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024.読書日記/アイヌの歴史や文化を学ぶ「アイヌの世界」ほか

映画「ゴールデンカムイ」を観て、読むなら今だ、とアイヌの歴史や文化に関する本をいくつか借りてきた。

アイヌどころか北海道についても殆ど知らず、私の日本最北到達地点は仙台。北海道といえば、屯田兵、蝦夷地、札幌と函館とススキノの地名と木彫りのクマ、イヨマンテの夜、雪まつり、裕次郎記念館、物産展。玉ねぎとじゃがいもは北海道産をよく食べる。「北の国から」は見てない。無に近い。

「先住民族アイヌを学ぶ 藤戸ひろ子さんに聞いてみた」(日本機関紙出版センター)/「アイヌの世界」(瀬川拓郎/講談社選書メチエ)

『先住民族アイヌを学ぶ』は、神戸女学院大学でのコロナ禍中に行われた講義をもとに作られた本で、教える方(大学の先生)も教えられる方も、「イチから一緒に学ぶ」と言うスタンスなので、私にもわかりやすく読みやすかった。2022年発行。
『アイヌの世界』は「DNAと言語からみたアイヌの起源」「縄文の祭りからクマ祭りへ」「黄金国家とアイヌ」など8章からなる、考古学や歴史や文化などの研究をコンパクトにまとめた本。2011年発行。

両方読んで歴史や文化とは別に、「アイヌの人々を『自然との共生』イメージでくくり神聖視し過ぎるのに違和感」(世界)「若いアイヌが文化をどう継承するかは本人次第」(学ぶ)と言うのが印象に残った。

シンプルな暮らしや考え方は、どう生きるか悩みの多い現代人にも響くように思う。訳された短い言葉に何らかの啓示を受ける人も多いかも。身の回り全てに神が宿るという考え方は八百万の神々と通じるし共感も多い。
以前にイスラム教に興味があって数冊本を読んだ中に、「イスラムは一神教なので、他の神を信じる観光客がモスクに来て祈ったりするのは軽蔑される。日本の寺院に外国人観光客がお参りするのを微笑ましく見ている我々とは違う」的なことが書いてあって、なるほどな、と思った。多神教と一神教のメンタルはこんなに違うのか、と。

アイヌの信仰や文化の楽しいとこだけつまんでわかったような気になるのは悪いな、と思いつつ、興味を持たずにスルーよりは良いのではないかと、内心で言い訳したりもしながら、図鑑的な本も読んだ。

「アイヌをもっと知る図鑑」「先住民アイヌ民族」(共に別冊太陽 平凡社)

2004年に発行された「先住民アイヌ民族」と2020年に発行された「アイヌをもっと知る図鑑」。発掘された道具類やイナウ(神への贈り物の木を削ったもの)、民族衣装などが美しい写真で見られる。
中でも「これは!」と感動したのが、江戸〜明治ごろに描かれた村上島之允(むらかみしまのじょう)をはじめとする和人によるアイヌ絵。趣があって絵として面白いし、興味深くて、わかりやすい。作者らが、違う文化や風習に強い興味を持って描いたのが伝わってくる。「知る図鑑」には秦檍丸(はたのあわきまる)に章が割かれていて、幕府役人としては村上島之允、絵師としては秦檍丸と名乗って、失われつつあるアイヌ文化を描き留めたのだとか。
アイヌ自身は口承文化で、絵に残すとそこに魂が宿り人間に害をなす、と考えられていたので、アイヌ自身による絵はないそうだ。絵師の誇張や間違いなどもあるようだけど、それでも絵が残っていて、当時の様子が知れるのは貴重だと思う。
→アイヌ的に考えると、絵も写真も動画も全て「人に害をなす」とすれば、我々は害悪の中で災いと共に生きているのかも。そうする他ないけれど。

「先住民族アイヌを学ぶ」では、消滅危機言語についても言及されていた。アイヌ語は「極めて深刻」な状態だそう。若い人がこれからバリバリ働いて経済的に自立したり、世界に向けて何かを発信したりするには、使っている人が多い言葉を話せるほうが良いだろうし、仕方のないことかと思う。

私が「和人」の文化を受け継いでいるかといえば、そんなこと考えたこともなかったし。普段は洋服で過ごし、布団で寝てる。北枕はなんとなくイヤ。滅多に急須でお茶を淹れないが、毎日コーヒーを飲む。朝はパン。パンパパン。初詣は行く。しめ縄は飾らない。買ってきたおせち料理を食べる。…こんな感じ。受け継いでいる?いない?まぁ、世界に発信する今の日本文化はマンガとアニメとゲームだし。

世界中の古い文化は廃れてどんどん均一化して、観光資源として保存・珍重されているだけのように思える。アイヌ文化をこの先どう継承するかは、若いアイヌの方の考え次第というのはその通りで、同じ現代を生きる者として過度に文化継承を求められるのは気の毒。ただ、それを資料としてしっかり保存する、というのは歴史的文化的に見てとても重要だと思う。

「カムイの大地 北海道と松浦武四郎」泉田もと/岩崎書店

最後にもう一冊。子ども向けの史実をもとにしたフィクション(大人の本が難しい時は、子どもの本がオススメ。要点をわかりやすく工夫して説明されているから)。
これは「北海道」の名付け親でもある蝦夷フィールドワーカー松浦武四郎の物語。松浦サンは、多大な労力をかけて蝦夷地を調査し、アイヌの現実を知り、迫害されていることに怒り、声をあげた。が、利益に走る役人や商人に阻まれてしまった。関わることを諦めた、というのを残念に思ったり、時代(江戸〜明治)的に仕方ないのかと思ったり。松浦さんの記した書物は「知る図鑑」の方に少し紹介されている。


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