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国立奥多摩美術館館長の他の美術館に行ってきた!(Vol.19)-市原湖畔美術館『青木野枝 光の柱』

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国立奥多摩美術館館長の
他の美術館に行ってきた!(Vol.19)
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市原湖畔美術館
『青木野枝 光の柱』
会期:2023年10月14日~2024年1月14日
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 2023年10月29日(日)晴れ。車で東京湾アクアラインを通り、海ほたるパーキングエリアで休憩して美術館に向かった。千葉県一の貯水面積を誇るという高滝湖の湖畔に建ち、2013年にリニューアルオープンした市原湖畔美術館。初めて行ったのだが、とても気持ちのいい場所にあった。建物は、リニューアル前の既存の仕上材が全て剥がされ、骨格のコンクリート部分が大胆に生かされていてとても面白い。青木野枝さんの個展が開催中とのことで行ってきた。野枝さんは主に鉄を素材に用いて作品を制作している。鉄というと「重く」「硬く」「強い」というイメージがあるのだが、野枝さんの作品の前に立つと、重さも硬さも強さも感じない不思議な瞬間がある。さらにいうと、山や雲や水たまりを見た時のような「誰がどうやって作ったのか」ということを全く考えなくなる瞬間がある。ある瞬間に素材が素材でなくなる。素材が魔法をかけられ、別の物に変身する。美術という術は魔法みたいなもので、美術家は魔法使いのようなものなのかもしれない。今回の展覧会では、館内の高さ9mの吹き抜けがある空間に、展覧会のタイトルになっている光の柱があった。その光の柱は、たしかにすごい時間をかけて鉄でできていた。作品を見る時に「誰が何を、どんな方法で、どれだけの時間をかけ、作ったのか」ということを考えながら見る習慣がついてしまっている。今回も野枝さんの作品を見ながら「よくこんなことができるな」という野暮な感想も持ってしまうのだが、それと共に美術館へ向かう道中に、海の真ん中に浮かぶ海ほたるパーキングエリアから、雲の隙間と海をつなぐ光の柱が見えた時の、ただただ「この世界にはこんなことが起こるのか」という感動に近い感情が、美術館で野枝さんの作品を見た時にも芽生えた。野枝さんの作品を見た後は、いつもなんだか元気がでる。(佐塚真啓)
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「西の風新聞」第1728号 掲載
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