姉弟日記 『明け暮れ』
箱の中へ押し込められた、日常の跡。
壁や床の傷に思い出を見る、引越しの日。
早朝のベランダで、
姉弟が街並みを眺めていた。
夜の闇を、陽の光が染め始める頃。
狭間の光が、くすんだ都市を美しく照らす。
太陽と月の出会いが許された、
ほんの僅かな──
── "魔法"と名のつく時間。
現実から目を背けられない現代社会で、
唯一、魔法という存在が許された刻。
その景色を無言で見つめ、姉弟は思う。
自分たちが家族として、
共に過ごした日々に似ていると。
魔法が解ければ、二人は……
各々が成すべき日常へ巣立っていく。
どこか荷が降りたような清々しさと、
明日からも続く日々への不安。
鮮明に残る大切な思い出の温かみと、
それもいつか薄れゆく喪失の予感。
それらが交錯した心情は、
知り得る言葉では言い表せない。
だが、言葉など交わさずとも。
まるで魂が通じ合っているかのように、
互いに同じ気持ちだという確信があった。
その後も、彼らは黙ったまま。
隣にいられるひと時に身を任せた。
魔法が終わるその瞬間が、
一秒でも遅れることを、祈りながら。
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