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カネナリサダオの人生


皆さんこんにちは!

私は普段市の老人ホームでお年寄り達のお世話をしている女です。

先日、うちの老人ホームに金成貞夫(カネナリサダオ)さんという男性が新しく入居してきました。
金成さんはまだ50歳で、老人ホームに入るにはまだ早いような気がしたのですが、まあそれぞれ家庭の事情があるので、そこは気にしても仕方ないかと思っていました。

しかし、入居してからの金成さんの行動は目に余るものがありました。
毎月行われる運動会では持ち前の若さを生かし、全競技ダントツ優勝。
朝食バイキングでは持ち前の若さを生かし、他の人が来る前に一人ですべての料理を平らげてしまったり、
さらには持ち前の若さとスタミナを生かし、施設最年長のヨネさんを口説いてセフレにしたりなど、大暴れです!

彼は持ち前の若さで、老人ホームを支配しだしたのです。


さすがに見かねた私は彼に注意しました。

「金成さん、もう少し配慮を持っていただけませんか?どんな事情でそんなに若くしてここに入居されたか知りませんが、皆さん年上なのですから、敬意を持って接してください」

すると彼は、ニヤっと笑い、こう返してきました。

「俺は別に事情があってここに来たわけじゃない。来たくて来たのさ」

「来たくて来た?どういうことですか?」


「夢だったんだよ。
若いうちに老人ホームに入って無双するのが」


私は愕然としました。
こいつ、初めから老人たちを蹂躙するつもりで入居していたのです!

「やめてください!どうしてそんなことを」

私は声を荒げると彼は少し遠い目をしながら語り始めました。


「俺さ、昔は頭も良くて運動も得意だったんだよ。学校の成績はいつも一番で地元じゃ神童扱い。まさに無双状態だった。

しかしその後、高校、大学と進学するにつれて、俺は埋もれていった。世界は広かった。田舎では天才扱いだった俺も、東京では普通だったのさ。

でも俺にはそれが許せなかった。あの頃の栄光が忘れられなくて、俺はプライドとナルシズムのバケモンになっていたんだ。

一番じゃなきゃいけない。
そんな気持ちだけが俺を突き動かした。

そんな俺がまず最初にしたのは、高校への入り直しだった。大学を卒業した俺は年齢を偽り、高校に再入学した。
案の定クラスで成績は一番になれた。
しかし、運動面はそうはいかなかった。

もっと、確実に俺が無双できる場所を…。
そう思った俺は次に、保育園に入りなおした。

そんなことできるのかって?
私立の保育園なんてのは所詮、園長先生の持ち物に過ぎない。園長と仲良くなりさえすれば簡単なことさ。

本当は25歳、身長178センチの俺だったが、"カネナリサダオくん 4歳"として入園し、無双した。あれはすごい無双だったよ。あぁすごかった。何をするにしても文字どおり赤子の手を捻るように無双できた。おねしょの量でも格の違いを見せつけてやったさ。

しかし、親からのクレームによって俺はすぐに退園を余儀なくされた。

その後も俺は自分が無双できる環境だけを探し続けた。

日本語学校に留学生のフリをして入学し、日本語の天才として無双したり、
動物園の猿山に猿のフリをして侵入し、人間の知恵を使って無双して猿山の王になったり、
パン屋にパンのフリをして並び、喋るクリームパンとして話題をかっさらい無双したりした。

40歳の頃には少し趣向を変えた方法で無双をはかった。
ガソリンスタンドなのに併設されているカフェのメニューに力を入れたり、
焼肉屋なのに会計後に渡すガムにこだわったり、
コインランドリーなのに自動販売機のレパートリーを無駄に揃えてみたり、
「なんでそっちに力入れてんだよ」って部分にこだわることで業界でオンリーワンの存在となり、無双した。

でも、どれもしっくりこなかった。やはり、大勢の人間の中で圧倒的な能力で無双する、あの感覚じゃなきゃ満足できない。

そう思った俺が行き着いたのが、若くして老人ホームに入るという方法だったのさ!
その中でもここは日本で一番若く、50歳から入居可能だった。俺は10年間ひたすら我慢し、そして50歳になったその日に、ここに入居したってわけさ!」


話し終わった彼の頬を、私は力一杯ビンタしました。
「あなたは最低です!恥を知りなさい!もうここからは出て行ってください!」

「言われなくても出て行くさ。もうここでは十分無双したからな。俺はまた次の場所に行く」

「別の老人ホームに行く気ですか!?そんなの許しません!全国の老人ホームに連絡してあなたをブラックリストに入れてもらいます!」

「落ち着けよ。老人ホームじゃない。俺は、アメリカに行く!」

「アメリカ!?」

私は混乱しました。50歳の日本人がアメリカで無双できる場所など、思いつきません。

「実は40歳の頃に始めたガソリンスタンド併設のカフェで出してるオリジナルチキンがすごい好評でな。チキンの本場アメリカに行って店を出し、無双してやるのさ!」

「チキン!?そんな、無茶です!金成さん!」

「金成じゃねえ!カネナリサダオという名前はもう捨てた。

今日から俺はアメリカ人!


名前は、カーネル・サンダースだ!!





そう言って彼がアメリカのケンタッキー州に旅立ったのが今から約70年前のこと。

その後、ケンタキーフライドチキンが世界中でチキン界の王として無双したのは皆さんもご存知の通りでしょう。


当時は老人ホームの若手職員だった私ですが、今となっては老人ホーム入居者最年長のおばあちゃんです。

ところで今日、新しい入居者が入ってくるらしく…あ!あの人です。
なんだかまだ若くて、かっこいい...。

久しぶりに少し胸のトキメキを感じました。


〜終〜





参考

KFCは元々、カーネル・サンダースが経営するガソリンスタンド併設のカフェ「サンダース・カフェ」で出していたチキンが発祥でした。

今日、ケンタッキーにしなぁい?

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