見出し画像

おとうさんのくるま

ある日、ある中古車ディーラーの看板を指さして長男が言いました。
「おとうさんのくるまある」
LINEで妻からこの報告を聞いた私は思わず涙が出そうになりました。

この記事は、
 ・子どもってすごい!
 ・侮れない…
 ・もっとちゃんと伝えればよかった
と感心、畏怖、後悔した話です。
車に興味ない人でも、子供に関心がある人なら是非最後まで読んでほしいです。


2023年2月、私は愛車を売りました。
2019年に新車で購入したスイフトスポーツ。
見た目がシンプルでかっこよく、力強い走りなのに燃費もそこそこ。6速MTで走っていて楽しく、とにかくコスパ最強の車です。

コスパ最強スイフトスポーツ

2017年に就職し車が必要になった私は、父親に20年前のアルトワークスを譲ってもらっていました。
アルトワークスは5速MT。
一応免許はMTで取得していましたが、まさか本当にMT車に乗ることになるとは思わずとても不安でした。
とにかくぼろく、エアコンは壊れてるしシフトレバーはなんかぐにゃぐにゃでギア入ってんのかどうかも分かりにくい。走るには走るけど100km/hを超えるとロケットに乗ってる?と思うほど車体は揺れるし、走行後はエンジンの暖気が必要で、鍵を回してエンジンを切っても3分くらいはエンジンかかりっぱなしという仕様です。
乗りたての頃は青信号での発進でエンストし、駐車場のバックでエンストし、大通りの転回でエンストし(夜中で車がいなかったのが幸い)、当時は相当焦ってましたが今思い返すといい思い出です。そんなピーキーな車で2年過ごしました。

アルトワークス@千里浜(石川県)

そんなボロい車を経た私にとってスイフトスポーツという車はとにかく乗りやすい!
ギアはカクっと入るし、加速はしっかりしてるし、100km/hでもスーっと走るし、燃費も悪くないし、言うことありません。
毎日の通勤も、帰省時の遠征も、いつも楽しみながら乗っていました。


そんなスイフトスポーツを売る事になったきっかけは、二人の小さい子どもを連れて帰省するときの荷物が多くなりトランクが心許なくなってきたこと、同時期に私の両親がトヨタのRAV4を手放そうとしていたことです。
RAV4は容量十分、走行性も高いので、今後の帰省を少しでも楽にするために譲ってもらう(買う)ことにしました。ATなので妻も運転できるのもポイントです。
私のスイフトスポーツと妻の街乗り用のソリオ、どちらを売るか相談した結果、スイフトスポーツということになりました。車に乗る楽しみが少し減ってしまうのが残念ですが、背に腹は代えられません。査定をしてもらったところ状態がすごくいいということで想定以上の値段をつけてもらい、無事に売却が決まりました。

引渡日が決まってからは、寂しさを感じつつ乗っていました。
2歳になったばかりの長男は一応このスイフトスポーツがお父さんの車だということを認識しており、言葉は喋れないけど何となくこれに乗るときは嬉しそうにしていたものです。
長男にとっても最後と思い、掃除のついでに助手席に乗せてその場を前進、後退してみたり、エンジンを切って運転席でハンドルを握らせてみたりやりたいままにさせてやりました。
いつもは後部座席のチャイルドシートなので、初めての前席、初めての大人用シートベルト、初めての本物ハンドル、ウィンカー、ワイパーなど、それはそれは楽しそうにしておりました。

初めての助手席
心の底から楽しそうなご様子

引渡日の当日、私は愛車に、妻と子どもたちはソリオに乗ってディーラーへ向かいました。
大きな看板の大きな文字、ズラッと並んだピカピカの車たち。
中に入ると2台を横に並べて駐車し、私だけ引き渡しの手続きのために店内へ入りました。
10分ぐらいでしょうか、手続きが完了したのでソリオに乗り込み私達夫婦はスイフトスポーツに別れを告げながらその場をあとにしました。
長男は流れで手を振っていたように思いますが、私は
「何が起こっているのかわかってないんだろうな〜」
と思っていました。


それから数カ月後、たまたま例のディーラーの前を通ったときのことです。だいぶ言葉が出るようになった長男が「とーたん」といってあの大きな看板を指さしたのです。当時は覚えた言葉をなんの脈絡もなく発声していたので、このときはそこまで気にしていませんでした。

それからさらに数カ月後、2語文、3語文を喋れるようになった長男がまたこのディーラーの前を通ったときに、
「おとうさんここいった」
「おとうさんのくるまある」
と言ったのです。
これは間違いない!前の車のことなんてとっくに忘れていると思っていましたが、ちゃんと覚えていたのです!
当時私はその場にはいませんでしたが、妻からのこの話を聞いたときには嬉しさと懐かしさと長男の成長ぶりに感激するあまり涙腺がふっと緩んだのを感じました。
と、同時に後悔の念が。
長男はもしかしたら
お父さんの車はここにあるのは知ってるけど、もう乗れないことを知らない
かもしれません。
そう思うと、あのお別れのときにもっと長男にも
「今からお父さんの車とお別れするんだよ」
ということを伝えてやればよかったな、と思います。


何も分かってないように見えても、ただ言葉にしていないだけでその時の情景をしっかりと心に刻んでいる。
子どもってそういうところがあると思います。
我々にとってはどうでもいいようなことでも、子どもにとってはその瞬間をどう生きるかを左右する重要なことかもしれません。
子どもたちはそんなふうに一瞬一瞬を全力で生きている。

今回は私にとっても長男にとっても忘れられない思い出でしたが、
このあとも続いていく育児、子どもが、大人が気にも留めないようなことと真剣に向き合っている場面に幾度となく出くわすでしょう。
そんなときにはできる限り、誠意をもって、子どもの気持ちに応えるようにできたらなと思います。

この記事が参加している募集

子どもの成長記録

少しでも心に響いたなら嬉しいです。