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ヘベレケ日記: 拝啓、Sントリー様

皆さまごきげん酔う。
今宵はどんな1杯をお楽しみでしょうか。

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お久しぶりの投稿です。フォローしてくださってる皆さま申し訳ありません💦(投稿頻度を上げていきたいと今いろいろ練っております…)
今回はちょっとした思い出話を…。

3日前の2024年5月1日、とあるニュースが出ました:

泣く子も黙る(?)ビームサントリー(Beam Suntory Inc.)が、「サントリーグローバルスピリッツ(Suntory Global Spirits Inc.)」へ社名変更したというニュース。世界のお酒に関するニュースをまとめて配信しているSpirits Businessでもトップで扱われました:

思い起こせば、サントリーがビーム社を買収したのは10年前、2014年5月。その発表があったのは同年1月のことでした。私は当時のスコッチ文化研究所(現ウイスキー文化研究所)に所属して2年目。この時のことはとても鮮明に覚えているのです。

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その日の仕事を終えて、地元へ戻ってきたのが夜の21時ごろ。コンビニの前を歩いていたら、当時我々を担当してくれていたサントリー広報部のTさんから突然電話がかかってきて、「この後ちょっと大きなリリースが出ます」という話をされました。この時間にTさんから電話が来るのは非常に珍しいことで、わざわざその連絡をくれたと言うことは相当何かエポックメイキングなことなのだろうという予想がつきました。予想はついたのですが…

電話を切ってひと息ついたころ、サントリーから件(くだん)のリリースが出ます。それを見て私は思わず驚愕したのでした:

サントリーホームページ「サントリーの歴史」より

サントリーホールディングスが、Jim Beamなどを有するBeam Inc.を1.6兆円で100%買収するというのです。

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ラッキーなことに、これがどの程度の規模で何を意味するか、私は比較的すぐ理解ができました。それは私のそれまでのキャリアが大いに役立ちました。ソフトバンク株式会社(現ソフトバンクグループ株式会社)で6年のキャリアがあり、ボーダフォンの買収プロジェクトに参画した経験のあった私は、このサントリーのリリースの「100%」「1.6兆円」という単語に飛びつきました。ソフトバンクが2006年にボーダフォンを買収した時、当時史上最高と言われた買収額は1.75兆円。

このボーダフォン買収プロジェクトは、20年近く経った今でも私のキャリアの中でのハイライトであり、この時の経験というのはもう2度と、例え願っても簡単には機会をもらえない貴重なものでした。無我夢中で終えた超短期ディール、当時の財務部のメンバーは連日徹夜で、毎日同じ服を着たままゲッソリしていたのをよく覚えています。私の役割は主に、ソフトバンク(持ち株会社)の下に複数の子会社を「作って」「持ってきて」「くっつけて」「繋げる」という会社法に則った手続きを完了することだったのですが、あまりにも大きな取引で、自分がたった今作った議事録がウンゼン億円を動かしたんだ…と思わず手が震えたりしたものでした。晴れて全てが終わって抜け殻になった頃には、もはやその他にやってくる業務はどれも小粒に見えて(笑)、「いつの間にか色々なことができるようになり多少のことには動じない自分になっていた」ことに自分自身で驚いたほど、究極の集中力で潜り抜けたプロジェクトだったのでした。

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話が逸れました。
このソフトバンクの巨額買収劇が1.75兆円なら、サントリーによるビーム社買収は1.6兆円。どの程度の大きさの買収かがわかります。そしてポイントは「100%完全子会社として買収」。Jim BeamやMaker's Markなど、ウイスキーだけでも数えきれない銘柄を持つBeam社を、サントリーが完全子会社化するということは、ウイスキー業界にとって非常に大きな話題であることは間違いないのです。

私はこの時、家路を歩きながらすぐにボスに電話をしました。

「サントリーがビームを買収です。しかも100%です」

この時のボスの反応は、興奮気味の私に対し割と「ふーん。そうか、まあわかった。ありがとう」という感じで(笑)、正直「あれっ、ちょっと的外れだったかな…?」と思うぐらい拍子抜けしたのですが、恐らくボスはこの時、短い電話での会話を切ってからジワジワとそのトピックの大きさを実感したことでしょう(笑)。私は後にも先にも、あんな電話をあんな時間に、わざわざボスにしたことはありません。あの時の自分の行動は全く間違っていなかったと今でも思っています。

当時のボスのブログにも私の電話のことがサラリと書かれています(笑):

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とまあ、だからなんだ?と言われてしまうとそれまでの話なんですが(笑)、このニュースの衝撃をきちんと嗅ぎ取った自分のことは、それなりに誇りに思っています。「ビーム社を買収」という言葉で、Jim Beamがサントリーのものに!!みたいなイメージばかりが取り上げられましたが、ビーム社を買収するというのは単にJim Beamブランドだけのお話ではまったくないのです。この買収によってサントリーは(当時)世界第3位の酒類製造会社となり、「5大ウイスキー全てをポートフォリオに有する世界で唯一のスピリッツカンパニー」になりました。

2014年5月15日、買収発表会見の様子

つまり、世界で優秀なウイスキーを造ると言われる5つの生産国「アイルランド」「スコットランド」「アメリカ」「カナダ」そして「日本」これらの5つのウイスキーを自社で全て保有しているのは、世界広しといえどもサントリーのみ、ということです。スピリッツカンパニーとして世界最大であるディアジオでさえ、当時5大ウイスキー全ては持っていませんでした(※その後ディアジオは、2021年に鹿児島の小正嘉之助蒸溜所とパートナーシップを結び、ジャパニーズウイスキーをポートフォリオに獲得しています)。

2015年2月3日、サントリーはその自社ポートフォリオの5大ウイスキーをピックアップし、各国の生産者を一堂に集めたセミナーを実施しました。このような切り口でのイベントは、当時サントリーにしかできないことだったわけです。(今でもこのようなことができる会社はないかもしれません)

右から2番目がJim BeamのMaster Distiller、Fred Noe

買収から2年後の2016年の5月には、六本木の屋外で5大ウイスキーを楽しめる一般向けのイベントも実施しました。

ミッドタウンパークにビームサントリーのロゴが輝いた日
5つの生産国のウイスキー。全てサントリー傘下の銘柄
5杯のハイボールセットで味の違いを楽しんだイベント

サントリーが世界レベルで持つ力というのがどういうものか、もしかしたらこれは日本人が一番疎いかもしれません。この会社の飲料というものがあまりにも身近にありすぎて、意識していない人が多いのではないかと思います。

1923年に日本初のウイスキー蒸溜所「山崎蒸溜所」ができてから100年が経ち、ビーム社の巨額買収劇から、はや10年。ついに「ビーム」という名前が社名から消えることになりました。「グローバルスピリッツ」という堂々の名称に大いなるプライドを感じます。これからも日本の誇る巨大料飲会社として、ウイスキー業界もリードしてくれることでしょう。

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ちょっと今回の社名変更のニュースは感慨深く、色々なことを思い出したので、思わず想いを綴ってみました。

皆さんがお好きなサントリー系列のウイスキーは何でしょうか?
私は…うーん、ボウモア・マッカラン・ティーチャーズ・カネマラ・バランタイン・リザーブ・六に翠……挙げればキリがないです!!

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snoop-kのヘベレケ日記、今回はこの辺で。
また次のグラスでお会いしましょう。酔い1日を!

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