めて、今回の創作の場が、参加者全員にとって心身共に安全な場であることが明確に目指されていました。演出家は稽古場で声を荒げたことはおろか、語気を強めたことすら一度もありませんでした。
もちろん、私の目に見えた範囲内のことに限った話ですので他の人がどう感じていたのかは知る由もないのですが、少なくとも私がこれまで経験した現場の中でも、トップレベルに心理的安全性に配慮された場だと私は感じました。

以上のようにして結実した舞台が、全公演満席という形でお客様に受け入れていただいたことから、私は今回の「高円寺が踊る」が、コミュニティ・シアターのあるべき姿を示せたのではないかと思っています。

少なくとも「90周年の節目を区と区民が一体となって祝うとともに、その先の 100 周年を見据え、次世代に区のこれまでの歩みを継承し、区民の愛郷心を醸成するため」という杉並区の目的は十分過ぎるほど達成できたと私は信じています。また今後同様の事業を実施する他の自治体のモデルケースになり得るのではないかと思っています。

現在「高円寺が踊る」は杉並区の公式YouTubeチャンネルで無料公開されています。ぜひご覧ください。

ご視聴はコチラ


【公演概要】

上演期間
10月13日〜16日

会場
座・高円寺1

出演
あらおえみり
伊藤嘉信
井山育子
おがた淳信
小幡悦子
狩野祐人
樋口双葉(マチルダアパルトマン)
日下諭
小池舞
小久音(マチルダアパルトマン)
佐久間通子
佐々木慶
島本雄二
高橋紗綾
田中悠貴
手塚真梨子
中坂弥樹
由島多朗
福田留花
松本みゆき(マチルダアパルトマン)
本橋正敏
やすみきよこ
山本裕子
優貴
米田萌

スタッフ
脚本 • 演出:池亀三太
舞台監督:水澤桃花(箱馬研究所)
舞台美術:平山正太郎(センターラインアソシエイツ)
演出部:新谷太
照明:阿久津末步 (LICHT-ER)
音響:中村光彩
音楽:大垣友(マチルダアパルトマン/第27班)
宣伝美術:安藤理樹
ビジュアル撮影/記録写真撮影:市川唯人
ビジュアル協力:飛鳥連 伊藤嘉信 中島多朗 松本みゆき (マチルダアパルトマン)
記録映像撮影:観劇三昧舞台撮影所
WEB:菅原達也
制作:伊坂共史
製作:佐藤商事株式会社
主催:杉並区(区制施行90周年記念事業)
協力:NPO法人劇場創造ネットワーク/座・高円寺
NPO法人東京高円寺阿波おどり振興協会

本編のご視聴はコチラ

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

成田将太役
日下諭

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