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世武日記 改め パリしてもろて日記が始まるよ!(5/7)

さて、気を取り直して。世武裕子による笑いあり、文句あり、たまに泣き笑いありの「パリしてもろて日記」(定着しなさそうなネーミング)を本格的に始めたい。

頭痛の原因はピアノが弾けていない事によるフラストレーションではないかと思い(整わない時って、たいていピアノ弾けてない)、元同僚とマレ地区でランチを取ったあと少し散歩して、楽器屋さんへ向かった。

このお店にはあらゆる楽器が揃うが、特にピアノ弾きには親しみがありそう。新品から中古まで、グランドから電子まで、各種ピアノが並んでいる。

私は映画音楽作曲科の出身なので、主にオーケストラ用五線譜の購入を目的に、学生時代よく通っていたのだった。

当時はいちいち手書きで(正しくは、他の学生がLogic ProやProtoolsを当たり前に使っていたにも関わらず、「パソコンが面倒くさいから」という理由から、ひとり手書きで)課題を提出していた。
特段貧乏な学生でもなかったが、かと言って大した資金もなかったので、譜面には結構な出費をしていたと思う。

さて、そんな懐かしのお店で色んなピアノや電子ピアノを試奏したらすっかり体調が回復し、さっきまで頭が痛いだの、今日は口が回んなくて自分に萎えるだのと同僚に散々文句を言っていたのが嘘のような絶好調っぷり!

そうそう、今日は元同僚のお誕生日だったらしいが、私は主に自分の不調にブーたれていた(通常運転)。

お会計の時に「こちらのムッシューが二人分払うって言ってるからあなたのカードは要らない」とお姉さんに言われたので、「あ、違うの。今日彼の誕生日らしいからここは私が払うのよ。今日以外は全部奢ってもらうけどね!」と返したら、「おっ!じゃあ、あなたのカードもらっちゃお!ムッシュー、今日のランチは彼女からのプレゼントです」と2本の指でサッとカードを引いて決済が完了したのだった。

いや、今そのエピソードじゃないねん。楽器屋さんの話やねん。

そんなわけで楽器屋さんにて総合的に良さそうな楽器を選んだのだが、白しか在庫がない(それは絶対に嫌!)とのことだったので、仕方なく取り寄せることにした。
在庫があれば配達は三日後。週末から曲作りができたのに残念だ。

オプション内容など細かい部分で値切りに値切った果てに、楽器は来週まで待つけど、スタンドとピアノ椅子は今日持って帰っても良いかとお願いをして、手持ち用に繕って頂いた。とても丁寧に色々と説明をしてくれるお兄さんだった。

さて、楽器屋さんから自宅まで普通に歩けば30分。しかし本当にスタンドとピアノ椅子を自力で運べるのだろうか。自分に問うてみたが、答えはNoでもYesなのである。答えなんて殆どが自分の匙加減というか、願望なのだから。

暴風に近い風が正面からこちらを煽ってくるので、やってやろうじゃないの!と、革命の旗でも掲げるように、イカロスが空を飛ぼうとするように進んでいく。

途中で赤信号になってしまい、柱にもたれかかってぜいぜい言っていた時には、フルーツの入った薄い紙袋を持った紳士に「あら、えらく大きなものを運んでいるね。相当重いだろう!そりゃもうタクシーだな」と声を掛けられたり、"道端のポールまでの歩数が奇数だけゲーム"中の小さな女の子に「うわっ!すごい荷物じゃない?私、下からで、お姉さんは上から通ることにしよう」と提案があって「いっせのせ!」ですれ違いを上手く成功させて、お互いに目配せしたりした。

家に着く頃には背中がバキバキになっていたが、こうして身体を鍛えるのも一興ですな。何よりタクシーに乗ってしまったら、街中で色んな人と話す機会が減ってしまうもの。などと、ひとりごちる。

この家に着いたのは昨晩なのだが、手狭なエレベーターに大荷物を積んだら、私だけでいっぱいになってしまった。颯爽と現れたお兄さん(と言っても30代くらい)が「あ、大丈夫だよ。僕、階段ですぐだから!」と譲ってくれた。私の部屋は6階なのだが、エレベーターの到着と同時にガチャっと階段口のドアが開き、さっきのお兄さんが現れた。

「あれ?6階だったの!階段大変じゃなかった?」
「いやいや、全然平気」(確かに息切れもしていない)
「てゆうか、自分の部屋がどれだか分からなくない?どうやって見つけるの、これ(笑)」
「俺はここで、目の前のここは管理人さんちだから違うでしょ。その隣も夫婦だから違う。だとすると、僕の横か、その奥か突き当たりの三択だね。」
「まじ!じゃ鍵一個ずつ差してって... ロシアンルーレットやんなきゃやん!中に人いたら強盗と思われて最悪よね」

笑い合う。

お兄さんちの隣に鍵を挿したら..... なんとロシアンルーレットは一発クリア!ドアは開いた。

到着して最初に会話したお兄さんがお隣さんだったことは、昨日のハイライトだった。だってまるで「モダン・ラブ」のエピソードで出てきそうだったんだもの。

そして今日。両手いっぱいに重量級の荷物を抱えて6階に到着すると、すごく綺麗なフランス人女子(と言っても30代くらい)が電話をしながら扉の前でエレベーターを待っていた。
「サリュ!」と小さい声で挨拶を交わして家のドアを開けようとすると....

「(電話口で "ごめん、1秒待って"と言ってから)ねぇ、ちょっと待って!私、あなたの家のすぐ隣なの!そこの奥の、そうそう、そのドア!あなたが新しいご近所さんなんだ!って、つい声かけちゃった。初めまして!それだけなんだけど(笑)」と閉まりたいエレベーターを足で止めながら話しかけてきた。

「え、そうなの。初めまして!名前なんていうの?(彼女にも同じ質問されて答える)」など、少しだけ会話をして、それが今日のハイライトになった。

なんでパリに来たんだっけ.... 日本の方が好きなのに... 寂しいし.... と、昨日まで案外クヨクヨしていたのだが、そんなこともすっかり忘れて、忘れた事で生まれたスペースには蘇ってきた"パリの好きなところ"が綺麗に収まった。

主観的なもので頭や心をいっぱいにしてしまったら外からは何も入ってこれないし、迎え入れられない。分かっていてもすぐにうっかりしてしまうから、いつでも程よく自分を疑っていないとね。

完全にコツを掴んで気を良くし、近所にあるガレット(蕎麦粉で作る食事系のクレープ)屋さんでトマトとモッツァレラのクレープを持ち帰り注文した。これがまた大当たり!ツイている。

しかし21時半頃までは濃いブルーが街を支配しているようなパリの空だから、夜ご飯の時間が遅くなってしまうのはある意味で自然な事なのかもしれない。

遅めの夕食を堪能してから、洗剤とスポンジの買い忘れに気づいて、急いで22時まで開いている近くのスーパーに駆け込んだ。

早く楽器が届かないかなぁ!すぐクヨクヨして、またすぐ気を取り直して、全く毎日が忙しくってならんねぇ。





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