『記憶屋 あなたを忘れない』が投げかける問い。主題歌『時代』がくれた答え

『記憶屋 あなたを忘れない』を観た。

映画を通して投げかけられるテーマには、正解も不正解もない。

しかし主題歌『時代』が、ひとつの答えをくれた気がする。

美しい夕陽をバックに流れるエンドロールと『時代』。

この歌詞を噛みしめ、胸に書き留め、心にそっとしまう。

きっと、観た者それぞれが、自分なりの答えを見つける。

そこまでが『記憶屋 あなたを忘れない』の鑑賞であると思った。

**

■たったひとつ、消さなかった記憶**

ネタバレにならない程度に、を心がけたいのだが。

本作で何度も投げかけられる問い。

消したい記憶を消すことは、
許されることなのか。
正しいことなのか。

たとえば、震災や戦争の記憶を消してしまえば、
また悲劇は繰り返される。

だから、どれだけ今は辛くとも、記憶を消すことは許されない。

覚えていなくてはならない。

そう、主張する者もいる。

しかし、あまりに悲惨で、壮絶で、
消し去ってしまわなければもう一歩も歩くことができない、

そんな記憶を持つ者も、本作には登場する。

記憶を消す。
そんなことが本当にできるのならば、
それは正しいことなのか。
許されることなのか。

その問いは投げかけられたまま、
作中に明確な答えは示されない。

というよりも、
この問いに答えなどない。

正しい答えなど、きっとない。

しかし、記憶屋がたったひとつだけ消さなかった記憶がある。

正しい選択だと私は思う。

たとえ今は悲しくとも、辛くとも、
絶対に失ってはならない愛情とぬくもりの記憶だから。

いつか笑って話せる、そういう記憶だから。

そんな時代もあったねと
いつか話せる日がくるわ
あんな時代もあったねと
きっと笑って話せるわ
だから 今日はくよくよしないで
今日の風に吹かれましょう

**

■今はこんなに悲しくても**

母が死んだ日の、あの日の冷たさはいまも覚えている。

それから数年間の、何事にも心が動かない重たい日々を、いまも忘れられないでいる。

忘れたいか?

忘れたくない。

私は、
母を愛していたから、
母に愛されていたから、

だから母を亡くしたことが、こんなにも悲しいんだと分かる。

この悲しみを消してしまったら、
愛していたことのかけら、
愛されていたことのかけら、

そういうものもきっと、消えてしまう。

そしてなにより、
それが今生の別れの瞬間だったとしても、

母の記憶は1つたりとも、1秒たりともこぼしたくない。
忘れたくない。

職場に、認知症の女性がいる。

ユニクロのセーターの袖をつまんで、

「お母さんが買ってくれたの」と微笑む。

私も、いつか自然にさまざまを忘れる日が来たら、
またこうして母に愛してもらえるだろうかと想像する。

だから、いっそ、失った悲しみごと覚えていたいのだ。

たとえ今日は果てしもなく
冷たい雨が降っていても
めぐるめぐるよ 時代はめぐる
別れと出会いをくり返し
今日は倒れた旅人たちも
生まれ変って歩き出すよ

**

■記憶屋も、いつか**

今はこんなに悲しくて
涙もかれ果てて
もう二度と笑顔には なれそうもないけど

もうひとつ。

記憶屋の後ろ姿に『時代』の歌詞を重ねてみる。

なんとも切ないストーリーが浮かび上がる。

それが、
記憶屋の宿命だとしても、
償いだとしても、

いつか笑える、そんな日が来てほしいと願わずにはいられない。

まわるまわるよ 時代はまわる
喜び悲しみくり返し
今日は別れた恋人たちも
生まれ変わって めぐりあうよ

たとえ記憶をなくしても、

めぐり合うべき者同士は、きっとまためぐり合う。

そう思う。

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