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ソートリーダーシップ (Thought Leadership) マーケティングとは!?

こんにちは、米田 @ 富士通にてマーケティング変革実行中です。今回は、日本ではまだあまり一般的になっていなく、個人的に満足が行く日本語の説明が見つけられなかった「ソートリーダーシップ (Thought Leadership)」によるマーケティング手法について、実際に実施してみての話も踏まえて解説します。


ソートリーダーシップ (Thought Leadership)とは

インターネット世界の拡大と共に、世界ではだんだん注目度が増しているコンテンツマーケティングの一分野として「ソートリーダーシップ (Thought Leadership)」を活用したマーケティングが挙げられます。

インターネット上では様々な情報が溢れかえり、消費者は販売者に問い合わせをしなくても商品やサービスについての情報を得ることができます。B2Bの世界では、消費者が販売者に連絡をしてきた時点で購買プロセスの57%は既に終わっているとも言われています。そのため、販売者はインターネット上のデジタルコンテンツで自分や自社商品・サービスが優れていることを消費者に十分に教育しておく必要があります。

日本では2016年頃から「ソートリーダーシップ」という言葉がウェブ上でも登場し始めました。ソートリーダーシップとは、企業の事業領域のトピックについて潜在顧客にあらかじめ教育をする手法のことで、「ソートリーダー (Thought Leader)」とよばれる人を業界の専門家として祭り上げ、その人の発言や行動を通して事業領域における信頼性を高めていきます。

ソートリーダーが発信する情報と人物自身をコンテンツとして活用できるため、普通にデジタルコンテンツをインターネット上に公開する場合と比べて、より共感を呼ぶ影響力の高いコンテンツにすることが可能になります。

日本語で「ソートリーダーシップ」のコンテンツを見てみると、多くは「〇〇といえば✕✕」というような、第一想起を得たり第一人者になる、といった単純なマーケティングと捉えてしまっているものが多いように思います。これらの表現や手法は、欧米で行われているソートリーダーシップを的確に捉えていません。

ソートリーダーの人選

ソートリーダーシップによるマーケティング施策を実施する際に、まず最初に考える必要があるのは「誰をソートリーダーにするか」です。この施策の目的と望まれる結果から逆算することで、ソートリーダーに求められる条件が出て来ます。

たとえば、

● CxO向けにアプローチしたい
● サステナビリティの分野で他社に先行して自社のイメージを確立したい

ということであれば、自社の商品やサービスの知識があり、お客様の役員に直接会えそうな、サステナビリティ事業部の担当役員をソートリーダーに選びます。

しかし、実際に私も似たような方針でソートリーダーを任命してやってみましたが、こんなに単純にはいかないようです。ソートリーダーとしての適性は、「個人としての適性」と、「組織の仕組みの適正」の2点を考慮する必要があります。

組織の仕組みの適正
企業組織の仕組みとしてソートリーダーシップの手法を取りやすい場合、取りにくい場合があります。主に以下の2点の検討が必要です。

1. リーダーの専門性 (知識および役職の継続性)
2. 商談推進における連絡の行き方、動き方

日本の伝統的な大企業の場合、役員やその一つ下の本部長クラスは、色々な職種を経験してきたジェネラリストである場合が多いかもしれません。一方、ソートリーダーにはその分野の専門性が求められます。専門性については、知識そのものはもちろんのこと、該当する役職にどれくらい留まれるか、もかかわってきます。たとえばサステナビリティ事業の組織長のポジションの人にソートリーダーになってもらったとして、1~2年で異動してしまうようだと継続性がなくなってしまいます。この対策としては、役職を少し下げてジェネラリストではないスペシャリストで役職にも継続性があるポジションの人をソートリーダーに任命してCxOにも会えるような役職名とスキル獲得をしてもらうことが挙げられます。

また、ソートリーダーシップからビジネスにつなげる (商談を獲得する)場合は、その企業の商談推進フローを考慮する必要があります。企業における通常のマーケティング・営業活動では、マーケティングにより得られたリードを醸成してインサイドセールスに渡し、営業に渡すのが一般的でしょう。しかしソートリーダーシップでは、ソートリーダーを際立たせることでソートリーダーに顧客から直接連絡が入るようになります。ソートリーダーシップはコンサルティングファームでは良く採られている手法で、領域のトップである「パートナーコンサルタント」をソートリーダーとして目立たせることで顧客から直接連絡が入るようにして、パートナーコンサルタントが顧客に直接営業をかけます。コンサルティングファームではない場合、領域に詳しいのは事業部組織、営業をかけるのは営業組織と分かれている場合も多いため、営業推進体制はあらかじめ確認が必要です。

個人としての適性
リーダー個人のスキルと振る舞いについては、領域に対する知識 (自社の商品やサービスに限らない業界の広い範囲) とプレゼンスキルがあることを前提としたとしても、ソートリーダーになるためには追加のスキルや振る舞いが必要になります。

1. 決定的なビジョンを持つ
2. 商品やサービスを売ろうとせず顧客を支援する立場に立つ
3. 個人としてコミュニティとつながり貢献し続ける

米国のシリコンバレーでソートリーダーとして長年活躍している人々によると、まず、ソートリーダーには領域の未来とテクノロジーの未来に関する決定的なビジョン、イノベーションに関するクリアな方向性を示すことができ、人々を導くことができることが求められます。世の中にはいろいろな情報が溢れていますが、その中で本当に際立つくらいの共感を生み出すビジョンとそれを語るナラティブやパーソナルストーリーの開発をまずしっかりやる必要があります。

その際には、自分が「その領域で一番賢い人」を気取る必要はなく、「一番有名な人」である必要もありません。常に初心を忘れずに人々の話に耳を傾け、課題を一緒に解決して未来を創っていく支援の姿勢と振る舞いが求められます。課題が何かを上手に語ったりできない理由を述べる人はたくさんいますが、実際にパートナーとして一緒に解決する支援をしてくれる人は少なくソートリーダーにはそれが求められるようです。

また、その際には(企業に対する短期的な)見返りは求めてはいけません。つまり、所属企業の商品やサービスを売ろうと特別に推す姿勢を最初から見せてしまうと顧客やコミュニティからの信頼が得られなくなってしまいます。売ろうとするのではなく、顧客の立場に立って支援する姿勢を保つ必要があります。企業としてソートリーダーシップマーケティングを実施する際には、この理解を企業のマネジメントから得ることが克服すべき大きな課題のひとつになるかもしれません。

合わせてソートリーダーであり続けるには、時間を割いて領域の主要なイベントに出席し続けてコミュニティとつながり続け貢献を続ける必要があります。そうすることで、ソートリーダーとしての個人的なブランディングを維持できます。

このように、ソートリーダー個人に対してもいろいろな追加のスキルや振る舞いが求められます。これらを受け入れて実践できるソートリーダーを任命する必要があります。

ソートリーダーと似たものとの違い

世間にはソートリーダーと類似する役割の言葉が流通しています。ソートリーダーとこれらの言葉の類似点や違いについて整理しておきます。

インフルエンサーとの違い

インフルエンサー (Influencer)は、世間や人の思考・行動に大きな「影響 (influence)」を与える人物です。芸能人やスポーツ選手など影響力のあるSNSアカウントを持って発信している人物、YouTuberや特定分野の専門家、ブロガーなどがこれにあたります。特にSNSが世間一般に広がった2000年代後半から良く使われるようになりました。

インフルエンサーというと、主に「個人で活動している人物」を指すことが多いです。企業に属していてSNSフォロワーが多い人のことを指す場合もありますが、このような場合は企業に属していても個人としてSNSをやっている場合が多いです。一方、ソートリーダーには個人で活動している「個人型ソートリーダー」と、企業に属して組織的に活動する「企業型ソートリーダー」がいます。インフルエンサーと個人型ソートリーダーは概念が重なります。ソートリーダーは主に特定領域への専門性や貢献で認識されるのに対し、インフルエンサーはSNSのフォロワーを通した情報発信力で認識されます。

オピニオンリーダーとの違い

オピニオンリーダー (Opinion Leader)は、購買行動、流行、選挙の投票行動に対して、周囲の人々の集団の意思決定に大きな影響を与える人物、世論形成者・世論先導者のことです。

インフルエンサーもオピニオンリーダーの一種と言えますが、オピニオンリーダーはインターネット誕生前からマスメディアを使って影響力を駆使する存在であり、1940年代から存在する言葉です。テレビのコメンテーターなどが典型例です。ソートリーダーと比較すると、オピニオンリーダーも情報発信力で認識されます。

アンバサダーとの違い

アンバサダー (Ambassador)は、単語の意味は「大使」で、ブランド、商品、イベントなどを宣伝広告する人物です。ブランドや商品等の販売者、イベントの主催者とは同じ組織に属していない第三者で、宣伝対象に対して熱意のあるファンであり、宣伝対象の良い面を周囲の人々自発的にアピールをしてくれることが特徴になります。他ユーザーへの影響力の大きさはそこまで重視されないため、直接の発信力が要求されるインフルエンサーとは差別化されます。

ソートリーダーとの違いについても、製品や技術の領域自体への専門性と貢献は重視されず、熱意のあるファンであることが異なる点です。「観光大使」「親善大使」「マスコット」等がアンバサダーの典型例です。

エバンジェリストとの違い

エバンジェリスト (Evangelist) とは、元々はキリスト教の「伝道師」の意味で、特にIT業界でITのトレンドや技術について、分かりやすく説明し啓蒙する役割を持つ職種のことを指します。日本で活躍しているエバンジェリストを見てみると、所属している企業・団体の製品や技術について比較的幅広く取り扱い、製品や技術そのものの専門性というよりは「伝える」技術を専門とされている方が多いようです。

ソートリーダーは製品や技術の領域自体への専門性と貢献を軸に動いている点で、エバンジェリストとは差別化される存在です。

シンカーとの違い

日本ではあまり聞かないですが、海外ではシンカー (Thinker) という言葉も使われています。Thinkers50 のようにこの言葉を使ったイベントも開かれています。日本語への直訳だと「考える人」、意味的に近いものは「思想家」です。シンカーとソートリーダーは重なるところもありますが、ソートリーダーは単純に考えを持っているだけではなく、個人的な実践の経験に基づいているところが差別化されるポイントのようです。

また、これらの「役割」の中で、「アンバサダー」と「エバンジェリスト」は自称し、名刺などにも自らの役職として記載することが多いですが、「ソートリーダー」「インフルエンサー」「オピニオンリーダー」「シンカー」は自称することはありません。これらは他人から認定されるものです。くれぐれも名刺に「ソートリーダー」と入れないようにしましょう😝

ソートリーダーになるための3ステップ

最後に、ソートリーダーシップマーケティングを始めるためのステップについてまとめます。前述したように、ソートリーダーになるためには個人的、組織的ないくつかの条件を満たすようにスキルを付け振舞う必要がありますので、以下のステップはあくまでも「差別化できる決定的なビジョンを作って広めるための手法の一部」だと考えてください。

ソートリーダーシップマーケティングを始めるには、ソートリーダーに以下の3つのことを実践してもらいます。

1. 独自の調査・研究を実施する。
2. 領域で重要なトピックについて見解 (Point Of View, POV)を持つ。
3. 様々なコミュニケーションチャネルを開拓して読者に領域の最新トピックを提供し続け、プレゼンスを保つ。

表の顔にはソートリーダーに立ってもらい、裏方仕事はマーケティングチームが支援をする形でチームワークで実践することになります。この3ステップは型としてはわかりやすいですが、様々なPOVを作成し続けプレゼンスを出して保つのは、実際には結構大変です。まずその領域で多くの人に認知されるまである程度時間が掛かります。ソートリーダーとそれを支えるマーケティングチームがうまく連携しながら活動を比較的長期間継続する必要があります。それには、この活動を支えるマネジメントやソートリーダー自身のソートリーダーシップ活動に対する理解がとても重要になってくるというのが個人的な感想です。

最後までお読みいただきありがとうございました!では、また!

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