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アノーニ『ホープレスネス』が素晴らしすぎる


アノーニのアルバム『ホープレスネス』を聴いた。久しぶりに、身震いするような感覚を得る一枚。素晴らしい。

https://itun.es/jp/P7F6ab

まずはサウンド。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとハドソン・モホークがプロデュースしている。つまりは今のエレクトロニック・ミュージックの最先鋭を支える才能がタッグを組んだわけで、そりゃすごくないわけがない。ヒリヒリするような緊迫感と不思議なカタルシスが同居するような音が鳴っている。

そして歌声。すごく深くて、どこかスピリチュアルな崇高さを持った声の響きに心を揺らされる。ジェイムス・ブレイクとか、ボン・イヴェールとか、そのあたりの人たちに近い感触。

「アノーニ」というのはアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズとして活動してきたアントニー・ヘガティの新しい名前で、その中性的な響きはトランスジェンダーであることを公言している彼女のアイデンティと密接に結びついている。そういうバックグラウンドとも関係しているような気もする。

歌われていることのテーマもかなり刺激的。

リード曲「Drone Bomb Me」は、曲名通りドローン爆撃による悲劇を、被害者の目線からありありと描くリリックが歌う。


《ドローンは私を爆撃した
山から海へと吹き飛ばした
私の頭を吹き飛ばして
内蔵を爆発させた》

しかしアルバム後半の「Crisis」で、同じ悲劇を今度は加害者の側から描く。

《もし私があなたの父親を
ドローン爆撃で殺したら
あなたはどう感じる?》
《ごめんなさい》

で、最後の「Hopelessness」から「Marrow」では、この絶望的な状況に、結局、一人のアメリカ人である自分自身も少しずつ加担しているという嘆きを歌う。

まさに「ホープレスネス」。気が滅入るような現実を歌い上げている。だけど、音楽の美しさがそれを浄化している。

今の時代の一番新しい形のブルーズだと思う。

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