第23話『連邦と、連盟』

学園戦記ムリョウ

第二三話『連邦と、連盟』(第一稿)

脚本・佐藤竜雄


登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ)
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)
統原瀬津名(スバル・セツナ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機 瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)

村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)
村田和夫(ムラタ・カズオ)

真守百恵(サネモリ・モモエ)
津守十全(ツモリ・ジュウゼン)
守山 載(モリヤマ・サイ)
守口 壌(モリグチ・ジョウ)
守機 漠(モリハタ・バク)

山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
妙見彼方(ミョウケン・カナタ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
ソパル星人

商工会長
吉田記者
アナウンサー



レポーター

生徒達
街の人々


○ハジメの夢・夜空
夜空。満天の星が輝く。
村田家の屋根の上にハジメ。
さらに増える星の数。

ハジメ「あ……」

小さく驚きの声を上げるハジメ。

セツナ「綺麗ね、お星様」
ハジメ「え、ああ……」

隣にはセツナがいる。

セツナ「圧倒される?」
ハジメ「うん、そうですね」

おどけるセツナに苦笑いのハジメ。
セツナ「空を見上げると気持ちがいい。特にこんな綺麗な夜空。青空もいいね、どこまでも抜けていくような」
ハジメ「はい」
セツナ「でも、見上げてばかりじゃあ前には進めないよ。上を向いて歩いたら——」

いたずらっぽく微笑むセツナ。

セツナ「コケちゃいま〜す♪」
ハジメ「ははは」
セツナ「人は前を向いて進むのです!」
ハジメ「そりゃそうだ」
セツナ「でもね、結構忘れちゃうんだよ、みんな」
ハジメ「え?」セツナ「君は忘れないでね」
ハジメ「……」

微笑むセツナ。

セツナ「足下の道形(みちなり)も楽しい。目の前の景色も楽しい。そして、空のはるか向こうの彼方に抱く憧れ。前を向いて進むことは、楽しい時ばかりではないと思うけど、そんな時は——」
ハジメ「空を、見上げてみます」
セツナ「え?」
ハジメ「見上げる先は遠いけど、何かが僕らを待ってる。そんな気持ちが勇気をくれます——なんてカッコつけてるなぁ」
セツナ「ううん。素敵だよ、ハジメ君」

じっとハジメを見るセツナ。

ハジメ「セツナ、さん?」
セツナ「好きだよ、君」
ハジメ「え?」
セツナ「さぁ起きて、お兄ちゃん!」
ハジメ「え?」

光の奔流さらにその量を増し、目の前は光でいっぱいになる。

セツナ「忘れないで、その心、真っ直ぐな気持ち。あなたのチカラはその心——」

交錯する二つの声。一つはセツナ、そしてもう一つはフタバの声。

フタバ「お兄ちゃん、起きてよお兄ちゃん! お兄ちゃんってばァ!」

○村田家・ハジメの部屋
ハジメを起こすフタバ、絶叫。

フタバ「お兄ちゃん、起床ォーーッ!!」
ハジメ「うわぁぁっ!」

がばっと跳ね起きるハジメ。

フタバ「おおっ?!」

その勢いに思わず飛び退くフタバ。荒い息のハジメ、辺りを見回す。

ハジメ「あれ?あれ?フタバ?」
フタバ「『フタバ?』じゃないわよ、大変なの! ちょっと来て!」
ハジメ「ちょっと?」

寝ぼけたままのハジメの手を引っ張る
フタバ、緊迫の表情。

○村田家・庭
早朝。薄暗い空。
キョウコ、ポカーンと上を見ている。
フタバとハジメ、ウッドデッキに出てくる。

ハジメ「何だよ一体……」
フタバ「早く早く!」

空を見上げるハジメ、絶句。

ハジメ「これは……」

上空に巨大な宇宙船が浮かんでいる。
銀河連邦のマークが輝く——

○真守家・無量庵
屋根の上で見物中のムリョウ。

ムリョウ「……」

穏やかな表情。

○オープニング

○天網市・上空
薄暗い空。
巨大な宇宙船が浮かんでいる。
その下を飛び回る報道のヘリ。

(サブタイトル『連邦と、連盟』)

○同・商店街
宇宙船を眺めている人々。一様に緊張はしているが、取り乱す者はいない。

○同・御輿坂
同様に眺める人々。その中に山本もいる。

山本「……」
モモエ「山本先生」

後ろから声をかけるモモエ。その隣にはセツナもいる。

セツナ「おはようございまーす♪」
山本「やあ、散歩ですか?」
モモエ「ええ。しかし、こうやって見上げてみると大きなものですね」
山本「今朝起きたらいきなりこの有様ですからな。さすがにたまげましたよ。ハハハ」
セツナ「早起きは三文の得、でしょでしょ」
モモエ「そうですね」

穏やかに笑うモモエ。

   *   *   *

通り沿いの家の中。モニターに映る臨時ニュース。興奮した面持ちのアナウンサーが原稿を読み上げている。

アナウンサー「本日未明、突如……本当に突如出現した巨大な飛行物体は、依然として、神奈川県天網市の上空に位置したまま動きを見せておりません。ただいま、現場に到着した吉田記者……よろしいですか?はい、それでは吉田さん!」

   *   *   *

件の吉田記者、御輿坂にカメラマンと音声マンを連れて放送の準備。

アナウンサー「吉田さん!」
吉田記者「はい、吉田です。ただいま天網市の御輿坂、というところに来ています。大きい。とにかく大きな飛行物体が空を覆っております」

緊張の吉田記者。

アナウンサー「住民の方々はどうですか?混乱はないのでしょうか?」
吉田記者「えー、みなさん不安混じりに空を見上げて……あれ?」

人々、家の中へ入っていく。軒先に洗濯物を干し始める主婦や、植木に水をやっている老人もいる。一人ぽつんと取り残された吉田記者、あ然。

アナウンサー「吉田さん?」

困惑する吉田記者をよそに坂を上っていくモモエ達。セツナ、ニコニコと吉田に手を振る。

吉田記者「え、えー、穏やかに事態を見守る天網市民でした」

○同・国道沿い
商工会長と合流するモモエ達。

モモエ「街の様子はどうですか?」
商工会長「昔からの連中は大丈夫なんですが……やはり外からの普通の人たちはちょっと厄介です」
山本「フム……」
モモエ「そうでしょうね」

心配げな表情のモモエ。

○村田家・外
右向かいの角の家では大わらわで車に荷物を積んでいる。その横をすり抜ける一台の車、フラフラと危なげな運転で村田家の前を通り過ぎる。

フタバ「うわぁ……」

庭でその様子を眺めていたフタバ、感嘆の声。きびすを返して家の中へ。

○同・食堂
モニターを見ているハジメとキョウコ。
TVニュースは天網市を生中継中。

   *   *   *

場所は商店街、『こなや』の前。

レポーター「えー、街は平静そのものです!」

   *   *   *

フタバ「高橋さんも逃げてったよ!山本さんは荷造り中!」

居間から上がり込んできたフタバ、嬉しそうに報告。

ハジメ「へえ」
キョウコ「よしなさい、ふーちゃん」
フタバ「ウチはどうするの?逃げないの?」
キョウコ「逃げる、っていったって……」
フタバ「今日はきっと学校お休みだよ。だから、どっか行こうよ!」
ハジメ「お前、避難するのと遊びに行くのは違うんだぞ」

突如、ハジメのズボンのポケットから呼び出し音。

フタバ・キョウコ「?」
ハジメ「何だろう、朝っぱらから?」
フタバ「お父さんじゃない?」

フタバ、嬉しそうにモニターをミュートに切り替える。

ハジメ「え?」

携帯を取り出すハジメ。ディスプレイに銀河連邦のマークが浮かぶ。

ハジメ「あ、やば」

隠す間もなく、変形する携帯、中空に結像。

カズオ「おぉ、おはよう」

ウインドウ状の画面にはカズオの姿。
にこやかに笑顔を浮かべている。

ハジメ「父さん?」

驚きはしゃぐフタバ。

フタバ「何これ、スゴイ!お父さん?!」
カズオ「おはよう、フタバ」
キョウコ「カズオ君……」
カズオ「びっくりしたかい?だから言ったろう、オレの携帯はモノがいいって」
キョウコ「(苦笑)はいはい」
カズオ「久しぶりだな、ハジメ」
ハジメ「うん」

ハジメを見るカズオ、穏やかな表情。

カズオ「お前とはゆっくり話がしたかったんだが……でも、この携帯、結構便利だろ?」

ハジメもじっとカズオを見ている。同様に穏やかな表情。

ハジメ「うん。重宝してるよ」
カズオ「周りの様子はどうだ?」

間髪入れずに報告のフタバ。

フタバ「高橋さんと山本さんは家族で車乗って行っちゃったよ!あと中島さんとこもドタバタしてて——」
キョウコ「ふーちゃん!」
フタバ「だってホントじゃない!」
カズオ「そうか。でもその程度で済んでいるのか。さすがだな……」
キョウコ「?」
ハジメ「天網の民でない人たちは、逃げ出しちゃっても仕方がないと思う」
キョウコ・フタバ「?」
ハジメ「……だって、何も知らないから」
カズオ「お前はどうする?」
ハジメ「ここに居る」

静かに、しかしきっぱりとハジメ。

ハジメ「僕は、見届けたいから。これから起きること」
カズオ「そうか」

優しくハジメを見つめるカズオ。

カズオ「正式に政府からコメントがあると思うけど、大丈夫だ。確かにこれから、天網市では、とてつもなく大きな事が起きる。でも、街の人たちには危険はないよ。もちろん、居る居ないは自由だけど……」
キョウコ「じゃあ、残る」
ハジメ「母さん……」
フタバ「何だ、どこにも行かないんだァ」

少々ふくれっ面のフタバ。

カズオ「フタバ、お母さんを頼むよ」
フタバ「任せてよ!でも、不思議だね。空にはとんでもなく大きなものが浮かんでるっていうのに、私たち、普通にお話ししてるんだもん」
カズオ「ははは。(チラッと横を見て)おっとそれじゃあ……キョウコ、ハジメ、フタバ、また連絡する!」

ウインドウ消える。元に戻る携帯。

フタバ「(父のまねして)『また連絡する!』……う〜ん、かぁっこいい♪」
キョウコ「(苦笑)」
ハジメ「母さんは、どこまで知ってるの?父さんの仕事のこと」
キョウコ「それは私も聞きたいわ」
ハジメ「え?」

穏やかに尋ねるキョウコ。

キョウコ「ハジメはどこまで知ってるの?今回のことについて。ウチの男どもはそういうことは何も話してくれないんだから……」

しかめっ面をしてみせるキョウコ。

ハジメ「え?何も父さんから聞かされていないの? 銀河連邦とか、宇宙人とか……」
キョウコ「知らないわよ」

片目をつぶってみせるキョウコ、いたずらっぽく微笑む。

キョウコ「なーんかコソコソやってるなぁと思ってたけど……」
ハジメ「けど?」
キョウコ「私は、あなた達を信じてるから」
ハジメ「……」
キョウコ「さぁ、ご飯にしましょう。珍しいわよね、みんながこんなに早くから勢揃いしてるのって」

立ち上がると台所に向かうキョウコ。
フタバ、ハジメの顔をのぞき込んでニヤリ。

フタバ「信じてるだって♡」
ハジメ「うるさいぞ」

ハジメ、照れている。

○天網市・駅前
ロータリーに中継車や新聞社の車が集まっている。各社のディレクターや記者達、ベンチに座って情報交換中。

A「どうなってるんだ、この街は……いくらなんでも呑気すぎる」
B「そうでもないよ。平穏なのは、商店街と駅前、あの坂道の周辺とか……昔ながらの地域だよ。東の方の住宅地では続々車で避難中だ。実際、警察もその辺りの交通整理とかで大わらわみたいだし」
C「やっこさんがここに現れたのも、その辺の平穏さに関係があるかもしれないな」

向かいの歩道を、犬を連れた老人が行き過ぎる。ため息を漏らすA。

A「何はともあれ、この後の取材のプランを考えないと……」

上空の宇宙船には動きはない。

○真守家・大広間
上座にはモモエ、下座には四家の当主達。左右には山本と商工会長達が控えている。それぞれの前には食膳が置かれている。配膳役はセツナ。

セツナ「朝はお粥、ということであっさりメニューにしてみました。それでは、ごゆっくり〜♪」

出ていくセツナ。

モモエ「おいしそうな大和粥ですね。いただきましょう」
壌「あれについては、何もお尋ねにはならないのですか?」
モモエ「あれとは、宇宙船のことですか?」
壌「はい」
漠「事前に説明をしておこうかとも思ったのですが、いつものように会議であーだこーだと揉めるのも面倒なので……」
載「やっぱりお前らも噛んでたんだな、今回の件は!」
漠「慎重論だけでは事態は打開できないと思いまして……」
十全「……」

黙って粥をすする十全。

載「何をするつもりだ?」
漠「ま、Xデー到来、というヤツです。今日のこの日、銀河連邦と地球は共同声明を内外に向けて発するわけです。宇宙は一つ、地球も仲間だ仲良しだ——」
載「ふざけるな!」

山本達、粥を食べながら様子をうかがう。商工会長達も同様に。モモエは穏やかな顔のまま。
壌「我々天網の民は、今回の交渉の立会人となる!」
十全・載「?!」
山本「何ですって?」

思わず目をむく山本。

漠「すでに政府と、銀河連邦の責任者には話を通してあります。国連の方は、伊藤官房長官が上手くやってくれているはずですから、あとは……」
モモエ「私が、うんといえば」
漠「はい」
載「横暴だ!」
漠「事態は急を要する。銀河連邦に対抗する宇宙人もやってきている昨今、シングウが水際で防いでどうこうしている場合じゃないでしょう?」
載「う……」
モモエ「でもね、銀河連邦が正義で、対抗勢力が悪、という図式ではないのよ。わかってる?」
漠「それは重々」
モモエ「……私も皆さんには悪いのだけれど、ちょっと出し抜かせていただきました」
十全「?」
壌「ちょっと?」
載「出し抜く?」
モモエ「フフ……」

微笑むモモエ。
わけがわからない山本、途方に暮れて粥をすする。

○同・無量庵
ムリョウとセツナ、朝食中。

ムリョウ「じいちゃんの漬け物、旨いね」
セツナ「でしょお?」

箸を止めるムリョウ、虚空見上げる。

ムリョウ「……」
セツナ「来た来た♪」

○天網市・点景
軒先の、通りの辻の御幣が揺れる。
鈴の音——
那由多・八葉・瞬・京一「?!」

自室で、庭先で、布団の中でその音を感じる那由多達。

那由多「何なの?一体?」

○同・御輿坂
再び通りに出てくる人々。
取材クルー、訳がわからずキョロキョロと見回す。

吉田記者「ど、どうしたんだ?」

人々が見る方向を目で追う吉田記者。
突如、空に割れ目。
空間を断ち割って、巨大な宇宙船がもう一隻出現。宇宙連盟のマークが輝く。

○アイキャッチ

○天網市・沖合
全容を表す宇宙連盟の宇宙船。
銀河連邦の白い宇宙船に対し、その色は群青。

○同・駅前
あわただしい報道陣。

A「何?! 海にもう一隻現れた?」
C「おい!動いてるぞ!」

一同空を見上げる。銀河連邦の宇宙船がゆっくりと山側に動いている。

○同・商店街
見上げる人々。一様に険しい表情。

○村田家・食堂
TVのニュースでは実況中継。アナウンサー、興奮を隠しきれない。

アナウンサー「吉田さん!吉田さん?!」
吉田記者「宇宙船です! 大きい! これも大きいです!ああ、何と言ったらいいのか……」

朝食の手も止まり、ただただモニターを見入っているハジメ達。

フタバ「お母さん、どうなっちゃうの?」
キョウコ「大丈夫よ……さっきお父さんも言ってたでしょ」
ハジメ「!」 

ハジメ、突然立ち上がる。

キョウコ「どうしたの?」
ハジメ「学校!」
キョウコ・フタバ「?」

○同・全景
宇宙連邦の宇宙船、天網市へ向けて前進。かたや銀河連邦の宇宙船は場所を譲るかのように後退。二隻の宇宙船が市を覆いつくす。

○真守家・前庭
庭に出て、空を見上げている山本達。

山本「……」

険しい表情の山本。銀河連邦の宇宙船が退き、青空が見える。しかしそこへまた巨大な宇宙船が進んでくる。
輝く連邦と連盟、それぞれのマーク。
縁側に出て見上げている当主達。モモエは一人、大広間に座ったまま。

漠・壌「……」
載「あれは……」
十全「出し抜いた、というのはアレのことですかな?」

十全、後ろのモモエに声をかける。

モモエ「はい、そうです」

ニコニコとモモエ。

壌「あの船は何ですか?! ひょっとして……」
モモエ「銀河連邦とは異なる星々の集まり」
壌・載「!」
モモエ「さる方の協力で、連れてきてもらいました」
載「何と?!」
山本「……さる方?」

当主達の様子を見ていた山本、ハタと思い当たる。

山本「まさか……」

二隻の舳先が、ちょうど真守家の真上に差しかかる。

○かもめハウス・外
軒先には洗濯物。屋根の上で布団を干しながら、上空を眺めているジルトーシュとウエンヌル。

ジルトーシュ「共に、全長2キロメートルといったところだ。う〜ん、これじゃあ洗濯物の乾きが遅くなるよねえ」
ウエンヌル「片方は銀河連邦の船。そしてもう片方。一体……どこの宇宙船なのですか?」
ジルトーシュ「そうだねえ、宇宙連盟とでも言うのかな」
ウエンヌル「うちゅうれんめい?」
ジルトーシュ「そう。我ら銀河連邦の対抗勢力!ライバル!持ちつ持たれつ!君らの星、ザイグル星を銀河連邦に紹介したときよりも、もうちょっと前だったかなぁ。宇宙連盟と銀河連邦、ちょいとしたいさかいがあってねぇ——」
ウエンヌル「いさかい?」
磯崎「ジルトーシュ!」

庭先に磯崎が立っている。

ジルトーシュ「やあ、お久しぶり!」
磯崎「下りてきなさい! 話があります」

厳しい表情の磯崎。

○同・台所
茶の用意をするウエンヌル。南部の鉄瓶に特殊レンジ(ウエンヌル特製)で湯を沸かしている。

ウエンヌル「……」

居間の様子が気になる。

○同・居間
テーブルをはさんで座る磯崎とジルトーシュ。いつになく緊張した面持ちの磯崎。ジルトーシュはだらだらとカリンバをつま弾いている。

ジルトーシュ「しばらく学校の方、お休みだったみたいだけど……何処か行ってたの?」
磯崎「本部の方に出張してました」
ジルトーシュ「ほお〜、それはご苦労様」
磯崎「調べたいことが、色々あったので」
ジルトーシュ「ほおほお……」
磯崎「あの騒ぎ、あなたの仕業ね」
ジルトーシュ「ほお?」
磯崎「!!!」

厳しい表情の磯崎。しかし、ジルトーシュはのらりくらり。

ジルトーシュ「あのって?どの騒ぎ?」
磯崎「反銀河連邦……宇宙連盟の宇宙船をここに連れてきたことです」

いまいましげに磯崎。

ジルトーシュ「ああ……そっちかい。あれは真守のマダムに頼まれたからさ」
磯崎「モモエさんに?」
ジルトーシュ「地球と銀河連邦だけで話をつけちゃあ後々こじれる。当事者はみんな呼ばないといけないからさ」

ニヤリと笑うジルトーシュ。

○真守家・前庭
上空には二隻の宇宙船の舳先。
玄関先では那由多達と山本が話をしている。

八葉「僕らも……立ち会うわけにはいかないんですか?」
山本「お前らは待機していろ」
那由多「何故です?私たちはタタカイビトなのに!」
山本「モモエ様の指示だ」
京一「俺たちはこれまで戦ってきた!その俺たちが立ち会わせてもらえないんですか?」
山本「有り体に言うと、そうだなぁ」
京一「?!」

絶句する京一。その横で、わざとらしくつぶやいてみせる瞬。

瞬「大人ってずるいや」

苦笑いの山本。

山本「ははは。まぁ、聞け」

声を潜めて、山本手招き。一同、顔を突き合わせる。

山本「会談といっても、何が起こるかわからん。我々に何かあったら——」

八葉をじっと見る山本。

八葉「——わかりました」
那由多「え?な、何?」

わけがわからない那由多。
山本、ポケットからスティック状のキーを取り出すと八葉に手渡す。

山本「学校のセキュリティー・キーだ。お前らだけで自習でもやってろ」
瞬「自習ですかァ?」
山本「フッ、何でもいいやな。とりあえず俺が許す!(顔を上げて)ん?」

御幣が揺れ、真守の音が鳴る。

那由多「!」
八葉「来る」
山本「……」

緊張する一同。
上空の二隻より転送。二組のシルエットが前庭に出現する。
身構える一同。
シルエット実体化。一方は銀河連邦側、ソパルとコンコル、ハインの三星人。
もう一方は宇宙連盟側、妙見彼方。

那由多「あなた?!」
八葉「白帯くんか——」
妙見「……」

静かに微笑む妙見、軽く会釈。

官房長官「おお、ちょうど間に合った!」

門からは伊藤官房長官とカズオが駆け込んでくる。門前にはVIPカー。

カズオ「こんにちは!」
ソパル星人「やあ、お二人さん!」

玄関先にモモエが現れる。後ろに控えるのは漠と載。

モモエ「ようこそ、皆さん」
ソパル星人「この度はどうも♪」

あくまでも陽気なソパル星人。
カズオと官房長官、丁寧なお辞儀。

官房長官「お世話をかけます」

微笑んでそれに答えるモモエ、妙見に向き直る。妙見もモモエを見ている。

妙見「……宇宙連盟の名代で参りました」
モモエ「お名前は……妙見彼方さん?」
妙見「その名前で構いません」

ニッコリ微笑む妙見。

○御統中・点景
ポーチには人気が無く、昇降口は閉じられている。『臨時休校』の貼り紙。

○同・体育館
屋根の上にはハジメ。二隻の宇宙船の様子を眺めている。

ハジメ「……」

不意にムリョウが声をかける

ムリョウ「おはよう」
ハジメ「あれ、ムリョウ君?」

軽い足取りで歩み寄るムリョウ。

ムリョウ「一体、どうしたんだい?」
ハジメ「それはこっちも聞きたいところだけど。何というか……居ても立ってもいられなくてさ」
ムリョウ「ここからだとよく見えるね」
ハジメ「うん……」

宇宙船は二隻とも静止したまま。

ムリョウ「で、どうだい?あれを見て」

苦笑いするハジメ。

ハジメ「わからない。父さんはこの一大事に何か関わってるみたいだけど、僕はただの中学生だし。でも……」
ムリョウ「でも?」
ハジメ「五月に君がやってきて……あの日、この場所で、君と守口先輩が戦ってるのを見たときに、僕は思ったんだ。『見なくっちゃ』って」
ムリョウ「見なくっちゃ?何を?」
ハジメ「それが何かわからないから、見なくっちゃ!って。理屈になってないけど……まぁトシオだったら、積極的傍観者、とか言ってるかもしれないな」
ムリョウ「フフ……」

楽しそうにハジメの言葉を聞いているムリョウ。

八葉「おーい、君達!」

校舎の屋上から声をかける八葉。その横には那由多に瞬、京一がいる。

ハジメ「あれ?津守先輩、守山さん……」
ムリョウ「やあ、おはようございます!」

○同・生徒会室
ハジメとムリョウ、大机に座っている。
その対面には八葉と那由多。京一は窓にもたれている。

ハジメ「自主登校、ですか?」
八葉「うん。山本先生に許可はもらったし、こうやってセキュリティキーも預かった……言ってしまうと、今日一日、この学校は僕らのモノだ、ということだ」
ハジメ「はあ」
那由多「だからといって、無法は許しませんからね!」
ムリョウ「無法?」
八葉「いつも通り、ということさ」
ハジメ「と言ったって、僕は宇宙船を見にやって来ただけですから。自主登校と言うよりも……」

すかさず合いの手を入れるムリョウ。

ムリョウ「忍び込んだ!」
ハジメ「はは、その通りだ」
那由多「ふざけないの!」

ポツリと口をはさむ八葉。

八葉「(ハジメに)帰るのかい?」
那由多「え?」

思わず声に出してしまう那由多。

ハジメ「そうですね……宇宙船は見たし、とりあえず用は済んだという感じだし」
那由多「……」
瞬「八葉さん!」

扉を開けて瞬、入ってくる。手にはお茶やお菓子の入った大きな袋。

八葉「おお、ご苦労さん」
瞬「みんなが……」
八葉「ン?どうした?」
瞬「みんながこっちに……登校してきます!」
京一・那由多「!」
八葉「何だって?」
ハジメ「?」

ムリョウ、静かに見守っている。

○だらだら坂
上ってくる生徒達。

○御統中・ポーチ
続々とやってくる生徒達。
昇降口で呆然とこれを見つめるハジメ達(ムリョウはいない)。

京一「これは……どういうことだ?」
八葉「宇宙船見物、かな?」
那由多「そんなバカな!」

そこへ門を抜け、晴美がやってくる。

京一「晴美?!」

思わず走り出す京一。続く八葉達。ハジメは一人残り、様子を見守る。

   *   *   *

晴美「京一さん、おはようございます」

晴美に駆け寄る京一達。

京一「どうしたんだ!今日は休校だぞ!」
晴美「みなさんも来ています」
京一「お、俺たちはいいんだ!」
八葉「山本先生の指示かい?」
晴美「いいえ。これは、マモリビトの長(おさ)である私の指示です」
那由多・京一「?!」
瞬「〜〜」

口笛を吹く真似をする瞬。

晴美「私達は、あなた達を守ります」
瞬「かぁっこいい♪」
那由多「!」
すかさず瞬を小突く那由多。

瞬「いてっ!」
那由多「晴美ちゃん、だめ!みんなを巻き込みたくない。晴美ちゃん以外はマモリビトといっても……戦いはまだ無理よ!」
晴美「子供には子供の、戦い方があるわ」

静かに、しかしきっぱりと晴美。

八葉「フーム。じゃあ、今日は文化祭の臨時の準備日にしよう」
那由多「八葉さん!」
京一「よし、晴美! パンフレットとポスターの詰めをやるぞ。来い!」
晴美「はい」

晴美と京一、連れだって小走り。

那由多「京一!」

那由多、訳がわからない。

   *   *   *

ハジメ「……」

やりとりを見ていたハジメの横を通り抜ける京一と晴美。

京一「残っていけよ、村田」

不意に声をかける京一。

ハジメ「え?」
京一「文化祭の準備をしていけばいい。先生の監視なしで学校が使えるなんて、滅多にないぞ」
ハジメ「はぁ」

ふっと微笑む京一。

京一「その方が那由多も喜ぶ」
ハジメ「え?」

あ然として二人を見送るハジメ。

那由多「ちょっと何言ってんのよ、京一!」

向こうで那由多が叫んでいる。

NR「これから何が起こるかわからない。でも、何かが起きる。そして、何かをしなければならない。それを見届けるためにみんなここにやって来たのだと思う。だってここは、僕らの学校だから——」

次々と登校してくる生徒達。

○同・屋上
三本柱の上に立つムリョウ、宇宙船を見つめる。穏やかな表情。

○天網市・全景
上空の二隻の宇宙船。
ひたすら大きい。

NR「——続きは次回」

         (第二三話・完)

☆二〇〇字詰七八枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)