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ダボスにて@世界経済フォーラム 2024(1)

2024年1月15日ー 19日、第54回世界経済フォーラム(ダボス会議)がスイス・ダボスで開催され、今回も参加のご縁をいただいた。

ここ3年続けて出席をしていると、顔見知りも増えてくる。朝から晩まで代わる代わる人に会い、話をして、イベントに参加する怒涛の日々、全力疾走の一週間でもある。

毎回、期間中は追われるように毎日が過ぎていくものの、会を重ねるうちに、宗教者として自分がここに参加している意味や役割がだんだんみえてきている実感もある。それが何より、自分にとっての収穫かもしれない。

ここでは、考察というよりも、いつものことながらあくまで「備忘録」的に印象に残ったものをシェアしたい。


今回のテーマは「Rebuilding Trust(信頼の再構築へ)」。

いつにも増してアーティストのゲストが目立つ。政治経済の議論から信頼の再構築を図ることは難しい。地域性もパワーバランスも超えてゆくアートの力は欠かせない。感性を開く場づくりから、はじまるのだろう。

◉ Meditation by Krista Kim (デジタルアーティスト)

ダボス会議の会場では、朝にマインドフルネス・セッションが行われる。

昨年は、自分が主催者として「Meditation with Good Ancestors(よき祖先と共にある瞑想)」の場を開き、思いがけず好評だった。今回は、デジタルアーティストのKrista Kim氏が主催するセッションに、参加者の一人として参加してきた。

Kristaは、デジタル表現による光と色の風景から視覚的に人の意識を瞑想状態へと誘う映像作品を手掛ける。NY タイムズスクエアを動的な色彩で彩るなど、さまざまな舞台で、デジタルアートがもたらす人類のウェルビーイングを探求している。テクノロジーと芸術の融合から豊かな人間性を創造する「Techism」の提唱者でもあり、禅的仮想空間を創るメタバースアーティストとしても知られる。

「芸術は常に、新しいテクノロジーを通じて人類に奉仕し、表現することを保証してきました。Techism は、アーティスト、テクノロジー、技術者の橋渡しをして人類に貢献する作品を生み出すことを目的としています。」

引用:https://www.riseart.com/


今回のダボス会議の朝のセッションは、彼女の作品を使ったインスタレーションのなかで行われた。あるようでない空模様のような、色と光のグラデーションがゆっくりと変化していく。はっきりとはわからない諸行無常の変化を丁寧に観ていく体験は、瞑想的である。

彼女は、作品のインスピレーションの多くを京都の禅寺・龍安寺の石園での体験から得ているそうだ。

「京都は私のメタバースのインスピレーションの源です。純粋な美と共に、人を高い意識状態へと誘う設計がされていて、街自体がリアルなメタバースであると思っています。禅の哲学は、京都のあらゆるデザインの決定に影響を与えているようでした。こうした場は時代を超越してインスピレーションを与えてくれます。私が、哲学の核心ともいえるものを体験した龍安寺の庭園は、とてもシンプルで、ミニマムなものでした。千年以上前の禅僧たちが、人類への奉仕として、観るものに禅をもたらすことを意図してこの空間を創造したのだと、気付いたのです。」

引用:https://www.lofficielstbarth.com/


◉ platon(写真家)

昨年、この会場で紹介をされて知り合った写真家のPLATONと再会。現在制作中の作品集があるとのことで、日本での発表の場を共創できたらという話にもなった。

(参考動画:The Art of Design|Platon)


アーティストの他にも、個人的に声を掛けてもらう方を紹介する。日本や日本仏教は世界に何を求められているのか、参考になるかもしれない。


◉ Milojko Spajić(モンテネグロ首相)

モンテネグロ首相 ミロイコ・スパイッチ氏からは事前に1o1のお声掛けをいただいていた。「ミッキーと呼んでくれ」ととても気さくな方だった。かつて日本に留学していた経験もあり、日本語もとても流暢だ。自分の拙い英語で話すより、日本語で話す方がよく意思疎通ができるほどであった。

現在36歳、昨年の選挙で選ばれ、10月に自身の政権が発足したばかりのエネルギー溢れるフレッシュなリーダーだ。首相の立場からも、今後日本とモンテネグロの架け橋として日本との交流を積極的に図っていきたいという。

モンテネグロはバルカン半島に位置し、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、コソボ、アルバニアに国境を接する。旧ユーゴスラビアを構成していた共和国の一つで、旧ユーゴ崩壊後に発足した国家連合セルビア・モンテネグロから、2006年に独立した。国家と国際政治の都合によって、多くの紛争や分断の経験を経てきた歴史の上に存在している小さな国だ。現在EU加盟国として、グローバル経済のなかでの経済発展を目指している。

大統領に就任して2ヶ月余り。首相として初めて身を置くダボス会議は、グローバル社会で人脈を作り、世界の動きにキャッチアップしていこうというただならぬ思いがあるかもしれない。混乱の歴史があっても、今こそ、未来に向けて平和で豊かな国を創っていくーー国の未来と、人々の暮らしを背負っている。

国家としての更なる成長を望むなか、かつて高度経済成長を遂げた日本の経験から学びたいとおっしゃっていた。経済成長に伴う変容のなか、守るべきものはなにか。日本が今日まで辿ってきた道のりの経験から、私たちは何を伝えられるだろう。

文化的交流を含めて、日本でもさまざまなな展開がありそうだ。

◉ others

日本仏教の僧侶として参加をしていれば、もちかけられる話は自然と、プライベートな話題も多い。「いろいろとっ散らかってなかなか集中できない。やっぱり瞑想が必要だろうか」といった、吐露のような相談を受けることも度々ある。

参加者の多くが、過密スケジュールのなか常に仕事に追われている。関係者の範囲も広大で、考えるべきことはキリなくある。自分からは、「瞑想ももちろんいいが、それが新たなタスクとなるようであれば、それよりも "今やっていることをいかに減らすか" だろう」と伝えている。

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このnoteマガジンは、僧侶 松本紹圭が開くお寺のような場所。私たちはいかにしてよりよき祖先になれるか。ここ方丈庵をベースキャンプに、ひじ…

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