見出し画像

国立奥多摩美術館館長の他の美術館に行ってきた!(Vol.21)---東京都現代美術館『豊嶋康子 発生法-天地左右の裏表』


国立奥多摩美術館館長の
他の美術館に行ってきた!(Vol.21)
---
東京都現代美術館
『豊嶋康子 発生法-天地左右の裏表』
会期:2023年12月9日〜2024年3月10日
---
2024年1月27日(土)晴れ。電車に乗って清澄白河駅まで行き、そこから東京都現代美術館まで歩いた。天気が良くて気持ちいい。毎年、正月が来て年が始まり、いわゆる正月気分といわれる世間のソワソワした雰囲気に包まれている所から、少し日常が戻ってきていた。あっという間に今年も1ヶ月が終わってしまったなという、矢のような時間の流れを実感する1月の末。とはいえ、今年のスタートは、能登半島地震によって、いつ何があるかわからない、という事を強く感じさせられる年始となった。2011年の東日本大震災の時もそうだったのだが、社会の大きな出来事に直面すると、美術ってなにができるのかな、ということを考える。そもそも美術に機能や用を求めるべきなのか。とことん「無理・無駄・無意味・無用」を突き詰めた先に、存在する美術の姿も想像してみる。社会は、意味や機能や用ある物で満ち溢れているのだから。今回の展覧会の作家である豊嶋康子さんは1967年生まれで、1990年から30年以上にわたって作品発表を続けている作家だ。社会の中で、疑問を持たれず共有されている制度や価値観、約束事や常識を、少し立ち止まって、裏から見てみよう。逆から考えてみよう。ゼロから考えてみよう。としている作家だと思う。今回はそんな豊嶋さんの初期作品から新作までの、およそ400点が展示されている。そのどれもが、自分の中にある常識に、なんで?ほんとうに?と問いかけられているような気にさせられる。なかでも、気になったのは「口座開設」というタイトルの、様々な銀行の通帳とキャッシュカードが、整然と展示ケースの中に並んでいる作品。これを見て、美術作品だと思える人がどのくらいいるのかな、と野暮な事を考えつつも、それでもなんだか魅力を感じ長いこと見ていた。この作品の解説のようなものを読むと、ただの通帳とカードが並んでいるだけではない、作家の企み(コンセプト)を知る事ができさらに面白い。気にも留めてない日常は、暗黙の了解のなか不思議で不可解な事で満ちている。少し大げさだが、そんな事をこの展覧会で思った。(佐塚真啓)
---
「西の風新聞」第1742号掲載

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?