「二十歳の頃」№12 母にきく

母にインタビューした。高卒で二十歳の時は会社勤めをしていた。メンタルは弱いけど、気の強い人だったようだ。(聞き手・渡辺彩=2年)

――二十歳の自分を一言で表すとしたら

 少しだけ自分と向き合い始めた頃、かな。中身スッカスカやなって、やっと気づいてん。「それまではまじで流されて生きてたな、周りに」って思い始めたな。ちょうど仕事変えようとしてた時期やってん。でもさ、今みたいに転職サイトとかあったわけとちゃうし、親に聞けるような関係でもなかったから、まず何から始めればいいのかってところからスタートしたな。

――やめようとしたのはどんな会社?

小さい製造系の企業の一般事務やな。OL。なんで勤めたかというと、家から近かったし、基本給が自分の(求める)ラインを超えてたからやな。ほんまそれだけ。その会社が奈良の支部とくっつくことになってん。「え、遠」ってなってやめた。家からの近さで就職してもうてたから。

――通勤じゃなくて、一人暮らしをしようとは?

家を出たかったから一人暮らしも考えたけど、まあ無理やなって。十八で車買ってもうたから維持費を払いながらとなると、そんなお金もないし。そもそも親が過保護やから出してくれんやろって。そこまでしてその会社がいいんかと言われると全然そんなことないし、直属の上司が今でいうパワハラやってんな。今だと「これぐらい我慢できたやろ、自分ガキやったな」と思うけど、当時は無理やった。転職するなら若いほうがええわとすっぱり辞めたな。

――その会社に思い入れはなかった?

全くなかったな。皆より内定決まるの遅かってん。ギリギリまで、(看護師の)専門(学校)に行くか迷とったから。看護師になりたかってん、ほんまは。でも親に言い出せなかった。迷っていたことも言ってない。それと、一つだけココいいなって思う企業があってんけど、進路担当の先生に「別の子に譲ったってくれへんか」と言われてんよな。それでなんかもうええわってやる気なくしてもうてんな。ガキよなあ。

――いつから専門学校に行こうか迷い始めた?

ほんまは小学生の時から看護師に憧れててん。唯一興味を持った職業やった。でも、中学の時に体を壊して、運動部をやめなあかんくなって、担任の先生に「あなたじゃ無理よ、看護師は」とキッパリと頭ごなしに否定されて。当時、心も体も弱かったからそこで折れてもうてんよな。まじで打たれ弱かってん。胃に何回も穴空いたしな。努力すればよかったのに何もせんかってん。なんとなくなりたいなあって高校まで引きずっててんな。

――親(私の祖母)に言わなかったのはなぜ

専門に行くとなったら、准看護師と正看護師の違いはあるとしてもそれなりにお金がいるわけで、高校入ったときからお金をためとかないと無理なんよね。それもしてなかったし。きっと、おばあ(私の祖母)は、あたしが素直に「行きたい」と言うてたら何としてでも行かせてくれたと思うよ。でも、申し訳なくて言い出せなかった。片親でずっと働いてくれてたの分かってたし、素直に何でも言い合えるような仲じゃなかったから。でも、おばあがこのこと知ったらすっごく寂しいと感じると思う。自分が親になったから分かる。どれだけ大変なことだったとしても、子どもから「〇〇がしたい」「〇〇やってみたい」って言われないのはホンマに寂しいことやもん。自分の子どものやりたいことをかなえてあげれるのって、親の特権やからな。

――今でも祖母には打ち明けていない?

1年前ぐらいにポロッと言うたかな。ホンマに最近の最近、30年ぐらいたってやっと打ち明けたというか、昔話をしてる時に「あたし当時は専門も考えててさー」って話したな。すぐ流したけど。

――専門学校に進まなかったこと、後悔してない?

それはない。(母に)言わなかったことも後悔してない。言わないって決めたのは自分やからな。自分で決めた道やもん。それをぐちぐち言うのはちゃうわ。自分の決めたことには責任持たなあかん。じゃないと、自分で自分を否定してしまうことになる。

――転職した二つ目の会社はどうやった

よかったで。女子のいざこざもないし。入ってすぐに震災(1995年の阪神・淡路大震災)が来てさ。会計担当の人がおってんけど、家つぶれて会社やめてもうてんな。そんな大きい会社じゃないし、あたし簿記持ってたから、そのまま引き継ぐしかなくて。プログラミングと事務、発注で雇ってもらってたのに、経理と会計もしなあかんくなってもうて。経理をしていたからそのまま営業事務も任されるようになって。結局、プログラミング、事務、発注、経理、会計、営業事務をやってたな。ばり大変やったけど、任されんの好きやし、ずっと動いて忙しくしてたから楽しかったな。残業代もしっかり出てたし。何より17時回ったらビールでてくるねん。「あたし車やから飲めません」と言うてたけど、まあ自由やったからなあ。「乙」。言うて飲んでたな、みんなで。でも2年後に結婚して、すっぱりやめたけどな。中途半端にしたくないから。それやったら、会社やめて自分の好きなバイトでもしよーって。まあ楽しかったわ。

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