マイズナー・テクニックのWSについて

 私が演技のワークショップを受けに行く理由は主に二つあって、一つは新しい芝居のDNAを求めて全然未知のところに行く場合、もう一つは、同じ演劇の神様(もしくは近い神様)を信じていると思われる人のところへ行って一緒に礼拝を捧げる場合です。
 ペーター・ゲスナー氏、マイズナー・テクニック、モスクワ芸術座のセルゲイ、高泉淳子氏、ローナ・マーシャル、このあたりが私の演技のDNAになっています。
 その中でも私が俳優としての自分自身の演技のDNAについて言及する時、必ず挙げるのがマイズナー・テクニックのコーチである柚木佑美氏の名前です。
 彼女は私が新国立劇場演劇研修所にいた時、通年マイズナー・テクニックの講師をしていた先生です。ご本人も俳優でありながら、ネイバーフッドプレイハウスのキャリー・シベッツ氏に師事し、日本で「アクターズ・ワークス」という団体を立ち上げ20年以上マイズナー・テクニックのワークショップを開催する傍ら、NHKの朝ドラや大河ドラマで演技指導をしており、今や日本を代表するようになった新人俳優を数多く育ててきました。
 演出家の谷賢一さんは「僕の知る限り、マイズナー指導に関しては日本で柚木さんの右に出る人はいない」と言っていて、映画監督の谷口正晃氏も柚木さんのレッスンについて「演技に必要な「本物の感情」が実に合理的に、具体的に獲得できるカリキュラムになっている」と、推薦しています。

 マイズナー・テクニックとは、もともとリー・ストラスバーグの弟子であったサンフォード・マイズナーという俳優が、独立してネイバーフッドプレイハウスという小劇場で俳優養成を始めたのが起源です。クリストファー・ロイドやフィリップ・シーモア・ホフマンなどが卒業生です。
 「リピティション」と呼ばれる独特の訓練方法が特徴ですが、キャリー・シベッツ氏は日本で指導を行う際、一回につき数週間という短いスパンで効果を発揮させるため、独自のカリキュラムを考案しました。それが今でも「アクターズ・ワークス」のマイズナー・テクニックのワークショップに継承されています。

 まず、最初にやるのが「エクササイズ・クラス」。10日間で、リピティションの方法に慣れ、ありのままの感情で相手とコミュニケーションをするために、さまざまなエクササイズを行います。特に、自分にとって出しにくい感情を半ば無理やり出すエクササイズは時として多少壮絶なものになります。笑
 次が「キャラクター・クラス」。エクササイズ・クラスを修了した人がエクササイズ・クラスで習得した方法をもとに、実在の人物を役作りして演じます。この役作りの方法は俳優として一生ものの財産になります(個人の感想です)。
 最後が「シーン・クラス」。エクササイズ・クラスおよびキャラクター・クラスで扱った方法論を使って、実際にシーンを演じます。とは言っても、演出がつくわけではありません。つまり、演出家の前でやってみせる前の段階で「嘘のないコミュニケーション」「ありのままの感情」でシーンを相手役と一緒に作ることを目的としています。

 そして「アクターズ・ワークス」のワークショップ(に限らず高円寺K’sスタジオで行われるものの多く)は「プロ・またはプロを目指す人」が対象となっている、いわゆるプロ向けのワークショップとなっています。これは、目的とターゲットが非常に限られているということです。このワークショップを受けたら「健康になる」とか「ウエストラインが綺麗になる」とか「ものごとをポジティブにとらえられるようになって人間関係が良くなる」とかそういうオマケは一切ありません。ただただひたすらに俳優として仕事をする時のことだけを想定して、訓練をします。自分の感情と向き合う作業は時としてすごく厳しく苦しい時間になるわけですが、それも俳優として仕事をして自分の口を糊するためだと思うから耐えられるし、楽しいと感じることもあるのだと思います。

 もちろん、俳優の訓練法はたくさんあって、マイズナーをやっていないからといってプロの俳優になれないかと言えばそんなことはありません。また「これができなければ俳優として失格」みたいな方法論はおそらくありません(でも時々そういうこと言っちゃう指導者もいるんだ、これが)。あるのは自分に合うか合わないかだけです。
 ただ、芝居をしている時に迷子になってしまった時に、どこか一つでも自分の中で立ち返れる拠り所がある、というのはなかなか力強いものだと感じます。
 もしご興味のある方は、ぜひ一度門を叩いてみて下さい。

詳しくは
https://actorsworks.jimdo.com/をご覧ください。

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