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THE FIRST SLAM DUNK

あの物語を、現実と同じくらい、
心の中の大切な記憶として
取っておいてくれている人たちがいることに
気付かせてもらいました。
読み手と読み手を、同じ記憶でつなぎとめたり、
ある人の過去と今をつなぎとめていたり、
物語にそんな力があるとすれば、
描いてきて良かったと今、強く思います。
  ――井上雄彦『スラムダンク あれから10日後』


▼▼▼スラムダンク劇場版を観た▼▼▼

先週号の「絶望日記」で、
僕は「2022年観た映画ベスト10」を紹介した。

1位 浅草キッド
2位 漁港の肉子ちゃん
3位 コーダ あいのうた
4位 ドライブ・マイ・カー
5位 香川一区
6位 空白
7位 RBG 最強の85歳
8位 ちょっと思い出しただけ
9位 劇場版 きのう何食べた?
10位 レイディオ

というのがそれだ。

メルマガを送ったのが13日火曜日なのだけど、
実はその日には書いていなかったことがひとつある。
敢えて書かなかった。

12日月曜日に僕は、
夕方自転車を走らせ、
UPLINK吉祥寺という地下二階にある映画館に行き、
『THE FIRST SLAM DUNK』を観ていた。

現在公開中の劇場版のスラムダンク。

はじめは観るつもりはなかった。
でも、なんか「観なきゃいけない」気はしていた。
後ろ髪を引っ張られるというか。
スラムダンクは僕にとって聖書なので笑。
スラムダンク28章66節の、
メガネくんの「2年間も待たせやがって」あるじゃん、
みたいに、スラムダンク福音教会の兄弟姉妹と、
聖書研究会をしている。
スラダン通読もしていて、
一日一巻読むと、
1年でちょうど12回通読できる。
神奈川県予選の綾南戦までを旧約、
全国大会の豊玉戦からを新約と呼んでいる。
聖餐式には全員湘北のユニフォームを着、
安西先生の身体であるところの、
あんパンを手で裂いて食する。

、、、

、、、

全部嘘だけど。
(最近冗談が通じない人が増えたので、
 必要ないと思うけど念のため言っておく)

でも、スラムダンクが僕にとって、
聖書の次ぐらいに人生に影響を与えた書物、
というところまでは本当で、
もう、山王戦は僕にとって、
落語好きの「芝浜」や「ときそば」とか、
ミュージカル好きの「美女と野獣」「オペラ座の怪人」みたいに、
完全に「古典」になっている。
「神話」と言った方が良いだろうか。

試合の流れがほぼ頭の中で再現できるほどに、
僕は山王×湘北戦を繰り返し読んできた。
高校生の時代には週刊少年ジャンプで一度読み、
その後単行本を買ってそれを繰り返し読んだが、
特にひどかったのは社会人になって1ー2年目ぐらいのときだった。
大学時代に一度手放した(正確には実家においてきて
どこに行ったか分からなくなった)コミック全31巻を
豊橋中のブックオフを巡って買い集め、
1巻から31巻まで読んで、
最後の流川と桜木のハイタッチからの、
「天才ですから!」のラストシーンを読むと、
水を一杯飲んでから第1巻から読み始めた。

チェーンスモーカーならぬ、
チェーンスラムダンカーだ。

社会人になってばかりのあの頃は、
心が疲れていたのだろうと今は思う。
心が疲れているときは、
安心するストーリーを何度もなぞりたくなるのだ。


▼▼▼事前情報とマヂラブのラジオ▼▼▼

とにかくそんなわけで、
今回は迷っていた。
相当に迷った。

なんせ、事前情報がまったくない。
内容に関してまったく公開しない、
という異例のプロモーション方針で、
公開前からいろいろに噂されていた。

山王戦の後を描くのではないかとか、
ゴリが引退した後の、
宮城リョータキャプテンの湘北を描くのではないかとか、
アメリカに行った流川や沢北を描くのでは、とか。

そして、これも今回の特徴なのだけど、
「観た人はなるべくそれを人に言わないように」
という紳士協定的な暗黙のコンセンサスがある。
だから僕もここで観た内容に関しては何も言わない。
知りたい人は自分の眼で確認して欲しいし、
そのほうが絶対、面白い。

要するに今、『THE FIRST SLAM DUNK』は、
「カメラを止めるな」状態になっている。

何も言えないけど、
面白かったということだけは言えるという。

そんで、先週ラジオで、
『マヂカルラブリーのオールナイトニッポンZero』
を聞いていたところ、
初日に劇場で観た野田くんと村上くんの
熱量が尋常ではなかった。

「内容に関しては何も言えないけど、
 号泣したということだけは伝えておく」と。

彼らもまたヘビースラムダンカーなので、
彼らの意見を僕は信頼している。
ラジオ放送を聞き終わるころには、
「観なきゃだめだな、やっぱ」に傾いていた。


▼▼▼吉祥寺の映画館にて▼▼▼


月曜日の夕方、
早めに仕事を切り上げ、
僕は吉祥寺の駅前にあるUPLINKという映画館に入った。
家からチャリで20分で映画館があるというのは便利だ。
引っ越しして良かった。

地下二階にあるその映画館は、
平日16:30上映開始という、
あまり普段なら客が入らない時間帯にもかかわらず、
若い客を中心にほぼ満席だった。

この人たちスラムダンク世代じゃないだろ、と思った。
直撃世代は今30~40代のはずだと。

しかし、Z世代にそういう区分けは意味をなさない。
彼らはあらゆるアーカイブに触れられるし、
面白いものなら何でもいい、
というジャンルレスなところがある。
素敵な世代だ。

地下二階にあるから天上が低く、
そのため映画のスクリーンは小さいんだけど、
音はとても良い、という映画館で、
周囲を大学生っぽい若者たちに囲まれながら、
2時間、鑑賞した。

もうね。

内容は何も言えない。

でも、これだけは言っておく。

オープニングの時点でちょっと泣いてたからね。
10-FEETというバンドが主に音楽を担当している。
オープニングは違うアーティストだったかもしれないけど、
とにかく音楽の使い方がめちゃくちゃオシャレ。
もう井上雄彦の作画と楽曲が、
最高にスタイリッシュかつエモーショナルに融合していて、
それだけで泣きそうになった。

ほら、ジャニーズに熱狂している女子中学生が、
サプライズで体育館に現れたジャニーズを観て、
まだひとこともしゃべってないのに、
脊髄反射的に号泣してる映像あるじゃん。
それがジャニーズのそっくりさんかもしれないのに。

それですわ。

井上雄彦の絵が動き出した瞬間、
僕はもうパブロフの犬のように泣いていた。
そして120分、
20分おきぐらいに泣いていた。

隣のZ世代にバレないように、
直撃世代おじさんは、さめざめと泣いていた。

おい、分かるか。

お前にこのエモさが分かるか。

月刊バスケットボールの表紙を見てきた、
あの山王が対戦相手として目の前にいるという感慨に浸るゴリが、
その意味をまったく理解していない、
素人桜木花道に説いて聞かせるように、
隣のZ世代に泣きながら説教したかったけど、
警察沙汰になりたくないので止めた。

僕にしてはめずらしく、
エンドロールの最後の最後まで席から立たなかった。

監督・脚本・総指揮 井上雄彦

が最後に流れたとき、
もう、拝んだよね。

井上先生、ありがとう、と。

スラムダンク福音教会の兄弟姉妹は、
全国の映画館で同じことをしているだろう。

内容に関しては何も言えないけど、
とにかくそんな映画でした。

ゆえに。

年間観た映画ベスト10は、

1位 THE FIRST SLAM DUNK に訂正します。

2位以下は繰り下げにしたいところですが、

1位タイです。
浅草キッドと同じ!

だから順位は変わらず!

、、、

、、、

知らんがな。
と皆さん、ずーっと思ってると思うんだけど、
とにかく感動したので、
日記に書きました。

あれは観た方が良いぜ。


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参考文献および資料
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・『スラムダンク』全31巻 井上雄彦
・『スラムダンク あれから10日後』井上雄彦
・『空白』井上雄彦
・「マヂカルラブリーのオールナイトニッポンZero」ニッポン放送

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