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Vol.27 拝啓、宇多丸さま(あるいは、映画「哀れなるものたち」のネタバレ込み感想)

今週は、TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』(注1)の人気コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」(注2)『映画「哀れなるものたち」(注5)評論回(2024.02.08放送回)』に送った、私の感想メール(※番組内で触れられる事が無かった、不採用メールです(笑))を転載してみます。

※下記、転載↓

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宇多丸さん、こんばんは。
ラジオネーム:ユーフォニア・ノビリッシマと申します。 

「哀れなるものたち」を劇場で2回ウォッチしてきました。
感想は「今年度暫定1位」つまり「絶賛」です。 

一人の、人間としての「成長」「成熟」「確立」そして「解放」を鮮やかに描き出した「大人のための寓話」でとても味わい深い逸品でした。 

そんな「良くできた寓話」だけに語ろうとすれば色々な切り口で、語れる逸品なのですが、私が着目した切り口は、「主人公を巡るトライアングルな構造」です。 

この作品について「トライアングルな構造」と語る場合、真っ先に思い描くのが、ポスターアートで示唆されている、「主人公のベラを巡る三人の男たち」ですが、あえて“それ以外”で考えた場合、気づくことは、劇中いくつか訪れる『ベラが著しい成長を遂げるシークエンス』は、常に、「ベラ」と、「絶対的なメンター」、そして「時としてメンターと相反する、ベラのパートナー的存在」この三人が織りなす『トライアングルな構造』になっているという点です。 

具体的には、次の三つ場面で、
一つめは、序盤の「バクスター邸の場面」、
メンターが“ゴッド”(こと“ゴドウィン”)、
パートナー的な存在が“マックス”。 

二つめは、「客船の場面」、
メンターが“老婦人”、
パートナー的な存在が“黒人青年”。 

三つ目は、「パリの娼館の場面」、
メンターが“女主人”、
パートナー的な存在が“黒人の同僚”。

…これらの、『まるで“二つの窓から外の景色が見渡せる”ような、抜けの良い「トライアングルな構造」が保たれている場面』では『ベラの内実揃った成長が促されている様な印象』を受けます。

逆に言えば、これら以外の場面に登場する、“ダンカン”や“将軍”といった
「トライアングルな構造」ではなく、絶対的で強権的な「束縛関係」や「服従関係」をベラに強いる『メンターもどき』や『パートナーもどき』のキャラクターには「容赦無いしっぺ返し」が待ち構えている訳で、特に“将軍”に対する『情け容赦無い、悪趣味全開な「しっぺ返し」』に後味の悪さを覚えつつも、心のどこかで受け入れる事が出来てしまう一因は、この『トライアングルな構造』との対比があってのことだと思うのです。 

また、鑑賞後に晴れやかな気持ちで席を立てるもう一つの要因は「劇伴(音楽)」だと思うのですが、そこで鳴り響く「ロンドンのテーマ(モチーフ)」は圧巻の一言。 

このモチーフは、そもそも「ベラがロンドンに帰郷するシーン」に挿入されるメロディなのですが、どこか“もの悲しさ”を湛え、それでいて“温かみ”があり、“口ずさみやすいメロディ”が“揺らぎのあるアコースティックな音色”で奏でられる様は、セリフの行間にあふれる言語化できない感情の具現化であり、「ベラが到達した境地」を見事に表現した『成熟のモチーフ』と感じました。 

さらには、“ゴッド”こと「“ゴドウィン”の臨終シーン」で、同じ『ロンドンのモチーフ(私が命名する所の“成熟のモチーフ”)』が形を変えて奏でられることで、
『この物語は、「ゴドウィンの人生の締めくくりの物語」でもあった』
…という事に気づかされると同時に、
ベラにとっての“ゴドウィン”と“将軍”、そしてゴドウィンの思い出話に登場する“ゴドウィンの父親”という『「三人の“父親”を巡る物語」でもあった』という、これまた「トライアングルな構造」だという事にも気づかされました。 

その他にも、劇中三度出てくる「クロロホルム」や、バクスター邸を彩る“ハイブリッドな動物たち”、「作品全体を彩る優れた美術センス」等々、語り足りない所ではあるのですが、私の乏しい文章力では、上手くまとまりきらないので、この辺にしておきます。

※※※※※※※※

…いやぁ、頑張って書いたのですが、我ながら底が浅い感想(笑)。
(しかも終盤で ” という “ が三連発で出てくる箇所があるし…稚拙すぎる!)
まっ!気を取り直して、今週も締めの「吃音短歌(注6)」を…

スムーズに 喋れぬ体 脱ぎ捨てて 文字を下僕に 想い吐き出す

【注釈】

注1)アフター6ジャンクション2

TBSラジオにて、月曜日~木曜日の22時~23時55分に放送されている、カルチャー・キュレーション番組。略称は「アトロク2」。

注2)週刊映画時評「ムービーウォッチメン」

前身番組の「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」(注3)から続く人気コーナー。
ランダムに選ばれた劇場公開中の映画を、番組パーソナリティーの宇多丸(注4)が自腹で鑑賞し評論する。

注3)ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル

TBSラジオで2007年4月~2018年3月にかけて、土曜日の夜に放送されていたラジオ番組。略称は「タマフル」。

注4)宇多丸

日本語ラップの草分け的存在であるヒップホップグループ「RHYMESTER」のマイクロフォンNo.1。
ラッパーにして、ラジオパーソナリティー、ライター、映画時評、アイドルソング時評、とマルチな活動を展開する才人。

注5)映画「哀れなるものたち」

「若き医師マックス・マッキャンドレスは、師であるゴドウィン・バクスターに招かれ、邸宅内で奇妙な行動をとり続ける若い女性ベラ・バクスターの観察を依頼される。やがて少しずつ、ベラに変化が起こり始めるのだが…」
映画監督ヨルゴス・ランティモスが手掛けた、アラスター・グレイによる同名小説の映画化作品。

注6)吃音短歌

筆者のハンディキャップでもある、吃音{きつおん}(注7)を題材にして詠んだ短歌。
この中では『「吃音」「どもり」の単語は使用しない』という自分ルールを適用中。

注7)吃音(きつおん)

かつては「吃り(どもり)」とも呼ばれた発話障害の一種。症状としては連発、伸発、難発があり、日本国内では人口の1%程度が吃音とのこと。


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