【暫定メモ】「UQWiMAX被害者による集団訴訟」という記事に対する素朴な疑問

■今回のテーマは何?

昨日投稿されて話題になっている以下の記事を拝見しました。

筆者の方は,法律の専門家ではないそうですが(弁護士に相談するとおっしゃっていますし),それを前提にしたとしても,ちょっとよく分からない部分がありましたので,念のため,簡単なメモを暫定的に作成しておきます。

ユーザーを馬鹿にし続けた「UQ WiMAX」に対する集団訴訟を起こしませんか? - UQWiMAX被害者による集団訴訟への一歩
http://uqwimax.hatenablog.com/entry/2015/07/04/171029


なお,私は,UQWiMAX自体については,全く実態を存じ上げないのでコメントはできません。あくまで,法律に関するお話を取り上げます。

また,今回の記事は,上記記事をざっと拝見して書いたものですので,私の勘違いや誤りもあるかもしれません。その点をお含み置きいただければ幸いです。



■「最低50人」,「費用も不要」,「委任状3通」?

「最低50人いれば訴訟は行えます。実際にどこかに赴く必要もなく、費用も必要ありません、委任状を3通郵送していただくだけです。」

今回の記事で,1番疑問を感じたのがこの一文です。


第1に,「最低50人いれば訴訟は行えます。」という部分は,もう少し説明を加えられた方がいいかと思われます。

なぜならば,共同訴訟は2人以上の原告が存在すれば成立しますし,そもそも,訴訟提起自体は原告が1人いれば成立します。

私の推測では,上記記事の筆者の方は,「最低50人いれば,社会的インパクトを与えられる」というご趣旨で「最低50人いれば訴訟は行えます。」という表現を使われたのではないかと思います。

ただ,法律の専門家ではない方がこの表現をご覧になると,「50人集まれば特別な制度が利用できる」 or 「50人いなければ訴訟提起できない」と誤解されてしまうのではないかと。


第2に,「費用も必要ありません」という部分は,純粋に不思議に思いました。

訴訟を提起する際には,法令で定められた印紙を裁判所に納める費用がありますし,訴状の送達などに使う郵便切手(郵券)を裁判所に予納しなければなりません。

つまり,訴訟を提起するのではあれば費用は必要なのです。

もちろん,「訴訟上の救助」や「民事法律扶助による立替制度」という制度はありますが,上記記事はこれらの制度を前提としているようには思えません。

今回の訴訟,どなたが費用を負担されるのでしょうか……?

裁判所|民事訴訟にかかる費用は,だれが負担するのですか。
http://www.courts.go.jp/saiban/qa_minzi/qa_minzi_15/index.html
裁判所|「訴訟上の救助」とは,どのようなものですか。
http://www.courts.go.jp/saiban/qa_minzi/qa_minzi_17/index.html
裁判所|「民事法律扶助による立替制度」とは,どのようなものですか。
http://www.courts.go.jp/saiban/qa_minzi/qa_minzi_18/index.html


第3に,「委任状を3通郵送していただくだけ」という部分は,かなり違和感を覚えました。

確かに,弁護士などの代理人が,訴訟を提起する際には,裁判所に委任状を提出する必要があります。

しかし,なぜ「3通」も必要なのかが不明なのです。

ひょっとすると,UQWiMAXを提供している会社だけでなく,取締役も被告として訴訟を提起するのかもしれません(こうした手法は実務上よく用いられます。)。

ただ,被告が複数であっても,委任状は1通で足ります(実務上は委任状の「相手方」の欄に複数の被告を記載すればOKです。)。

それとも,本訴提起の前に,民事保全でもするのでしょうか……?

一般論ですが,委任状は,そんなに気軽に渡してはいけません(笑)!

ですから,この部分は,明確にご説明された方が良いかと思います。合理的な理由があれば問題はないわけですから。



■「集団訴訟」って何?

上記記事では,タイトルにも書かれているように「集団訴訟」という言葉がたくさん出てきます。

この「集団訴訟」というものが,どういうものをイメージされているのかが,よく分からないのです。

もちろん,「集団訴訟」という用語自体は存在します。

集団訴訟 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%86%E5%9B%A3%E8%A8%B4%E8%A8%9F

ただ,この「集団訴訟」という言葉は多義的です。

ですから,上記記事は,「集団訴訟」という言葉で意図されている内容を,具体的に説明されると,より分かりやすくなるのではないかと思います。


私の推測では,恐らく,上記記事は「被害者の方が集まって,同時にUQWiMAXを提供している会社を訴えよう!」という意味で――民事訴訟法38条以下が定める「共同訴訟」の意味で――「集団訴訟」という言葉を使われているのだと思います。

実際に,過去,我が国でも薬害エイズ訴訟や大阪空港訴訟など,この意味での「集団訴訟」は幾つも提起されています。


ちなみに,アメリカの映画では,よくたくさんの人が集まって訴訟を提起する場面が出てきます。

これはクラスアクションと呼ばれる制度で,アメリカなどでは認められていますが,日本の現在の民事訴訟法では認められていません。

アメリカ合衆国における消費者クラスアクション訴訟の実情
http://www.consumer.go.jp/seisaku/kaigi/higaikaihuku/file4/shiryou3-1.pdf
クラス・アクションの意義
http://www.consumer.go.jp/seisaku/kaigi/higaikaihuku/file4/shiryou2.pdf

また,「集団訴訟」とイメージ的によく似た言葉(?)として「消費者団体訴訟制度」というものもあります。

消費者団体訴訟制度 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%88%E8%B2%BB%E8%80%85%E5%9B%A3%E4%BD%93%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E5%88%B6%E5%BA%A6
消費者団体訴訟制度(団体訴権)の紹介_国民生活センター
http://www.kokusen.go.jp/danso/
||| 消費者契約法・消費者団体訴訟制度について | 消費者の窓 |||
http://www.consumer.go.jp/seisaku/caa/soken/

消費者団体訴訟制度の内容を簡単に説明しますと,
(1)適格消費者団体が
(2)不当な行為をしている事業者に対して
(3)その行為の差止めを求める
というものです。

消費者団体訴訟制度は,適格消費者団体しか利用できませんし,行使の差止めしか請求できませんから,恐らく,今回の記事で前提とされている「集団訴訟」とは違うと考えられます。



以上,重箱の隅をつつくような&揚げ足とりのような内容の記事で恐縮ですが,疑問を簡単にメモしました。


#法律 #解説 #メモ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?