ドラクエ映画をCG屋が見たら(ネタバレ有)

こんにちは、俺です。

先日Twitterで大暴れしてしまいましたが、映画「ドラゴンクエスト・YOUR STORY」見てきました。
内容や感想・評判についてはもうネット上・SNS上で死ぬほど見れると思いますし、だいたい同じような意見だったりもするのでそのへんは割愛しますが、ネット上の評判でまだあまり語られていないポイントである「CGの話」を少ししたいと思いました。

・CGそのものはすばらしかった

これはもうさすが白組さんを始めとした各有名プロダクションが作ってるだけあるなと思いました。大掛かりなシーンや戦闘シーンなど、大規模カット部分はもう言うまでもなく悔しいとか思うレベルでもなく素晴らしい出来なのですが、例えば
・樽が落ちてきたときの水しぶきの表現、特に水滴系の動き
・ルドマンが持っていた杖の宝石の質感や占いババァの持っていた怪しい薬の質感ライティング
・スライムのSSS感やゲレゲレの毛並み感
・雪上の表現、足跡の付き方など
・小物類も含め、細かなところまでしっかりとしたモデリング

などなど、CG屋くらいしか気にしなさそうな細か〜いポイントもすばらしいクオリティで制作されており、いやもうさすがだなぁと思っていました。
天空の剣を抜くカットなんか「おぉかっけえ」と素直に思いました。
それもそのはずで、最後にスタッフロール眺めていたら白組さんはもちろん、業界では有名な方々も参加しており、日本のCG表現としては間違いなくトップクラスの表現がされている映画だと思います。大変だっただろうなぁ作るの・・・
ともあれ、技術論に偏りすぎるとアレなのと、そういう話がしたいわけではないというアレもあるのでさらりと流しておきますが、本当にCGのクオリティは高かったです。脱帽です。一生かかっても個人CGクリエイターには真似できねえ。多分。

・じゃあ何に大暴れしたのか

要するに、演出面の話です。
散々語り尽くされているであろう最後の15分くらいの箇所についてです。
もちろんそこに至るまでの話の中で「あれ?このシーンのこれは?」とか「原作のここやらないのか・・・」とか「ここはこうなってこうでしょう!?」とか「ゲレゲレ再会シーンあっさりしすぎだろビアンカのリボン使えよ!!!!!!(憤怒)」とかまぁ色々脚本にもツッコミたいところはあるんですが、そういうことがすべてどうでも良くなるレベルでものすごく萎えた箇所がありました。

問題のVRとバラされるシーンなんですが
かいつまんで説明すると
「ゲームが嫌いなスーパーハカーがウィルスを送り込んでめちゃくちゃにしてやろうとした、大人になれよ」
というシーンです。
このスーパーハカーが唐突にこの世界から
・マテリアル(CG用語・シェーディングって言ってたかも)オフ
・ダイナミクス(CG用語・物理演算など)オフ
・コリジョン(CG用語・衝突判定など)オフ
ということをするんですが、ここがもう最大の個人的ブチギレポイントでした。

・なんでCGってバラしたの?

そこまでのおよそ85分間、観客の大半はCGかどうかなんてどうでもよくて、DQV、あるいはユアストーリーという「映画」を楽しんでいたと思います。映像の画作りにも慣れてきて、だいぶ感情移入したり映画に集中しているところに突然「はいこれはCGで〜〜す!これはなんとCGなんですよ〜〜!」というメタ展開という名のクソネタバレが入ります。いや、俺たちが見たいのはストーリーであって、別にCGの逆メイキングオブが見たいわけではないんだよ。しかも今まで見ていた世界がすべて偽物でした!というのを技術的な見せ方で見せつけてくるという最悪の展開でした。CG用語連発のクソ寒演出なんてCG屋しか喜ばねえしCG屋でも喜ばねえよ俺みたいなタイプは。
VRの世界でした、というメタ展開に持っていくとして、まぁそれまでの伏線の雑さとかそういう脚本上の問題もあるとは思うんですが
見せ方として最も「CGオタク」的で嫌だなぁと思いました。

最終的に映画はマテリアルもダイナミクスもコリジョンも戻ってきた世界でエンディングを迎えるわけですけど、この時点で僕は「この世界はVRなんだ」というストーリー上の施策にハマったというよりも
「あ、この映画CGだもんな」というメタ展開のさらに手前のただのメイキング映像を見ているような気持ちになってしまいました。
何しろその世界で生きている人々・キャラクター・世界は全部CGです!!ってバラされたわけです、作中で。VR世界とかそういうレベルじゃないです。「そもそもこの映画、ただの3DCGなんだけど何感動しようとしてんの?」っていきなり突きつけられた気分でした。

もう少しわかりやすくいうと、
例えばキムタク主演の映画があったとして、キムタクとわかっていても映画の世界観に没頭して、キムタクがキムタクであることを忘れた頃、映画の最後の10分、劇中クライマックスシーンで「ところでこの人キムタクってみんな知ってるよね?これはキムタクの演技だよ?何感動してんの?」って言われたような気分です。
そんなこと言われたあとにどれだけキムタクが迫真の名演技をしても、キムタクはキムタクになっちゃいますよね。

・CGをCGとバラすことの意味

昨今の映画において、CG・VFXが使われていない映画などほぼ100%存在しないと言ってもいいレベルだと思います。
もちろん我々CGクリエイターは映画を始めとするCG・VFXが使われているものを見るときに職業柄ついつい気にしてしまいますが、それはあくまでも我々がCG業界の人間だからなので、一般のお客さんはよほどそういうのが好きな方でないと気にしないポイントだと思います。
そもそも映画って、別に「CGが見たい」わけじゃないと思うんです。あくまでも脚本ありきの上で、演出上・表現上の理由で使用するものだと思います。要するに衣装とか大道具小道具といったもの同様、世界観を構築するために必要な要素を「作るためのもの」でしかないと思うんです。
CGをCGとバラす必要なんて、我々CGクリエイターが情報共有や勉強のためにメイキング映像を見たり、CGWORLDなどの雑誌を見たり、そういうところで業界内だけで完結するべきポイントだと思うんです。本編にまででしゃばってこられるとなんかもう恥ずかしい気持ちにさえなります。
脚本上、VR空間であることを表現したかったとして、他にいくらでも表現方法があったと思いますし、その表現ができる人たちを集めてこの映画を作っているはずなのに、この方法は一番やってはいけないことだと思いました。

どなたかのレビューで「ぬいぐるみの中身を全部取り出して、こんなの布と綿の塊じゃん、と突きつけるようなもの」という表現がありましたが、まさにそれだと思いました。

・観客に見せてはいけない舞台裏

この映画には最低限、そこを守ってほしかったです。僕はDQVを始めとするドラクエが大好きですし、CGも大好きですし、映画もまぁまぁ好きです。VFXゴリゴリの映画なんて大好物です。
でも、別に劇中でCGのことをいきなり思い出させられたくないです。僕の仕事もそうですが、CGはあくまでも表現手法の一つでしかない、どんなにリアルなCGを作っても、それがCGだとわかっている側の人間です。
この映画の大きな罪は「ほら、CGだよ」とバラしてしまった時点で、他のすべてのフルCG映画(あるいは大半がVFXカットの映画)に当てはめてしまうことが可能な点だと思います。
トイストーリーも、スター・ウォーズも、全部同じです。CGなんです。でも誰がそんなことを意識させられたいと思ってるんでしょう?
我々CGクリエイターは自分たちの作るCGを「CGとして」見られたいのではなく「なにかワクワクしたり感動させたり喜んでもらえたりする表現」のためにCGという手法を選んでいるはずじゃなかったのかなと思います。
最終的に見る人達にとって、それがCGかどうかなんて本来どうだっていいはずなんです。なのにこの映画ではわざわざCGアピールをしてしまった。はい、ぜ〜〜んぶCG。こんな気持ちになった映画は本当に初めてでした。

とまぁ、結局のところ大暴れした理由ってこういう事情だったんです。
なので大暴れした姿を見た関係者の皆様、気分を害されたら申し訳ございません。CGのクオリティそのものは本当に素晴らしかったです。このクオリティでDQVの世界を見ることができたのは1人のDQVファンとしても本当嬉しかったです。

ただ、時々この演出を絶賛しているCG関係者を見かけるのですが、その方たちには「映画におけるCGって何?」って聞いてみたいなと思いました。

Twitterとかで書くとまた勢い余って怒り任せな書き方になりそうなので、こうしてまとめてみましたが。読み返すとあんまりまとまってないというか・・・伝わりにくいかもしれません。
でもCGクリエイター目線の一つとして、なにか感じ取っていただけたら嬉しいです。

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